恥ずかしながら、自在置物という日本の伝統工芸を知らなかった。金属を素材とし、昆虫や爬虫類、動物などの置物を精巧に作り上げるのだが、ただの置物ではない。その節々が本物同様「自在」に動くよう緻密な細工を施すことから、その名が付いている。つまり、最高度の技が要求される国宝級の工芸なのだ。
ウィキペディアによると、江戸中期頃から甲冑などの武具の需要が減ったことから、甲冑師が民具などを作っていく中で生まれた純粋な工芸品だとある。現存する最古の自在置物は、18世紀初頭のもの。ヴィクトリア&アルバート博物館には17世紀末の作品の一部が保管されているそうだ。
自在置物は国内での知名度は今ひとつで、20世紀も後半になってやっと注目されるようになったそうだから、物知らずの謗りは受けなくてよさそうでホッとした。根付などもだいたい海外において評価が高いという事実があり、自在置物も同様に海外の好事家に大変人気がある品ということで納得した次第。
つまり本物の自在置物を見る機会というのは、実は稀であるということ。そしてその、貴重なチャンスがロンドンにやってきている。しかも自在置物を現代に継承する、ほぼ唯一の金工師による最高の作品群を間近に鑑賞するチャンスなのだ。
この4月17日から5月14日まで、ベイカー・ストリートの大和日英基金で自在置物の現代作家、満田晴穂(みつたはるお)さんの作品展が行われている。
満田さんは自在置物を称して「金属による命の再現」だという。確かに・・・作品を見ていると本物然とした様子に驚嘆させられる。しかもその節々がすべて本物と違わず動くとなると・・・やはり命を吹き込まれた金属、ということになりそうだ。そしてこの緻密さは、日本でしか生まれ得ない工芸のような気も・・・。
満田さんの素晴らしい作品を見られる展覧会は14日まで! 5月10日(金)の夕方は、満田さんご本人によるアーティスト・トークを開催! 専門家たちも集まり、熱いトークを聞くことができそう。この優れた日本の伝統工芸について、もっと知りたいと思われた方はぜひお運びいただきたい。
***** JIZAI by Haruo Mitsuta *****
☆会場:Daiwa Foundation Japan House
http://dajf.org.uk
13/14 Cornwall terrace, London NW1 4QP
☆会期:2019年4月17日 – 5月14日
☆開館時間:月〜金 9:30 – 17:00
☆入場無料
☆☆☆アーティスト・トーク☆☆☆
5月10日(金) 18:00 – 20:00
満田さんが来館され、その他の専門家の皆さんとトークをされます! 自在置物について、その技について、詳しい話を聞きたい方はぜひ参加してみてくださいね。
予約はこちらから(右コラム下):http://dajf.org.uk/ja/events/current-exhibition
満田 晴穂 Haruo Mitsutaプロフィール
鳥取県米子市に生まれる。2008年東京藝術大学美術研究科修士課程彫金研究室修了。授業の一環として実施された古美術研究旅行で自在置物師・冨木宗行と出会い、生来の虫好きから自在置物作家を目指す。在学中より制作していた自在置物が2009年の本格的なデビュー展より多方面から注目を集める。2010年よりラディウム(東京)と日本橋三越にて毎年の個展。「巧術」シリーズ展(スパイラルガーデン他)毎回出展。「六本木クロッシング2013」(森美術館)を皮切りに美術館でのグループ展にも参加、個展多数。「2016年度日本文化藝術奨学金」において「第8回創造する伝統賞」受賞。その作品群は徹底的な観察眼に裏打ちされた驚異的な技術によって生み出される。江戸時代から続く「自在置物」作りのほぼ唯一の継承者。http://m-haruo.com