工事もいよいよ佳境です。 以下、これまでのステージのおさらいです。
イギリスでは家具・什器・備品のことをFF&E (Furniture, Furnishings & Equipmentの略)と言います。 ここが建築家とインテリアデザイナーが最も違うところで、従来は建築家はクライアントのための内装資材の調達代行を行わず、デザイナーは行うことが多かったのでした。 ところが、近年、先進国ではすでにある建造物ストックの有効活用が重要になり、ハコモノではなく中での体験の重要性への認識が高まるに従い、建築家とインテリアデザイナーの境界が非常に曖昧になってきています。 インテリアデザインも行う建築家や、インテリアアーキテクチャー(建物内部の建築)の専門家が増えています。 私の事務所も増築や大規模な改築など構造に手を入れる建築インテリアが専門ですが、調達代行も行います。
6. FF&E (Furniture, Furnishings & Equipment)調達
デザイナーがクライアントの代わりに調達する場合と、仕様書に指定するだけでクライアントが直接調達する場合があります。 イギリスでインテリアデザイナーが活躍できる理由のひとつにメーカー側が最終消費者より建築プロジェクトのプロであるデザイナーや建築家と取引することを好み、大きなデザイナーディスカウントが存在することがあります。 ディスカウントが10%からメーカーによっては50%と大きいので調達額によっては、デザイナーを雇うことによって得られるディスカウント額だけでデザインフィーをカバーするケースもあります。
プロジェクトのサイズによって何百・何千アイテムに渡る備品、床材など大きい物から引き出しのノブなど小さな物まで選び抜かれた物を信頼できるサプライヤーに発注、納期管理、配送スケジュールのコーディネートなどを行うのがこのステージでの仕事です。
例えばソファひとつ取っても、ソファのファブリックをオーダーし、ファブリックに難燃性スプレーを処置する工房に配達させ、スプレーでコーティングしたファブリックをソファメーカーに送り、トリミングやクッションが必要であれば、トリミング、クッションファブリック、クッション中身をそれぞれ別のメーカーに発注しソファーメーカーに配達させ、完成したソファをまた最終アドレスもしくは一時保管の倉庫に配達させるのです。 ファブリックはメーカーから工房に直接配達させるので間違いがないか写真、もしくは切れ端を送付してもらい確認もします。 ソファ1台にかかる発注・配達・会計の手間は大変なもので、これを何百・何千に渡るアイテム全てで行うのです。
ハイエンドのクライアントは目が肥えているので「世の中にたったひとつだけのもの」を好みます。 結果、家具や什器はオーダーメイドになり、職人さん・大工さんの工房まで足を運び、木や石などの素材を選びます。 マーブル(大理石)など高価な資材で大きなフィーチャーにしたい場合はイタリアの採石場まで飛ぶこともあるそうです(残念ながら私はそのようなプロジェクトをまだ手掛けたことがありませんが・・・)。
この連載でご紹介している私の自宅キッチンのバックスプラッシュ(水はねや油はね除け)はマーブルのCarraraですが、この採石場から取れたものです。
ロンドンにある石のホールセラー(卸屋)の在庫の中からこのマーブルのスラブを選びました。
そして、石の加工屋さんに加工し設置してもらったのがこちらです。 特徴的なvein(縞模様)が出ているのがご覧頂けますか?
素材のソース(原点)まで遡って指定できるのは楽しいものですが、このステージではデザイナーの実力はいかに幅広く質の高いサプライヤー・職人さんとのネットワークを有しているかにかかっています。
滞りなく全てのFF&Eを手配・納入し、ビルダー及び他専門家が仕様通りにクオリティの高い仕事をしたところを見届けたら、いよいよ工事終了です。
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