新春から王室を震撼させたメグジット、どうなる?

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新しい年が明けてまだお屠蘇気分が許される3日に、米軍の攻撃によってイラン革命防衛隊のソレイマーニー司令官がイラクで殺害され、中東情勢が一挙に悪化、世界に緊張が走りました。その数日後、今度は英王室に身内から落とされた「爆弾宣言」は、皆さまご存知のとおり波紋を呼び続けています。今回のサセックス公爵ハリー王子とメーガン妃による「主要王室メンバーとしての公務から退く意向の表明」に対しては、英米ばかりか各国のメディアの関心も半端なく、ああだこうだと連日記事が発信されるので、その量たるやとてもじゃないけどフォローしきれないほど…。週明け13日の月曜日には家族会議が開かれ、エリザベス女王が解決策を話すのではないかといわれていますから、つまり明日には今後の情勢がかなり明らかになるようなのですが、そのまえに予備知識として、背景をかいつまんでご紹介することにいたします。

こういう分野は、実際、タブロイド紙が得意とするところです。ガーディアン紙の9日付けの記事では、そんなタブロイド各紙の情報も交えて、「メグジット危機」にいたるまでの背景が分かりやすく解説されていました。それによると、数か月間考え抜いていたというハリー王子は、この件については、カナダに6週間滞在した休暇から帰国後すぐに王室内で話し合いを持ちたかったものの、「多くの複雑な問題にはさらなる考慮が必要、まずは父親に相談してから」とエリザベス女王には断られていたのだそう。それでハリーはクリスマス前に、北米での生活を本格化させたい、という話を父親のチャールズにしたところ、「もっとよく考える時間が必要」と告げられたため、父親に今回の「意向」についての草案をメールで送っていたのだそうです。7日、カナダから帰国したハリーとメーガンは、(そんな大それた野心を胸に秘めていたなんてまったく知らない)公の場にも姿を見せ、翌日の8日、自身のウェブサイトインスタグラム上で「意向」を発表。問題を大きくしたのは、父親や兄のウィリアムへそれを伝えたのがサイトにアップする10分前という、スーパー・ショートノーティス。加えて、まだ具体的に決まっていない段階では公にしないでほしい、というエリザベス女王の意に反し、全世界に知らせてしまったことでした。ハリーとメーガンが93歳の女王陛下を「コケ」にした、というさえ聞かれ、ともかく、王室の面子がふたりに傷つけられてしまったのです!

昨年も王室にはいろいろあって、エリザベス女王にとって「バンピー」な年だったのに、今年は新春から「ロッキー」な年になっています。ロイヤルファミリーのお怒りは察するに余りありますけど、ともかく13日には、スコットランド滞在中のチャールズ、ケンジントン宮殿からはウィリアム、そしてウィンザーの(240万ポンドの税金を使って改装した)フログモア・コテージにいるハリーが、エリザベス女王が滞在されているノーフォーク州のサンドリンガムの別邸に集合。王室の公務を退き、北米と英国をいったりきたりの生活にして経済的にも自立したい、というハリーとメーガンが8日に発表した計画に対しては、すでに王室職員と英政府、(ふたりが生活の場を設けるらしい)カナダ政府の代理人とのあいだで協議が重ねられており、新時代のロイヤルカップルとしての「プログレッシヴ」な役割がどう可能かを示しながら、話し合われるもようです。アーチー王子をカナダに残していたため、メーガン妃は発表の翌日にはさっさとカナダに戻っていて、この話し合いには会議通話を利用して参加するらしいものの、アーチーのみならず2匹の愛犬もカナダで待っていたことから、当分あちらに腰を落ち着けるのではないかといわれています。

私生活を守り、面倒な王室を切り離して自由に暮らす、というハリーとメーガンの一大決心には、ハリーのトラウマになっている悪質なタブロイドメディアへの憎悪が根底にあるようで、黒人との混血者であるメーガン妃への攻撃がまた、英国脱出に拍車をかけたようです。けれど今回の件で、離婚歴のある米国人の年上の女性が王子を感化、とくれば「第二のウォリス・シンプソン夫人」としてさらに悪人扱いされるでしょうに…と心配も。王室メンバーの警護には莫大な税金が費やされていて、サセックス公爵家も例外ではなく、カナダに住むとなればカナダ国民の税金が警護の費用に充てられることになるため、反発もあるようです。ところで現在、サセックス公爵家の経費の95% は父親の収入から、5% は王室助成金として税金でまかなわれているそうで、これを断って、ふたりがどうやって経済的に自立してセレブな生活を送るというのかしらん?という単純な疑問がすぐにわきます。が、平民の心配は無用のようで、メーガン妃は野性の象を保護する慈善事業に協力するため、声の出演でディズニーと契約したといわれていますし、こういったオファーは今後も引く手あまたでしょう。

あるアナリストによると、商標登録を申請しているふたりのブランド「Sussex Royal」は、父親チャールズのブランド「Duchy」よりもはるかに価値があるのでウンと稼ぐはず、というのです。ただし、お手本となるセレブはキムとカニエのカラダシアン=ウエスト夫妻ではなく、ミッシェルとバラクのオバマ夫妻だそうで、「プログレ・ロイヤルカップル」が将来どんなロールモデルになるのか、若いふたりを暖かく見守っていたいと思います。ああだこうだといわれながらも、王室に生まれながらそういった野心を実現させる可能性があるのは、まあ、時代もあるでしょうが、ハリーが長男ではなく王位継承順位6位の立場だから、許されるのでしょう。UK NEWS FOOPLA のコラム書きとしては、メディアの「ああだこうだ」の部分がじつは面白いものの、ふたりにとって外野の声はさぞかしウルサイことにちがいなく、なかでも余計なお世話と思ったはずと確信するのが、ほかでもない(メーガン妃の嫌う)トランプ大統領がFOXニュースに出演したさいに「メグジット」についてたずねられ、「悲しいね。これまで完璧にやってきてわたしが尊敬している女王に、こんなことは起きるべきじゃなかった」という、珍しく人間的な同情を表したコメント。かもしれません?

わたしは、そのマッドキング・トランプが初夢に出てきて、目覚めの好くない2020年の幕開けでした。みなさまのお正月は、いかがでしたか? 今年もよろしくお願いいたします!

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About Author

京都東山の生まれ。19歳から雑誌の仕事(編集者/スタイリスト/コーディネーター/ライター)に携わる。英国では、憧れのフローリストの下での花修行や、尊敬するアーティストが学んだカレッジで現代アートを勉強し、通算11年間のロンドンライフをエンジョイした。オーサカン(大阪人)となった今も、“心”はロンドナー。変わらぬ日課として読むUK のオンライン新聞から、旬なニュースをあぶそる~とロンドンのためにピックアップ。帰国後は本の翻訳を手がけ、この5月に『ヴェネツィアのチャイナローズ』(原書房)、2014年7月に『使用人が見た英国の二〇世紀』(原書房)、ほかを上梓。ロンドンで目覚めた世界の家庭料理チャレンジ&花を愛でる趣味ブログserendipity blogは、開設して11年目に突入。

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