なんでイギリスは

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usagi


サ◯ンラップ・◯レラップ。日本人にとってラップは、包丁や冷蔵庫のようにキッチンにはなくてはならないものでございます。ご飯を多めに炊いたら熱いうちに包んで冷凍したり、ラップに包んでレンジで調理をしたり、一度切って冷蔵庫に入れるものには、まずラップでございます。しかしわたくしの周りのイギリスの方々は、どういうわけかあまりラップをご使用にならないのであります。

先日お話しいたしました、レモンティー好きのマーティンさん。冷蔵庫には、いつも二つに切って半分絞りかけたレモンが、ラップもビニール袋もかけず、切り口からどんどん水分が蒸発して、レモン色の皮が濃い黄色となり、切り口も茶色を帯びて鎮座しているのであります。

実はわたくし、以前に日本のラップをこちらのスーパーマーケットに持ち込んで、売り出したらいいのではないかと考えたことがございました。なぜかというと、こちらで購入できるラップはどれもこれもとんでもなく使いづらいのでございます。こちらで長く暮らす日本人の方々は、帰国のたびに日本のラップを数本持って帰られることがめずらしくありません。わたくしもその一人で、イギリス人の友人にお土産として一本進呈したことがございます。ところが、丸二年経った今でも一向に使い終わらないようなのです。どうやらイギリスのラップが使いづらいから使わないというのではなく、たとえどんなに優秀なラップであってもあまりご用がないらしいのです。

あえて申し上げれば、ラップよりもアルミホイルの方が使用頻度が圧倒的に高いです。クリスマス前の動物園で、お仲間のボランティアさんが自分で焼いたクリスマスケーキをアルミホイルに包んでくださいました。ホイルをかけて調理するオーブン料理も少なくありませんし、パーティーのデザートの差し入れのプディングにはやはりアルミホイルがかかっておりました。冷蔵庫を覗くと、やはりアルミホイルでふたをした物がたまにあります。

あぁ冷蔵庫といえば、日本人でしたらまず冷蔵庫に保存するだろうという物も、キッチンの戸棚に入っていることが多いのであります。

ケチャップ、ソース、バターにジャム。瓶には『開封後は冷蔵庫に保存するように』とちゃんと書かれています。ドイツ人のアレックスはご主人がイギリス人なのですが、この話をしたら声を裏返しにして「そうなのよ!卵もそうなのよ!」と。習慣で戸棚にしまってしまうこともたまにあるようですが、ご主人はアレックスの意見に従って、ケチャップやジャムを冷蔵庫にしまうことを了解したそうなのですが、卵に関しては頑として譲らず、何があっても戸棚で保存することがお約束になっているそうです。確かにスーパーの卵は室温の棚に置いてありますが、『お買い上げ後は冷蔵庫に保存してください』と書いてあります。

「でも何が恐ろしいって、バスルームにカーペットが敷いてあることだわ」

そうなのです。今は随分改装されてタイルや木の床が増えてきましたが、イギリスのバスルームにはカーペットがしつらえてあるのが通常でありました。トイレも一緒に備え付けてあることが少なくありませんから、殿方がご使用になる際は飛沫がカーペットに飛び散るのでございます。そして、これはご存知の方も多いと思いますが、イギリス人の多くの方々は、シンクにお湯をため洗剤を入れて食器を洗い上げ、そのままゆすがずにバスケットに積み重ねるのです。

「なんでイギリスにいるの?  ドイツに帰りたいと思わない?」
「あなたはなんで日本に帰らないの?」

いくら考えても理解しがたい眉をひそめたくなる習慣が、イギリスにはたくさんございます。外国人が集まると「なんでイギリスは」という疑問が数限りなく出てきます。なのに居残る人間は、なぜかイギリスが大好きなのでございます。

th_jam-buter

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洋画とグラフィックデザインを専攻したのち、イラストの道へ。縁あって英高級紙「The Times」の挿絵イラストを担当。同紙から数多くの依頼を受け、新聞のタイトル欄にエリザベス女王と並んでイラストが印刷される。児童福祉に関わる団体をはじめ、クライアント・ベースの仕事をするフリーランスのイラストレーター。4年に渡ってロンドン動物園で週に一度ボランティア活動にいそしんだ経験があり、動物イラストは本物からのインスピレーション。

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