ローラの憂鬱

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usagi


すでに何度もお読みになっている方には繰り返しになって申し訳ありませんが、お婆さん猫のボビー、二歳の黒猫ローラ、同じく二歳のトマスの三匹の猫を友人が飼っております。友人が泊りがけで出かける時は、この三匹の猫のお世話を頼まれるのですが、今回は朝のうちに「実は一匹具合が悪いのよ」と連絡が参りました。てっきりお婆さん猫のボビーかと思いましたら、なんといつもだったら朝ごはんを食べた途端に飛び出して夜まで帰ってこない、若黒猫のローラの調子が悪かったのです。慌ててダイニングルームに入ってみると、テーブルの上には薬と「万が一病院に行くことになったらタクシーで病院に連れて行ってちょうだい」と置き手紙付きの封筒に入ったお金が。その手紙には「ローラは外にいるけど、ガーデンの椅子に毛布と一緒に座り込んでいて動かないので、夜になったら抱いて中に入れてちょうだい」とも書いてあるのです。

庭に出てみたら、なるほど毛布の上にローラが丸くなって座り込んでいます。でも眠ってはおらずこちらをじっと見つめているので、冗談半分に手を伸ばしたら、なんと頭を撫でさせてくれるではありませんか。これはよっぽど具合が悪いのだな、とかえって心配になりました。夕方肉とチーズに混ぜて薬を与え、雨が降りそうな空模様だったのでそのまま抱き上げて家に入れました。ローラを抱くなんて、朝になったら冷たくなっていたらどうしよう、とますます不安な気持ちを抱えて布団に入ったのですが、その夜は、どういうわけだかトマスが私のベッドに何度もやってきて、枕を揉んだり顔をこすりつけたりやたらと甘えておりました。

さて翌朝、猫のトイレを掃除していたら、誰かのお腹がとんでもなく調子が悪いことに気がつきました。慌てて飼い主に連絡をすると、「それはローラじゃないわ。ローラは室内のトイレを使うことはめったにないのよ。きっとトマスだわ、トマスは2週間前にひどくお腹を悪くしたの」と。なるほど、昨夜トマスはこのトイレの砂を念入りにかき回した手で、私の枕を揉んで甘えていたのかとがっくりうなだれてしまいました。すると今度はお婆さん猫が、たった今トイレの砂を取り替えた時に拭き掃除を済ませた床の上で、ウェッウェッと毛玉を吐き始めました。朝からどんよりとしたお天気でしたが、わたしの心もどうも冴えない1日でした。

翌日の午後、帰宅した飼い主さんから「お腹を壊したのはトマスじゃなさそうだわ。ローラはたぶんネズミか何か消化の悪いものを食べて調子が悪かったらしいの。どうもトイレにあったのはローラのものだったみたい。」と連絡がありました。「ずいぶん調子が良くなったみたいなのよ」。ローラは枕を揉むどころか、人のベッドには決して寄り付かない猫であります。「あぁホッとしたわ、よかったわねぇ!!」と、声を裏返して叫んでしまいました。

th_tabby

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洋画とグラフィックデザインを専攻したのち、イラストの道へ。縁あって英高級紙「The Times」の挿絵イラストを担当。同紙から数多くの依頼を受け、新聞のタイトル欄にエリザベス女王と並んでイラストが印刷される。児童福祉に関わる団体をはじめ、クライアント・ベースの仕事をするフリーランスのイラストレーター。4年に渡ってロンドン動物園で週に一度ボランティア活動にいそしんだ経験があり、動物イラストは本物からのインスピレーション。

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