富めるものはますます富み・・・

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usagi


本日のお話はちょっと重たくなりそうなので、まずは自分の近況報告を。

わたくしは動物が大好きで、ペットのポートレイトを描かせていただいております。同じ犬種でも驚くほどそれぞれの個性があり、オーナーの方々のそれぞれの深い愛情には思わず涙腺が緩んでしまうこともしばしば。大切なペットのポートレイトを依頼してくださる方々には、こんな素晴らしい機会をくださったことを感謝してやみません。日本在住の方々からもご注文をいただき、イギリスから日本に無事に作品が届いたとご連絡を頂くたびに、それは大きな喜びを感じております。もしご希望の方がいらっしゃいましたらお問い合わせください。
https://www.ayatokita.com

Green print

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さて、階級社会という言葉はみなさんご存知だと思います。日本には格差社会はありますが階級社会はございません。私も長いことロンドンに住んでおりますが、何年住んでもイギリス人ではなく日本人ということには変わりはございませんし、どの階級にも所属いたしません。イギリスの階級とは大きく分けるとUpper Class(上流階級), Middle Class(中流階級)、そしてWorking Class (労働者階級)に分かれます。Upper Classは王侯貴族や名門の大地主(人口の0.2%)とUpper Middle Class(人口の3%)この二つを合わせて上層階級と呼ぶのだそうです。Upper, Middle, Working Class はさらにそれぞれ三階層に分割されて、合計9層あるのだそうです。’Middle Class’と日本の『中流』とは語感は似ていますが、意味合いは全く違います。日本人の言う「ウチは中流ですから~」には、謙遜を含んだ言い回しであることが多いでしょう。もちろん持っている資産だけが階級を分けるのではありませんし、 ‘Middle Class’という階級の中でもまたさらに細かく分かれるのですが、一般的に言う日本の『中流』に比べると体操裕福な方も少なくありません。

LondonのBloomsburyは、London Borough of CamdenからEuston RoadとHolbornの間のエリアを指します。大英博物館の周辺は’Poundshop’ (日本で言う『100円ショップ』)はもちろん無く、もし’Poundshop’ができるような話があると、住民の猛反対が起こるのだそうです。Londonはどこも高いですが、このあたりに住むとなると家賃であれプロパティの購入費であれ、かなりの金額がかかります。日本だったら銀座や代官山、霞ヶ関にだって100円ショップはございますよね。デパートも色々ございますが、特にJohn Lewisは優良なものを適正価格で販売するというイギリスでは最も信頼の置けるデパートであります。もしも他店でJohn Lewisで購入したものと同じ製品が、John Lewisよりも安い価格で販売していたら、John Lewisは差額を返金してくれるすばらしいデパートです。でも販売しているものはある程度優良なものに限るので、もっと安価なものを手に入れたいのなら、安価なものを販売する店に行かざるを得ません。優良店がどこかと聞かれたら、迷うことなくJohn Lewisをお勧めいたしますが、自分に必要なものが安い予算で手に入るところはどこかと聞かれたら、答えは違ってきます。

イギリスの階級社会というものは、それぞれの階級の中で自分に適した居心地の良い生活を大切にするものなのだそうです。HarrodsやSelfridge’sで自分の満足するものを手に入れるか、PoundshopやArgosで許される予算の中で工面して必要なものを調達するか。Harrodsの商品はもちろん美しく、例え同じ商品でも他店より高めのことが多いです。Poundshopはデザインもクオリティもひどくお粗末ですが、お皿はお皿の役目を果たします。それぞれの生活をそれぞれのやり方で居心地よくさせることが基本なので、Poundshopで満足のいくものなど到底得られない階級の人々が多く住むエリアでは、自分たちには必要ない!と大反対が起こるのも当然のこと。でもPoundshopで居心地の良い暮らしを送れる人にとっては、なくてはならないお店です。それにしても日本の100円ショップの品揃えとクオリティの高さには、帰国するたびに目を見張ります。こちらのPoundshopとは比較の対象になりません。

話は変わりますが、イギリスでの子供のバースデーパーティーは、ひどくお金がかかるものだという話をよく聞きます。会場をどこかに借り切って、親戚縁者というよりも子供のお友達を招いてのパーティーを開く親御さんはとても多く、2016年の子供のバースデーパーティーにかかった予算の平均は日本円にすると約10万円、そしてこれはニュースで見たのですが1400万円かけたパーティーもあったんだとか。

先日映画を観た帰りに、友人がお腹が空いたというのですぐ近くのマクドナルドに飛び込んだのですが、そこの地区はあまり感心できる治安の場所では無く、案の定ちょっと面倒ごとがありました。といっても大人ではなく小学校3、4年生くらいの子供たち5人が、友人と座っている私を取り囲んで、指をさしてゲラゲラ笑うのです。絡まれてるんだということはすぐにわかったので無視したのですが、ますます距離を狭めてきて、なおも激しく大笑いするのです。前述の、豪華なバースデーパーティーを開いてもらえるリッチな子供たちとは対極の暮らしをしている子供たちで、自分だけの部屋でスマートフォンでゲームをしたりする生活とは無縁なのでしょう。彼らにとって、これといった理由もなく人を嘲笑うことが傑作極まりない楽しみなのかもしれません。

イギリスの階級の違いは、お金の使い方が大きく違います。Workingの人々は教育にはお金を使わず、Middle Classの人々にとっては、住むところの選択はどんな学校があるのかが第一の優先順位。裕福な家庭の子供は寄宿制のパブリックスクールに通うことでしょう。日本ももちろんそうですが、イギリスの子供の進路は学校によってそれは大きく左右されます。優良な学校に通わすということは、裕福な家庭であれば常識以前の問題ですが、例えとびきり裕福でなくても、厄介な育ちの子供たちが存在しない、きちんとした家庭の子供たちが通う学校に通わせたいというのが普通の親心。私の友達は問題のある子供たちを集めたクラスを受け持って教えていますが、ドラッグやアルコールの問題を抱えている親が大部分を占めているそうです。悲しいことですが、こういう親たちには子供をどれだけ優秀な学校に入れるかなんて考える余地はありません。悪評高い学校には、いい学校を望めない親たちの子供がますます集まってしまうことでしょう。私を指差して大笑いしていた子供たちは、感心できないだろう家庭環境の元で育ったWorking Classの子供たち。子供だからマナーが守れないのではなく、マナーが存在しない家庭や学校で育っている子供達です。子供たちの暮らす環境が変わることは少ないと思いますし、子供の心はこのまま曲がった方向に向かい続けるのかと思うと胸が傷みます。

友人の住むTottenham (Tottenham Court Roadではありません)は、最近地価が上がってきています。歌手のAdeleが生まれ育ったところです。ここはLondonの中でもとびきりプロパティが安かったところで、友人は15年前にここに小さなフラットを購入しました。それでもフラット全てを自分のものにすることはできず、ビルディングソサイティと50%折半で月々のローンを払っているので、友人はこのフラットの金額の半分の権利しかありません。ところが友人の住んでいるフラットを取り潰して、新しい住宅を建てる計画が進行しそうなので、友人はこのフラットを出ていくことになるかもしれません。いくら地価が上がったとは言え、友人の手元にはフラットの売値の半額しか入りません。もうLondonには友人の手がとどく金額の物件は無くなってしまったので、Londonの外からの 遠距離通勤を考えなければなりません。その上イギリスでは交通手当てはまず支給されません。彼女は、Brexitでヨーロッパからのスタッフが激減しますます予算が減らされて存続が難しくなりつつあるNHS(イギリスの国営医療サービス)に勤めています。プライヴェートとして開業していたら、比べようがない大きな収入を得られたことでしょう。プライヴェートの医者にかかるのは、プライヴェートの健康保険を持っている裕福な人々。彼女はもしかしたら、今頃大きな庭付きの家に住み車で通勤していたかもしれません。しかし、無料のNHSにしかかかれない人々を救うことこそが、彼女がNHSに勤める理由です。自分の収入や贅沢な暮らしよりも、金銭に余裕のない人たちを救うことを選んだのです。

「富めるものはますます富み、貧しきものはますます貧しくなる」というマタイの法則が、一瞬頭をかすめました。

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洋画とグラフィックデザインを専攻したのち、イラストの道へ。縁あって英高級紙「The Times」の挿絵イラストを担当。同紙から数多くの依頼を受け、新聞のタイトル欄にエリザベス女王と並んでイラストが印刷される。児童福祉に関わる団体をはじめ、クライアント・ベースの仕事をするフリーランスのイラストレーター。4年に渡ってロンドン動物園で週に一度ボランティア活動にいそしんだ経験があり、動物イラストは本物からのインスピレーション。

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