ひと気ないガーデンに思わぬ宝もの

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ロックダウンが後3週間延長になりました。

しばらく夜になるとなんとも形容のし難い、ちょっと気持ちの悪い鳴き声が毎晩聞こえるのです。その声がここ数日さらに激しくなっておりまして、世の中ますます辛気臭くなるではないかと、なんとも憂鬱な気持ちで過ごしておりました。

私の住んでいるフラットの庭は大家さんが全く手入れをしないので、雑草と樹木が生い茂るジャングルのような有様でした。それにひきかえ隣の奥さんはガーデニングの名人で、ため息の出るような美しいガーデンを作られているのです。

ある日お隣の奥さんはここの大家さんに「今コロナで外出も出来ず時間を持て余しているので、お宅のガーデンを片付けましょうか」と申し出てくださったのです。これはとても根気のいる作業なのですが、ジャングルのようだった庭は奥さんの辛抱強い働きで、とうとう地表が見えるようになりました。ジャングルに覆われていて全く気がつかなかったのですが、庭の一番奥には物置小屋があったことがわかりました。

隣の奥さんは大したものだわいと、朝お茶を飲みながら庭を見下ろしておりましたら、なんと庭の一番奥にある物置小屋の壁の割れ目から、とても大きな狐が出てまいりました。すると後からちょろちょろと子ギツネが5匹、6匹、7匹、まだまだ出てくる。なんと全部で10匹の赤ちゃんが登場したのです!  なるほど最初に出てきた狐は、見事なおっぱいををぶら下げたお母さん狐だったのです。

ロンドンは狐が多く、近所の住宅街でもよく狐が徘徊しています。すっかり日の暮れた夜には反対側から狐が歩いてきて、我関せずと全くこちらを無視して普通にすれ違ったりすることもあります。特にロックダウンになってから、夜は全くと言っていいほど人が歩いていないので、狐がゴミ箱をひっくり返して、朝起きると歩道が酷い有様になっていることも時々あります。でも。大きなおっぱいをしたお母さんが周りをキョロキョロと警戒しながら、10匹のやんちゃな子ギツネを庭で遊ばせている姿は、私にとってドキドキするような素敵な光景でした。

せめて子ギツネたちが乳離れをするまでは大家さん気がつきませんように、奥の物置を片付けようなんて思いませんように、と思わずにはいられません。

今まで憂鬱な気分になっていた夜中の怪しい鳴き声も、なんだか心が和むララバイになりました。

 

 

 

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洋画とグラフィックデザインを専攻したのち、イラストの道へ。縁あって英高級紙「The Times」の挿絵イラストを担当。同紙から数多くの依頼を受け、新聞のタイトル欄にエリザベス女王と並んでイラストが印刷される。児童福祉に関わる団体をはじめ、クライアント・ベースの仕事をするフリーランスのイラストレーター。4年に渡ってロンドン動物園で週に一度ボランティア活動にいそしんだ経験があり、動物イラストは本物からのインスピレーション。

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