コトバの垣根を超えて

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ロンドンの子どもたちと一緒に工作をしたり絵を描いたりする楽しい時間があるのですが、子どもたちはペンを握ると考え込む時間も全くなく、即座に絵を描き始めます。

子どもたちの創作力とはそれはそれはすごいもので、次々に描き出す色鮮やかな世界にうっとりと見入ってしまいます。変に知恵がついてきて、線がどうとか構図がどうとか余計なことに頭を使い始めたらあの世界はぴたりと蓋を閉じてしまうのではないでしょうか。

ロンドンでは色々な民族の子どもたちと会うことができます。ヨーロッパ圏のあらゆる国やアフリカや中東だけではなく、アジア圏の子供たちもたくさんいて、バングラデッシュ、マレーシア、タイ、中国、日本など、髪、目、肌の色、骨格と様々です。またいろんな国のミックスも多いです。しかしたとえどんな民族の血が入っていても、子どもたちのほとんどは自宅近くの学校に通って英語で語らい英語で勉強をしている、英語のネイティヴスピーカーです。

子ども達とアートを楽しむときに使った教材のスケッチ。

日本に暮らしている外国の子どもたちや日本人とのハーフの子供たちなどの母国語は、もちろん日本語です。見てくれは外国人なのに、日本語しか話せない人たちもたくさんいます。これはロンドンに住んでいる子どもたちの言葉が一様に英語になるように、日本の学校で友達と会話をする言葉、授業の言葉が日本語ですからおのずと日本語が自分の言葉となるのでしょう。しかしロンドンに住んでいて、たくさんの言語を堪能に話す人たちの話を聞いてみると、日本語が一番難しいという声が多いのです。

ロンドンに住む子どもたちは、ご両親の使う言葉(イタリア語、ドイツ語、スペイン語、日本語など様々)、学校でフランス語を習ったりなどとバイリンガルどころがトライリンガル、クァドリンガルも珍しくありません。私に合わせて日本語で話してくれるイタリアと日本のハーフの友人は、ところどころ英語になることがあります。彼女はイタリア語、英語、日本語を話すことができるのですが、英語が一番容易で日本語が一番難しく感じるそうです。

日本人は学校でかなりの年数英語を勉強しているにも拘らず、どうもあまり英語が得意ではありません。しかし、大人になるまで自国で暮らして、英語とは別の言葉を母国語としている外国人は、ロンドンに滞在を始めて英語を覚えるスピードはとてつもなく速いのです。

ポルトガル人の友達と映画を見にいくと、私はわからなかったり聞き取れない単語に首を捻りながら、映画の全体の印象でやっと理解しかけているのに比べて、彼女は難なく100%理解しているのです。これは頭の良し悪しでなく言語の体系が全く異なっている何かがあるのだろうなと思うのです。

3歳の時からずっとロンドンで暮らしている、日本人のご両親を持つ友人がいます。でもロンドンの学校で学んできた彼の母国語はもちろん英語。しかし彼の場合は珍しいことに、ロンドンで育った日本人なのに日本で育った日本人以上に素晴らしい日本語を話されるのです。彼は独学で日本語を30年近く勉強してきたのです。それでもやはり、英語で話す方がずっと楽、日本語の読み書きは苦手とおっしゃいます。日本語の文法や言い回しは、英語に比べるとフォーマットが異なっている言語なのでしょうか。

日本語に比べると、英語は使う音の種類が相当数あります。日本で育った日本人は日本語で使わない音は認識しなくても良い脳になっていますので、日本人の耳には聞こえにくい音がたくさんあります。聞こえないのですから発音もしにくいので、たとえ長くイギリスに滞在していても日本人の話す英語は共通のアクセントです。そして英語を聞いていると、東北地方か関東地方か関西地方の出身なのかさっぱりわからないのです。

なぜでしょうね? これはわたくしにとって大変興味深いことです。

さて、話はちょっとかわります。鳥や川のせせらぎ、潮騒の音など、環境にはさまざまな音があって、それぞれに人の心に色や香り思い出など様々な想いを連想させます。そして人間の創り出す音楽も、たとえ国が違っていたとしても強く心に何かを訴えかけてきます。

先日、ギタリストHide Takemotoの演奏を堪能してきたのですが、彼の奏でるギターはまさに国籍を超えた、色と質感を触覚に覚えるような錯覚を起こさせるマジカルなものでした。ロックダウンでミュージシャンたちは演奏する機会がしばらくありませんでしたが、彼の息を呑むようなパフォーマンスはさらに磨きをかけ、言葉や民族の違いを超えてさらに世界中の空に羽ばたいていくことを予感させるステージを楽しませていただきました。

Hide Takemoto氏のホームページは http://www.hideguitar.com です。Spotifi、Apple MusicなどでHide Takemoto氏の素晴らしいギターにぜひ耳を傾けてみてください。

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洋画とグラフィックデザインを専攻したのち、イラストの道へ。縁あって英高級紙「The Times」の挿絵イラストを担当。同紙から数多くの依頼を受け、新聞のタイトル欄にエリザベス女王と並んでイラストが印刷される。児童福祉に関わる団体をはじめ、クライアント・ベースの仕事をするフリーランスのイラストレーター。4年に渡ってロンドン動物園で週に一度ボランティア活動にいそしんだ経験があり、動物イラストは本物からのインスピレーション。

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1件のコメント

  1. 日本語とポリネシア語は母音を基本として成り立っていて、それ以外の言語は子音が基本とのこと。
    (発音においては)母音は雑音や環境音と同じ右脳で処理されて、子音は言語として左脳で処理される違いがあるため、多くの外国語話者は脳内で自動的に雑音として自動的に無視され「虫の声」や「川のせせらぎ」は聞こえない、なんのこと?と言う反応を示すそうです。

    イギリスにお住まいの方に、是非「虫の声」が聞こえているか尋ねてみてください。
    この研究はこのことに気づいた日本の学者による報告だそうですが、私はこの話を読んでから、もしこれが事実なら同じ音楽や同じ楽器の音を聴いていても全然別のものが聞こえていたりするのかもしれないと、気になって夜も眠れません。

    じゃあ、親が英語と日本語話者のバイリンガルだったらどうなるの??

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