018 | 現在につながる、過去のストレス

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「ストレスは万病のもと」といいますが、データはまさしくそのとおり。病気と診断される症状の大半はストレスに起因するもの。なぜストレスが健康の害になるのかは、もうおわかりいただいていますよね? 今号は、忘れられがちな過去のストレスと大人になってからの健康について。

過去のストレスを見直してみましょう

幼少期のストレスやトラウマ経験なども含めて、過去のストレスがうまく消化されていないと、それが忘れた頃に体調不良の原因になることもあります。もし、思い当たる記憶があれば、それがどういう風に現在の自分に働きかけているかをチェックしてみるのもいいでしょう。

先日、仕事でストレス度の高いクライアントに対策法の話をしていたら、彼女が「実は…、こどもの頃に家庭内で問題があって、何か引き金になることがあると、その記憶が戻ります。例えば、仕事中にオフィスで誰かが叫んだりすると、ドキドキして吹っ飛びそうになったり…」と話してくれました。何でもないことが、 脳の扁桃核に登録された恐怖の記憶とオーバーラップして、即座に反応を起こすのです。15号でも触れましたが、これはトラウマの溝が深く、状況を考えることなくストレス反応と直結している例です。この場合、時間と根気が必要とされるかもしれませんが、記憶と直結した回路の上書きに必要なことをすれば、改善されるはず。

また、トラウマと向き合うキャパシティがなければ、自己防御目的で、無意識のうちに辛い記憶の部分をすっぽり消してしまうこともあります。この場合だと、表面上はまったく記憶がなくても、扁桃核にはつらい記憶として登録されているため、根源が癒されるまでは問題解決につながらないようです。そのため、身体的な症状となって現れたりします。ナチュロパシーを学んでいた頃、先生が「飛行機墜落事故を目撃したこどもが、ショックのあまり突然盲目になったり、一型糖尿病になったりしたケースがある」と話していたのを思い出します。特に、こどもの脳は何でも吸収する段階で、ニューロン(脳の神経細胞)も回路をどんどん広げる成長の時期にあります。受け入れられない状況では、自己防御システムが働き、本人の意思を超えてショック遮断/回避モードに入るのでしょう。こういったケースには、検査しても異常が見つからないこともあります。

たまたま聞いたテッド・トークの記憶に、上記とマッチするものがあります。原因不明の癲癇発作で、一日数回倒れるようになった女性のお話です。何年ものあいだ大金をはたいて、医師や病院を転々としたのですが、どこで検査しても問題は見つからず。恥ずかしいと思いつつも、個人情報の記載されたタグをつけ、ヘルメットをかぶって外出する日々。最終的に、とある医師から「この先生を訪ねてみては?」と勧められたのが、催眠療法。たった一回のセッションで、長年続いた発作がピタリと止まったそう。彼女の場合、幼少期に姉を失い、そのトラウマがこころの奥深くで消化されないままだったようです。それが癲癇発作という、身体的なサインになって表面化していたのです。

消えていたトラウマの記憶?

消化されない記憶?

エース・スタディ

ストレス関連のトピックで興味深いのが、1995年にスタートし現在も続いている、ACE(Adverse Childhood Experiences) Study(エース・スタディ)と呼ばれる長期のプロジェクト。幼少期から18歳までのトラウマ経験が、大人になってからの健康にどういう影響を与えるかを調査していて、点数付きの質問形式にまとめた、エース・スコアをもとに、各種の統計を出しています。例えば、アルコール依存症の親なら、そのこどもはアルコール依存のリスクが高いなど、カテゴリーとスコア別に、循環器系疾患、鬱、肥満、ガンや、その他健康面におけるリスクなどを、スコア0点の統計と比較しています。

例えば、スコア4点かそれ以上で、アルコール中毒・薬物依存・鬱・自殺行為のリスクが4〜12倍、喫煙・不健康という自己診断・性病のリスクが2−4倍、不活発・重度の肥満になるリスクが1.4〜1.6倍(1)。スコア5点以上で、精神薬服用の可能性が約3倍に(2)。スコア2点かそれ以上で自己免疫疾患による入院のリスクが1.7〜1.8倍、リウマチのリスクが倍で、このレポートでは、同時に自己免疫疾患の患者は約80%が女性だということも指摘しています(3)。また、スコア6点か以上では、肺がんのリスクが約3倍高いようです。これは、家庭内の問題で喫煙がその一部を説明するものの、肺がんに至るメカニズムはACEそのものに起因するのではとしています(4)。その他では、スコア6点かそれ以上で自己の記憶障害が5.9倍(5)、スコア5点以上で慢性頭痛のリスクが2倍以上(6)、スコア7点かそれ以上で、幻覚のリスクが5倍(7)とのこと。

ACEスコアは、67%の人に該当項目が最低1点あるようです。スコアに該当の質問がなくても、辛い記憶があれば、きちんと消化されているかチェックして、治療より予防の体制をとりましょう。

最善策?

何にしても、脳のトレーニングは大いに有効と思いますが、その他にもいろんなことが周りについてくるので、一概に脳だけに注目すればいいとはいえません。適切な睡眠・食事・運動、毎日レベルでのデトックス(心身とも)可能な限りの環境改善、積極的なストレス対策など、どれが欠けてもバランスが崩れやすくなります。まずは、全体的にバランスのとれた生活を心がけましょう。

ファンクショナル・メディスンやナチュロパシーの世界では、不調の根源を探す必要があるため、患者の生い立ちに遡り、その環境、さらには妊娠中の母親がどういう健康状態だったかを尋ねることが少なくありません。目の前にいる人が「患者=症状や病名」なのではなく、その人が「どういう人で、その人の持つ症状や病名がどこに起因するのか」ということを地道に掘り下げていき、出発地点が見つかれば、そこから本格的に癒しの作業をスタートします。

消化しきれないトラウマ経験があり、体調不良がある場合には、まず脳や神経の強化をサポートする体内の栄養素を整える必要がありそうです。同時に、心理療法や催眠療法を試したり、中医やホメオパシーなどエネルギーに働きかけるものなどを積極的に取り入れたりするのが有効そう。ただし、好転反応の出やすいセラピーは個人によって異なります。興味のあるものをいろいろと試して、自分に合うものを探す必要があるかもしれません。でも、それは自分への投資となり、そのアクション自体が癒しの第一歩になるはず。

 

参照:

  1. Felitti V, et al. (1998). Relatinship of Childhood Abuse and Household Dysfunction to Many of the Leading Causes of Death in Adults. American Journal of Preventive Medicine vol.14, no. 4.
  2. Anda R, et al. (2007). Adverse Childhood Experiences and Prescribed Psychotropic Medications in Adults. American Journal of Preventive Medicine. vol.32, no. 5. pp.389-394 doi: 10.1016/j.amepre.2007.01.005.
  3. Dube S, Fairweather D, Pearson W, Felitti V, Anda R, Croft J. (2009). Cumulative Childhood Stress and Autoimmune Disease in Adults. Psychosom Med. vol.71, no.2. pp.243-250. doi: 10.1097/SPY.0b013e3181907888.
  4. Brown D, Anda R, Felitti V, Edward V, Malarcher A, Croft J, Giles W. (2010). Adverse childhood experiences are associated with the rick of lung cancer: a prospective cohort study. BMC Public Health 2010, 10;20. [Online]. Available at: http://www.biomedcentral.com/1471-2458/10/20 (Accessed: 27 March 2017).
  5. Brown D, Anda R, Edwards V, Felitti V, Duce S, Giles W. (2007). Adverse childhood experiences and childhood autobiographical memory disturbance. Child Abuse Negl. vol.31 no.9. doi: 10.1016/ichabu.2007.02.011.
  6. Anda R, Tietjen G, Schulman E, Felitti V, Croft J. (2010). Adverse childhood experiences and frequent headaches in adults. Headache. vol.50, no.9. pp.1473-81. doi: 10.1111/j.1526-4610.2010.01756.x.
  7. Whitfield C, Dube S, Felitti V, Anda R. (2005). Adverse childhood experiences and hallucinations. Child Abuse Negl. vol.29, no.7. doi: 10.1016/ichabu.2005.01.004.

 

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About Author

徳永 ゆり子

大阪府出身、1996年よりロンドン在住。京都で8年、ロンドンで7年間グラフィック・デザイナーとして働いたのち、2004年に補完・代替療法の世界に入る。CAM(コンプリメンタリー/オルタナティブ・メディスン)プラクティショナー。CThA、BANT正規会員。ハックニー地区にあるコンプリメンタリー・ヘルス・クリニックを拠点に、ロンドン内で活動中。好きなこと:健康的でおいしいものを作って食べること、ナチュラル・ヘルス・フード・ストアでヒット商品を探すこと。好きな色:ピンク紫(夕暮れ時の空の色とか)。好きな言葉:(実現の状態を)見る前に信じること(”You’ll see it when you believe it.” by Wayne Dyer)。

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