【ロイヤルな英国】珠玉マナーハウスで中世色に染まって

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さて、「ロイヤルな英国」シリーズ、まだまだ続きます ^^

今回はチェルトナム競馬場すぐ近くにある五つ星ホテル、ロイヤルゆかりのEllenborough Park / エレンバラ・パークのご紹介です。

イギリス国内には宿泊施設として蘇っている古城やマナーハウスが数多くありますが、それぞれにユニークな歴史が付きもの。エレンバラ・パークは今でこそコッツウォルズ丘陵を見晴らす王侯貴族ゆかりのマナーハウスとして国内はもとより世界各地からゲストを迎えるご当地きっての名ホテルとして知られていますが、1485年、この地に初めて建てられたいきさつというのが、面白いんです。

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15世紀から土地を守るマナーハウス

背後に美しい丘をいただき、眼前になだらかな平野が突き抜ける眺めのいい高台に目をつけたのは、土地の名士でも貴族でもなく、近郊で農業を営んでいたトーマス・グッドマンという男性でした。きっと、ものすごくこだわりの強い人だったんだと思います。自宅が老朽化してきたことをきっかけに新しく住む場所を探していたところ、この美しく静謐に満ちた特別な場所を発見し、惚れ込んだのです。「ここに住む」という強い意志を持って引っ越してきました。元の自宅からレンガや石といった資材を解体し、それらを荷馬車で一つひとつ、運んだそうです。そして、何年もかかってこの麗しい屋敷の礎を作り上げた 。今から530年も前のことです。

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左上から時計回りに、レセプション・エリア(受付デスクの奥にエレンバラ伯爵の肖像)、気持ちよさそうなコートヤード、メインビルの玄関、メインビルを別の角度から。

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左上から時計回りに、後年になって増築された塔、受付の奥にあるウェイティング・ルーム、客室の一つに飾られていた少女の肖像、グレート・ホールの天井。

屋敷の歴史をひもとくにつれ、物語が織りなす綾に迷い込み足を取られそうになりましたが(笑)、 それだけ語るべき歴史には事欠かない、奥深い魅力のある屋敷です。面白いのはチェルトナム競馬場まで実質的につながっていることです。ビッグ・イベントのある期間はホテルから競馬場までベントレーで送迎してくれるサービスまであるんですよ。

屋敷そのものの魅力も語り尽くせません。まずメインの建物に入ってすぐ右手に広がるグレート・ホールと呼ばれるラウンジ。見上げるように高い天井、石の壁と暖炉、光を柔らかに採りいれるステンドグラス・・・圧倒されるような重厚感の中にモダンな要素を上手に取り入れた空間に足を踏み入れた途端、胸が高鳴りました。暖炉を作る石は、500年の歴史を秘めたオリジナルだそうです。

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メイン・エントランスを入って右手にどーんと広がっているグレート・ホール。ドキっとするほどインパクトあります。

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暖炉の右側に掛けられた肖像画の女性は、キャサリン・パー。ヘンリー8世の最後のお妃で、近郊のスードリー城に住んでいた方。ご近所のよしみで掛けているのかな。歴史的結びつきは聞かなかった。彼女が生きたのはグッドマンさん時代です。

さて、農夫のトーマス・グッドマンさん。理由は定かではないそうですが、1515年にこの屋敷をハドルストン家に売っています。ハドルストン家は後のヘンリー7世と戦って敗北したリチャード3世に縁のある家系だったため、「謀反さえ起こさなければ家屋敷・財産は召し上げないが、どうする?」ともちかけられ、その条件をのんでこの屋敷を購入したそうです。

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レセプションの奥にあるウェイティング・ルームもいい感じ。ここでちょっとしたお茶もいいな ^^

時代は下り、ジョン・ハドルストン卿の孫娘となるエレノアさんが、ウィリアム征服王の時代から王室に重用されている由緒あるデラベア家の子息と結婚する運びとなり、この屋敷の新しい主人となりました。1554年のことです。屋敷内のいたるところに、ハドルストン、デラベア両家が一緒になったことを祝福する装飾があるそうです。時代を遡ると、1346年の戦いでデラベア家がエドワード3世の子息であるエドワード黒太子を救ったことへの礼として下賜された装飾なども残っているとか・・・。

屋敷はデラベアの親類に受け継がれ、その時代に多くの手が加えられます。その後1832年に、後に初代エレンバラ伯爵となるエドワード・ロウが 3200万ポンドという莫大な価格で屋敷を購入。当時としては破格ですが、これはエドワード・ロウが関わっていた東インド会社からの利益によるところが大きいと囁かれています。彼もやはり、この土地屋敷に惚れ込んで購入しただけあって住むのを楽しみにしていたようですが、青天の霹靂とはこのこと、購入の2週間後に政府からインド総督任命が下りショックを受けたという逸話もあり。しかし、それも束の間、巧妙な立ち振る舞いでヴィクトリア女王をも丸め込み、任期を2年で切り上げて帰国の途についたという政治的な強者だそうですよ ^^ 帰国後は功績を称えられ、すぐにエレンバラ伯爵の称号まで授けられたのだとか。

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左の写真は別棟です。私はここに泊まりました。右下が泊まったお部屋。広くて、バスルームも一部屋分くらいあったw 右上はスパが入っている建物。スパは体験しなかったけど、すごくよさそう! 実はスパで使っているIla(イラ)というブランドの試供品をくださったのだけど、これがあまりにもよくて、家に帰ってからも使い続けています。ボディ・バームが至福。このブランドはロンドンのマンダリン・オリエンタルのスパでも使っているのですが、ナチュラルなホリスティック哲学に基づいた開発がなされているそうですよ。要チェックです。

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わたくしが泊まった部屋の様子。ここに住めると思った広さw 設備も完璧でした。バスルームに備え付けられてたシャンプーやリンスもよかった!

さてさて、肝心の客室ですが、わたし的に最もセールス・ポイントが高かったのは、ほぼすべての部屋にバスタブが付いていることです。宿泊した部屋はもちろん(離れでした)、見学させていただいた部屋はどれも素晴らしく、ゆったりと快適な滞在ができること請け合い。母屋とは別に、敷地内にはスパの入った建物、そして建て増しされた別棟もあり、どこに泊まっても等しく快適に過ごせると思います。お金持ちの馬主さんも泊まられるとかで、勝ち馬の名前が付いた部屋もあるそうです。

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右は特別なお部屋だったかな。左のバスルームとはまた違うお部屋なのでご了承を。このホテルにはどんな部屋にもたいていバスタブが付いていると思う。

私たちは2泊させていただいたうちの一晩、こちらで食事したのですが、ホスピタリティも食事のクオリティもさすがの五つ星でお見事。しかも「ライブラリー」と呼ばれる風格あるプライベート・ルームでの食事だったので、500年の歴史がにじみ出るアンビエンスにノックアウト。最高の晩餐を体験できました ^^

メインのレストラン・スペースです。

メインのレストラン・スペースです。ウッドパネルがいい仕事してるんですよね。

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「ライブラリー」と呼ばれるプライベート・ダイニング・ルーム。素敵だった!!

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食事はさすがの出来映えで、なんなく3コース入ってしまいました・・

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デザートも特筆すべきお味。量もちょうどいいかも。

さらに驚いたのは、このプライベート・ルームの奥の扉を開けると・・・広々ゴージャスなヒミツの客室があったことです!(驚)

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右の写真が、プライベート・ダイニング・ルームの奥に隠されていたヒミツの部屋! 左の2枚はまた別のお部屋です ^^

さて、エレンバラ伯爵の余り余る金子でもって華麗さを増していった屋敷は、土地の名にちなんで「Southam House / サザム・ハウス」と呼ばれていました。塔が作られ、インディアン・メモリアルと呼ばれるインド総督時代の記念碑も作られます。また周辺の土地を随時買い足していったので敷地もぐいぐい広がっていきます。この時代はゲストも華やかで、ジョージ3世の名も逗留者の中にあります。こうしてエレンバラ伯爵の時代にマナーハウスとしての礎が築かれたことからホテル名は彼の名から、そしてレセプションの奥には伯爵の肖像画もかかっています。

ちなみに伯爵の二番目の奥方は17歳年下のジェーン・ディグビーさんとおっしゃるのですが、この方の人生、伯爵など足元にも及ばないくらいすごいんです。当時のイギリス社交界きっての美人だったらしいのですが、魂も相当に自由な方だったようで、国王から山賊まで生涯に数えきれないほどの恋をされています。飛ぶ蝶のように・・・という比喩は彼女のためにあるのかもしれません。ウィキペディアに人生サマリーが載っているので、興味ある方はぜひぜひ読んでみてください。恋多き女だっただけではありません。人生後半で安住の地を見つけるのですよね、ジェーンさん・・・。すごすぎる女性パワー。

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夕景。左の写真の奥にたたずんでいるのが、インディアン・メモリアルです。

ごちそうを食べ過ぎた翌朝・・・誰も起きてこないレストランで、ひっそり、ひとり朝ごはんをいただく私(笑)。さすがにイングリッシュ・ブレックファストは無理でしたので、エッグ・ソルジャーとフルーツの盛り合わせを。それでもけっこう食べ応えあった&美味しかったです♪

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食後に少し敷地内を散歩してみました。カントリーサイドのホテルらしく、「ブーツ・ルーム」というのがあり、スウェードの本格的なプロテクション・ブーツやジャケットを無料で借りることができるのです。これには参りました。この日の午後、ポロのレッスンに出かけることになっていたのに、適切なブーツを持ち合わせていなかったのでどうしようかと思っていたところ。お借りして無事、事なきを得たのでした。こういった痒いところに手が届くサービスに接すると嬉しくなります ^^

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右上はインディアン・メモリアルから母屋を撮影したもの。なぜか六芒星がっ。このショットをパンフレットで見て、どうしてもこの角度で写真撮ってみたくなったww

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エレンバラ伯爵の非嫡子に譲られた屋敷は残念ながら衰弱の一途を辿り、世界恐慌前夜の1927年、一族の手から離れ、20年後に女子のためのプライベート・スクールとして蘇ります。その後、役割を終えた学校は1972年にホテルに。しかしさほど充実した施設ではなかったようで、2007年に現オーナーの手に渡り、3年をかけて莫大な予算でオリジナルの建物の修復をして再建したということです。リノベーションはイギリス人の大のお得意分野でして、古きを守りつつ新しき息吹を吹き込むという鉄則が守られ、現在のような美しく情緒ある姿に生まれ変わっているわけですね ^^

th_IMG_1661ここに書いた情報の大半は、この屋敷に並々ならぬ愛情を感じていらっしゃる歴史家でもあるスタッフの男性(名前メモするの忘れてました)が語ってくださったのですが、彼はこう締めくくりました。

「500年にわたって多くの家族がこの屋敷に住んできました。
その全員が例外なく、屋敷を心から慈しんでいました。
そのたくさんの愛を今も感じていただけると思います。
この屋敷の美しさは、格別です」

Ellenborough Park
Southam Road, Cheltenham, Gloucestershire GL52 3NJ
☎ 01242 545454
URL:www.ellenboroughpark.com
Cheltenham Spa駅から車で約15分

英国政府観光庁
https://www.visitbritain.com/jp/ja

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岡山県倉敷市出身。ロンドンを拠点に活動するライター、編集者。東京の文芸系出版社勤務、雑誌編集・ライターを経て、1998年渡英。英系制作会社にて数多くの日本語プロジェクトに関わった後、2009年からフリーランス、各種媒体に寄稿中。2014年にイギリス情報サイト「あぶそる~とロンドン」を立ち上げ、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむかたわら、オルタナティブな生活、人間の可能性について模索中。著書に『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房) 『ロンドンでしたい100のこと』『イギリスの飾らないのに豊かな暮らし 365日』『コッツウォルズ』(自由国民社)。NHK文化センター名古屋教室「江國まゆのイギリス便り」講師。MUSIC BIRDのラジオ番組「ガウラジ」に月一でゲスト出演。チャネリングをベースとしたヒーラー「エウリーナ」としても活動中(保江邦夫氏との共著『シリウス宇宙連合アシュター司令官 vs.保江邦夫緊急指令対談』もある)。Instagram: @ekumayu

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