井上銘インタビュー「即興が生きるジャズは、人生そのもの」

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井上銘インタビュー「即興が生きるジャズは、人生そのもの」

「今まで誰もやったことがないことを追求していきたい」。
15歳でジャズに目覚めて以来、ジャンルにとらわれない自由な音を求め、
創造し続けている27歳のギタリストは、滑らかな口調でそう語る。

井上銘。

いま、日本のジャズ・シーンで最も注目を集めている音楽家のひとりだ。
ジャズならではの即興スピリットをベースに、気鋭ギタリストとして、
新世代コンポーザーとして自身の音楽性を「Stereo Champ」という
新プロジェクトで表現し、各方面から絶賛されている。

そんな気になる銘さんのロンドン公演が11月25日、The Cockpitで行われる。
目指す音楽、ロンドンとの不思議な縁など、カジュアルに語ってもらった。

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産まれる前から、ロンドンとつながっていた

ロンドン公演、おめでとうございます! アメリカのバークリー音楽院への留学経験があり、ニューヨークでの活動もされていますが、ロンドンは初めてですか?

実は少年時代に一度だけ、ロンドンに来たことがあります。と言うのも、僕が生まれる前に、親父が1、2年ほどロンドンに住んでいたんです。そこに母が会いにやって来た。その時に2人が住んでいた家のビルの名前が、Mayflower Houseだったとのこと。僕はそのすぐ後に産まれたことと、ちょうど5月生まれだということもあって、Mayという名前になったんです。

すごく素敵なエピソードですね!

はい、これは昔からよく聞かされている話なんですけどね。親父はロンドンが大好きで、僕が12歳のとき、その大好きな街に僕を連れていってくれた。その数年後、僕が音楽に興味を持ち始めて、レッド・ツェッペリンに夢中になったんです。このバンドはどこのバンドだろうと思って調べてみると、イギリスのバンドだった。そんなこともあって、子供の頃からイギリスはずっと憧れている国でもあるんです。

ツェッペリン好きのロック少年が、どうしてジャズに転向されたのですか?

僕がロック・ギターに夢中になっているのを親父が見て、中学を卒業した15歳の春にマイク・スターンのライブに連れていってくれたんです。彼のスタイルは、ロックとジャズをミックスしたものだったので、すごい刺激を受けて「これだ」と思った。そこからジャズに入っていきました。高校生になると宮之上貴昭さんというベテランのジャズ・ギタリストの方に師事しました。彼は1950年代、60年代のトラディショナルなジャズをとても大切にされている方で、これから何を演奏するにしても、ここは基本になる音だからと、きっちり教えてくれた。高校の頃にはもうツェッペリンの音はiPodから全部消して、伝統のジャズばかりを聴いて勉強していましたね。

カッコいい高校生ですねぇ。

友達は減りましたけどね(笑)。高校の頃は、ずっとギターばかり弾いていました。まさに家庭内ギタリスト(笑)。母に言わせると、朝起きて姿を見せたと思ったら、起き抜けですでにギターを抱えているという状態だったそうです。ギターを練習している時間が一番幸せでした。夏休みの40日間は、犬の散歩以外では外に出ないでギターの練習をしていましたね。休み明けに学校に行って、友達と話そうと思っても、ずっと人と話をしなかったせいで、笑おうとすると顔の筋肉が引きつるという経験をしました。人間、筋肉を使わないと本当に引きつるんですね(笑)。そのくらい練習が好きでした。

May Inoueの音楽

現在、ご自身で率いているプロジェクト、Stereo Champについて教えてください。

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May Inoue Stereo Champ

Stereo Champは自分自身の音楽を表現するために結成したバンドです。ジャズというジャンルで今まで誰もやったことがないことを追求していきたいと思って始めました。Stereo Champ以前に出した2枚のアルバムは、オーソドックスな一般的なジャズだったけれど、昨年Stereo Champ名義で出した初めてのアルバム「May Inoue Stereo Champ」では、自分の音楽を形成するうえでのグルーヴをはっきりさせています。それはロックであったり、ファンキーであったり、サイケであったりするのですが、そういった様々な要素を表現したくて。僕が今やっていることは、もしかすると世界のどこかにもうあるかもしれないけれど、僕の中では新鮮なものとして出しています。いい意味で尖っているけれど、必ず「気持ちよさ」があることを基準にしています。 これまでの歴史をリスペクトしながら、新しい音を拓いていきたい。

このアルバムのセルフライナーノーツで、Stereo Champのエネルギーが「宇宙的無限感」だとおっしゃっていますが、それはどういう意味? 

既成の概念を超えたところにあるもの、という意味です。

「Stereo Champ」に胎児についての曲が2曲入っています。20代半ばの男性が創るにしては一風変わっていると思ったのですが。

「Taiji Song」は1と2と2つあるんですが、本当は1つの曲。母親の羊水の中で浮かんでいるところから、「おぎゃあ」という産声とともに生まれてくるまでを曲にしています。人はみんな、等しく胎児だった時期がありますよね。その時は誰も自我のない状態です。自分がどうなるか、全くわからない状態。それが僕なんかはギターを弾くようになっています。でも、胎児の時は誰も先のことなんてわからない。実は、それは今も一緒なんだという気持ちがあります。そしてそこが、ジャズのインプロバイゼーションと通じると思った。ジャズはある程度のフォーマットはあっても1秒先にどう展開するかわからない。そこが人生と相通じるものがあると思うんです。僕がジャズを演奏していく上でのスピリットが、そこに込められている。それを楽しんでいるから、ジャズはやめられないと思う。未来のことはわからないから。

それが銘さんの音楽性の本質?  どんな音楽を目指しているのでしょう?

何かの真似ではない音楽。例えばジャズだとニューヨークが盛んで、ニューヨークのジャズをフォローしている人は多いと思うんです。でも、日本には日本のジャズが確かにある。自分たちが日本人として生まれた意味もあると思うし。海外ジャズの真似ではない何かを創りたいですね。

日本のジャズとは?

東京や横浜で言うと、ジャズクラブの数も世界の他都市に比べてもすごく多いんですよね。必然的にミュージシャンの数もたくさん。だからマルチになんでもできる人は多いけれど、一つのことに突き抜けている人は意外と少ないと感じています。その音楽シーンの中で、僕たちより上の世代の突出した人たちが生み出した、日本固有のジャズ音楽があると言うことは認識しています。そんなジャズ・シーンの中でも、自分の興味あることに正直な人が創り出す音がいいですね。自分の音にまっすぐに取り組んでいる人。そんな人が僕は好きです。

バークリー音楽院ではそんな人に出会った?

どちらかというと1人で興味のあることに好きなように取り組んでいたいタイプなので、学校生活そのものはさほど活発ではなかったのですが(笑)、ミック・グッドリックというギターの先生との交流はよかったです。彼は世界的に有名なギタリストたちを数多く教えている人で、留学に際してはとても会いたかった人。彼のクラスはすごくよかったですね。教えてもらった理論みたいなことは全部忘れちゃいましたが(笑)。とても厳しい人で、僕にしては珍しく真面目にクラスに取り組んでいたんです。すごく緊張してクラスに行くと、今日はギターを弾くのはやめて馬の絵を描こうとか、外に出て散歩しようとか、そんなことを言う。ギターだけでなく、広い視野で音楽に対する姿勢を教えてくれたと思います。海外のやり方や空気に触れられたのも財産だったかな。

今後の展開

今後の活動や目標について教えてください。

Mono Light

Mono Light

実はロンドン公演の1週間前、11月14日に新しいアルバムが2枚、同時発売されるんです。1枚はStereo Champ名義の2枚目となる「Mono Light」。もう1枚はアコースティック・ギター1本でいろいろなカバー曲を演奏した「Solo Guitar」です。

「Mono Light」は、前回のような「May Inoue Stereo Champ」ではなく、正式にStereo Champ名義のアルバム第一弾となります。去年のアルバムよりもバンドとしてのチーム感を大切にしていますね。また作曲家としてのクオリティにも磨きがかかっているので、満足度で言えば、これまでのベスト。僕の音楽の今を、すべて注ぎ込みました。どのジャンルにカテゴライズすればいいのかわからないような、そんなアルバムです。ただ気持ちいいポイントもたくさんできているんじゃないかなと思っています。今後Stereo Champとして一年に一枚はアルバムを出していきたいですね。

Solo Guitar

Solo Guitar

「Solo Guitar」は、僕自身のアコースティック・ギター・ライブの集大成のようなアルバムです。今、4ヵ月に1回ほどアコースティック・ギター1本でライブをやっていまして、そのライブをもとにしています。

また、来年から同じような志を持ったミュージシャンたちと一緒に、2ヵ月に一回のペースでイベントを主宰したいと思っています。日本のジャズ・シーンにもっと若いオーディエンスを増やしていくと同時に、日本国内に前衛的なことに開いているミュージシャンたちの新しいシーンを作っていきたい。こういう形で日本での山も作りつつ、海外へも活動の場を広げ、バンド全員で行けるようになれたらと思っています。その繰り返しの中に、面白い未来が開けているのではないかと。

ロンドン公演について

では最後に、今回のロンドン公演について教えてください。

The Cockpitでは、最初の2枚のアルバムからのオリジナル曲と、トラディショナルなジャズの二部構成になると思います。きっと緊張すると思うのですが(笑)、平常心を心がけていけたら。始まる前にどれだけ緊張していても、音が出た途端にニュートラルなモードに入れたら最高。平常心にあるとき、最も良い演奏ができると思っていますので。

共演する現地ミュージシャンの皆さんの映像はちょくちょく観させてもらっています。皆さんすごい経歴をお持ちの方ばかりなのに、今回の公演では僕の曲を演奏することが多くなると思います。リハーサルでしっかりサウンドを作って、本番ではなるべくバンドメンバー全員が均一に楽しめるステージを目指します。

今回ロニー・スコッツである11月24日のマイク・スターンさんのステージで、オープニングを飾るのだとか。すごいですね!(こちらはすでに売り切れ)

とても嬉しいです。去年の今頃は全く予期もしていなかった展開で、不思議なご縁を感じます。このロニー・スコッツのオープニングでは、トリオでやります。もう少しオリジナルを減らして、全員が均等にジャズのアンサンブルを楽しめるような曲を準備していますのでお楽しみに。え? マイクさんに何て言うかですか? 「僕のギター・ヒーローの1人であり、あなたの影響でジャズ・ギターを始めました」と自分の言葉で伝えたいですね。

1130_1524_may_inoueロンドンのオーディエンスにメッセージをお願いします!

憧れていた場所、ロンドンで初めて演奏できることがとても嬉しい。自分がこれまでやってきたことを、いい形でできるように準備していくので、楽しみにしていてください! ロニー・スコッツは演奏がなくても行ってみたいと思っていた場所なので、最高です。

銘さんって、音楽をやっていないときはどんな人なの?

日本のバラエティ番組が大好きで、フリータイムがあると、ギターの練習をするか、お笑いを観るかという葛藤の中で暮らしています(笑)。人とおしゃべりするのも好きですね。人がすごく好きです。人は、面白い!

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淀みのない口調で、はっきりビジョンを語ってくれた井上銘さん。このインタビューのために観た複数の動画からも、そのみずみずしい感性と個性あふれる演奏が十二分に伺えた。初のUKライブがロンドン・ジャズ・フェスティバルの一環というもの彼らしい。ロンドンの音楽ファンは必見のライブ! ぜひお運びいただきたい。

そして井上銘さんがなんと、ビデオでロンドンのみんなに挨拶してくれています!
こちらの動画をご覧ください!!! ↓ ↓ ↓ ↓ ↓

銘さんの「今」を知りたい方は、こちらの動画をチェック!

11月25日にThe Cockpitで行われる日本語ライブ情報はこちら☆
http://www.absolute-london.co.uk/happenings/event/24110

チケット予約☆
https://www.thecockpit.org.uk/show/may_inoue_and_friends_yokohama_calling

Hey London, see you on 25th Nov at The Cockpit!

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About Author

江國 まゆ

岡山県倉敷市出身。ロンドンを拠点に活動するライター、編集者。東京の文芸系出版社勤務、雑誌編集・ライターを経て、1998年渡英。英系広告代理店にて各種媒体の翻訳ローカライズや日本語コピーライティングを担当。日本語翻訳リライトのスペシャリスト。2009年からフリーランス。趣味の食べ歩きブログが人気となり『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房)を出版。2014年に「あぶそる〜とロンドン / Absolute London」を立ち上げ、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむかたわら、オルタナティブな生活、人間の可能性について模索中。あぶそる〜とロンドンが選ぶ『ロンドンでしたい100のこと』(自由国民社)を2018年に上梓。

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