全盲の “ヴィジョン”を観る「ナイトクルージング」

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ロンドン映画祭が無事終了した。今年もワールド・プレミアを含め250本近くが上映され、監督や俳優たちのトークとともに蝶ネクタイやドレス姿の人々がウェストエンドを徘徊し、いつも以上に華やぎを添えていた。

そういえばエグザイルの小林直己さんも「アースクエイクバードのプレミアでロンドンに来られていたみたいだ。製作総指揮はリドリー・スコット監督。日本が舞台の作品で、小林さん演じる日本人カメラマンをめぐる三角関係が主軸というから、すごい役柄!  日本人が活躍していて素直に嬉しい ^^

さて、ロンドン映画祭より遡ること1ヵ月前。9月にはレインダンス映画祭が開催された。意欲的なインディペンデント映画が世界中から集まり、その新鮮な煌めきを観客・関係者全員とシェアするお祭りである。

こちらの映画祭にも、日本からはるばる参加していた映画がある。佐々木誠監督の「ナイトクルージングだ。私は上映当日、ピンと来て突発的に出かけてみたのだが、これが本当によかった。何か大きなメッセージに出会える気がしたのだ。なぜってその映画のコンセプトが、あまりにも斬新だったから。

主役二人が渋谷をナイトクルージング。手前が監督の佐々木誠さん、奥が主演の加藤秀幸さん。

「ナイトクルージング」は生まれつき全盲の男性が、SF映画を監督する(!)という内容だ。

キャッチコピーは:

見えない監督の映画に、あなたは何を“観る”か?

正確には、その映画制作の過程を追うドキュメンタリーが枠としてあり、その中で出来上がった映画「ゴーストヴィジョン」も観ることができるという二重構造になっている。

このドキュメンタリーの主人公であり、SF映画の監督を務めるのは、システムエンジニアで音楽活動もされている加藤秀幸さん。友人である佐々木誠監督のサポートで、この映画の制作が可能になった。

ドキュメンタリーでは生まれつきの全盲である加藤さんの創作ストーリー “ヴィジョン” に従って、映像のプロたちがその世界を創り上げていく様子がとても細やかに描かれている。二次元の感覚や、色や美醜という概念を一切持ち合わせない監督による、ストーリーの映像化なのだ。実現のため数々のトップ・クリエイターたちの助けを借りるのだが、誰もが見えない監督に寄り添い、説明しながら想像力を駆使して彼のダイレクションに従う。加藤さんも音や言葉、体験による説明でどんどん新しい概念を吸収していく。

加藤監督と俳優さんたち。

視覚に依存することなく視覚を作る。これはほとんど神の領域で、無から有を創り出すのに似ている。味覚のない人が料理を作るようなものだろうか。あるいは味がわからない人に、味について説明するという感覚。

見えない人が観るとはどういうことなのか? 坂本龍一さんが言っているように音を視覚化した映画だとも言えるし、もっと哲学的な意味を帯びているのかもしれない。こちらのページにある各界の人々による感想を読むと、このドキュメンタリーの持つ価値をおわかりいただけるのではないかと思う。

そんな中で私が感じたのは、まず「見えない」個性を持った人が、「見える」個性を使って創り上げたチーム作品であることに深い示唆があるというものだ。「X-メン」みたいだなというのが、実は最初の感想だった。それぞれが得意なことを提供して補い合い、何かを成し遂げるというコンセプトがそこにはある。そういう意味では、見えない人が自らの目を獲得したとも言えるし、不可能が可能であることを証明した作品であるとも言える。さらに人は完璧である必要はない、というメッセージもある。

第二に、見える人へ見えない世界を提示したことの意義。俳優さんを決めるときに加藤さんは人の顔についてのレクチャーを受けるのだが、「鼻の位置がここにある顔立ちが美しいと言われています」という説明に、「誰がその位置を綺麗だって決めたの?」と鋭い質問を口にしている。あらゆるものは主観によって成り立ち、価値観は限りなく多様だということを思い出させてくれる言葉だ。

カメラを回す加藤監督。

また、全編に渡って「想像力」がキーになっている。目の見えない人が、どのような世界を見ているのかを、制作チームが全力で想像+サポートすることで短編映画「ゴーストヴィジョン」は成り立っている。当たり前のことなのだが、これは実は人間が「互いを思いやる」ときの想像力と同じクオリティのもので、個人的には最も素晴らしいと思ったポイントだ。

私は不得意なことは自分でせず、得意な人に任せ助けてもらうのが一番だと常々思っているのだが、今回の加藤さんが演じた役割は、かなり逆説的かつトリックスター的だ。なぜなら彼は、自分が最も不得意とする分野で混沌をもたらし、そのパワフルな力で周囲をかき混ぜ、最終的に気づきを与えるという重要な役割を担っているからである。(そのトリックスターぶりはラストでさらに強調されている!)

ちなみにこの映画が「障害者」映画と言われていることには、あまりピンとこなかった。きっと加藤さんがあまりに自然体で、個性が際立っていたからだと思う。加藤さん、人間としてかなりユニークで面白い ^^  この映画を観る最大のポイントは、もしかすると加藤秀幸という個性に触れることにあるのかもしれない。

そしてこの印象はあながち間違ってはいないようだ。なぜなら佐々木誠監督自身も、こう語っているから。

「僕は障害者の人たちを取り上げた作品をいくつも撮っているけれど、特にこのサブジェクトに強い思い入れがあるわけではないんです。ただ人間として意気投合し、興味を持った人と友達になり、その延長に作品があるだけ。」

「ナイトクルージング」、機会あればぜひご覧になってみてください!

「ナイトクルージング」
https://nightcruising.net

佐々木誠監督
http://sasaki-makoto.com

 

レインダンス映画祭で来英中の佐々木誠監督!

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About Author

江國 まゆ

岡山県倉敷市出身。ロンドンを拠点に活動するライター、編集者。東京の文芸系出版社勤務、雑誌編集・ライターを経て、1998年渡英。英系広告代理店にて各種媒体の翻訳ローカライズや日本語コピーライティングを担当。日本語翻訳リライトのスペシャリスト。2009年からフリーランス。趣味の食べ歩きブログが人気となり『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房)を出版。2014年に「あぶそる〜とロンドン / Absolute London」を立ち上げ、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむかたわら、オルタナティブな生活、人間の可能性について模索中。あぶそる〜とロンドンが選ぶ『ロンドンでしたい100のこと』(自由国民社)を2018年に上梓。

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