サマー・エキシビション:今年は日本人アーティスト、Miho Satoが受賞!

0


2週間ほど前、アーティストの友人、ミホちゃんから電話があった。「ロイヤル・アカデミーでイベントがあるんだけどさ、1人ゲストを呼べるから来ない?カナッペとか出るよ。」

詳細はよくわからぬが、「カナッペいいね」と思ってありがたくお誘いを受け、手帳に予定を書き入れた。イベント当日の数日前に、またミホちゃんから電話があった。「あのさ、私は受賞の準備があるから、ちょっと早めに行くわ。ゲストリストに載せておくから、適当に来て。」

え? 受賞の準備って?

よくよく聞いてみると、どうも今年のロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ「Summer Exhibition」でミホちゃんへ受賞内定の通知があり、その準備があるらしい。「イベント」というのは、Summer Exhibitionの受賞式だったのだ。

「えっ?ミホちゃん入賞したの? すごい、おめでとう!」と言ってみたものの、この時点で、それがどれほどすごいことなのか、知るよしもなかったのだった。

アカデミーの初代会長、Sir Joshua Reynoldsの彫像が出迎える。

ピカデリー沿いに堂々とそびえる美術館、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツでは、毎年恒例の公募展「Summer Exhibition」が2ヵ月間に渡って開催される。今年は6月17日から8月17日まで。アートに少しでも興味のあるロンドナーなら、誰もが知る夏の風物詩だ。

調べてみると、なんと1769年にすでに前身となる展覧会が時の国王ジョージ3世によって承認され、開設されている。世界最古の公募展である。「Summer Exhibition」と呼ばれるようになったのは、1870年から。つまり250年以上の伝統を誇る、英国を代表するアート・イベントなのである。

ロイヤル・アカデミーの優秀な学生たちによる「デビュー作品展」のイメージを持っている人も少なからずいると思うが、それは違う。近年はまったく異なる展覧会へと成長を遂げ、気鋭アーティストだけでなく、大御所を含むベテラン・アーティストが世界中から参加するようになっている。

例えばデイヴィッド・ホックニー、ヴォルフガング・ティルマンス、トレイシー・エミン、ブルース・ナウマン、ヴィム・ヴェンダースなどなど。いわば広い意味で世界のアート界を対象とした、英国らしい公募アート展であり、Summer Exhibitionに展観されることはアーティストとして名誉であると同時に、アートディーラーにとってはこれから伸びていくアーティストも同時にチェックできるまたとない機会でもある。

今年の応募枠は18,000点(アーティスト1名につき2点まで応募可能)。そのうち審査を通ったのが1,728点。この公募には賞が設けられており、ほんの一握りのアーティストが受賞の名誉に預かることができる。

今年は7月7日が受賞式だった。

受賞式会場に大変身!

作品を鑑賞しながら♪

受賞式の準備も万端。

友人のミホちゃんこと、Miho Satoは、日本でイラストや仏像彩色の仕事をしたのち、美術大学に進学するため1994年に渡英。ロイヤル・アカデミー・スクールの卒業生であり、その前はシティ&ギルズ・スクール・オブ・アートを終了している。言ってみれば、日本生まれの英国アーティストなのだ。

ロイヤル・アカデミー・スクールを卒業してすぐに頭角を現し、早い時期から現在と同じテイストの作品を発表し続けている。ギャラリー関係者やコレクターも付いているファイン・アーティストなのである。

ミホちゃんの作品は、過去にも何度かSummer Exhibitionで展示されたことがあり、今年は応募した2作品ともに審査を通過。そのうちの「Windy Day 2」が、なんと9つのアワードのうちの1つに輝くという快挙を成し遂げた。「18,000点 > 1,728点 > 9アワード」の確率。これはすごい。

9つのアワードは、細かく言うと「学生」や「女性」、「プリント」や「彫刻」「ドローイング」「油絵」などのカテゴリーに分かれており、作品全般の一般カテゴリーとしては「Charles Wollaston Award」と「The AXA Art Prize」の2つがそれに当たり、ミホちゃんは後者を受賞した。

つまり、世界最古の意義ある公募展において、18,000点 の、ほぼ頂点に立ったというわけ。すごい〜ミホちゃん。何度でも言っちゃう。おめでとう!

アカデミーのCEO、Rebecca Salterさんのスピーチから始まる受賞式。

Miho Satoの受賞の瞬間♡

Miho Sato「Windy Day 2」(右側)

これです!ちょっと反射しちゃってますが・・・

受賞後の歓談♪

長年の友人としてMiho Satoの作品・展覧会は折に触れて見てきた。彼女は古典的なタイプの芸術家だ。アートを通して自分自身と向き合っているという意味で。

抽象画のような具象画。独特のフォルムとブラシ使い、ニュアンス。顔のない少女や動物。

ときに辛そうでもあり、ときに謎めいて見える少女が繰り返し描かれ、ついその暗闇の中に引き込まれそうになるが、少女たちは決してこちらに話しかけてきたりはしないのでご安心を。それはMiho Satoその人であり、彼女と似たものを持っている場合は、あるいは心をグイと掴まれ、囚われてしまう可能性はあるのだが。

Miho Satoの作品コレクターには、よく知られたパブリック・フィギュアが何人もいる。その名をこっそり教えてもらうたびに「へぇ、あの人はこういうクオリティを理解できるのか・・」などと、感慨深くなる。それほどMiho Satoの作品は暗く、ときに抉られるようだが、表面上は凪のように穏やかだ。

左上から時計回りに「moomin1」、「TOWA2024」、「Windy Day 1」、「Night series 2024」

ミホちゃんは言う。

作品を描くことは、自分自身との対話なんだ。もう一人の自分との対話。それは子どもなんだけど、今も私は彼女のご機嫌を取ろうとしてるってわけ。私は彼女のことを、「mini me」と呼んでいるんだけどね。

ミホちゃんはイメージの収集にも余念がない。雑誌や新聞など、日頃から気になるイメージを拾い集めているらしい。自己投影としての少女以外では、そんなところからインスピレーションを得た作品も多い。ムーミンや尼僧、鳥や犬、猫、その他もろもろ。

そして絶対に忘れてならないのが、ユーモアのセンス! 作品によっては本当に可笑しくて「クスリ」と笑ってしまうような滑稽さが潜んでいる。おそらくもう一つのクオリティがそこにある。

Miho Satoは、ニュアンスの細やかな表現が、絶妙に上手い。

右下がもう1点の作品「Hairy Dog」

おっと。ちなみに今回の受賞作「Windy Day 2」もおそらくアーティストの投影ではあるが、なんとなく明るい雰囲気が漂っているではないか。これは、果たして何か変化の兆候なのか。はたまた今回も多面体としてのMiho Satoの一側面に過ぎないのか・・・。

ミニ・ケーキ、美味しかった♡

ミホちゃんと話していると、何か集合無意識のようなものを感じるときがある。顔のない少女や、ざらりとした質感の無機質な作品を眺めていると、世界には多くの「mini me」がいるのかもしれないとも思う。

しかし、Miho Satoが立っている場所は、少しずつ変わってきているのではないかとも感じている。そんな息吹を皆さんもぜひ、今年のSummer Exhibitonで感じとってみてほしい。

Royal Academy of Arts
Summer Exhibition 8月17日まで
https://www.royalacademy.org.uk/

Miho Sato
https://www.mihosato.net/
Instagram: @miho_sato_

Share.

About Author

アバター画像

岡山県倉敷市出身。ロンドンを拠点に活動するライター、編集者。東京の文芸系出版社勤務、雑誌編集・ライターを経て、1998年渡英。英系制作会社にて数多くの日本語プロジェクトに関わった後、2009年からフリーランス。2014年にイギリス情報ウェブマガジン「あぶそる~とロンドン」を創設。食をはじめ英国の文化について各種媒体に寄稿中。著書に『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房) 『ロンドンでしたい100のこと』『イギリスの飾らないのに豊かな暮らし 365日』『コッツウォルズ』(自由国民社)。カルチャー講座の講師、ラジオ・テレビ出演なども経験。これまで1700軒以上のロンドンの飲食店をレビュー。英国の外食文化について造詣が深く、近年は企業アドバイザーも請け負っている。チャネリングをベースとしたヒーラー「エウリーナ」としても活動中(保江邦夫氏との共著『シリウス宇宙連合アシュター司令官 vs.保江邦夫緊急指令対談』もある)。仕事のご依頼は ekumayu @ gmail.com までお気軽に。

ウェブサイト

Leave A Reply

CAPTCHA