日本の伝統色に再会する

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子どものころ、塗り絵が大好きだった。36色くらいある色鉛筆を持っていて、組み合わせを考えながら描かれてある洋服やバックグラウンドを塗るのが好きだった。純粋に色の組み合わせで遊んでいたのだと思う。(かなり遅い年齢まで塗り絵をしていたので、母は随分と心配したようだけれど・・・)

そのころ使っていた色鉛筆セットの中に「せいじいろ」というのがあって、緑でもない、エメラルドでもない、薄く透明感のあるグリーンがことのほかお気に入りだった。しかし「せいじ」にどんな漢字を当てるのか、どんな意味があるのかなんて、当時は全く気にしなかった。ただ「はだいろ」なんかよりも、ずっと早く小さくなってしまい、困ったことを覚えている。

塗り絵を卒業してすっかり大人になったころ、「せいじいろ」は青磁色だったんだと、はたと気づいた。あぁ、青磁色かぁ。なんだ。そうかと、すごくしっくりきた。

二十歳を少し過ぎた頃、母親に連れて行ってもらった着物屋さんで、たおやかな檸檬色とも言えそうな、落ち着いた黄の地に日本古来の植物のパターンが同じ暖色のバリエーションで施された訪問着に一目惚れした。着物の美しさにも身悶えするような憧憬を抱くようになったのもそのころ。選ぶ洋服も、どんな色であれ少しくすみがかかったような自然な風合いを好むようになった。

やっぱり日本の伝統色が好きだなぁと自覚を強めたのも、20代の頃だろうか。ロンドンの自宅には、今も染めや織りの本と一緒に、2001年発行3刷『日本の色辞典』(2000年初版・紫紅社)があり、引越しのたびに持ち運んでいる。その本では「青磁色」について『源氏物語』を引きつつ、「わが国へ青磁が伝えられたのは平安時代といわれ、その神秘的な美しさに、秘色<ひそく>と呼んで珍重したという」とある。秘された色かぁ。やはり、平安時代の人々も、青磁色の美しさには心を奪われたようだ。

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この度、ケンジントンのJapan House Londonにて4月5日から5月19日まで、京都「染司よしおか」による典雅な染めの世界が展観されると聞き、楽しみにしていた。

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プライベート・ビューでご挨拶される吉岡さん

プライベート・ビューでご挨拶される吉岡幸雄さん

プライベート・ビューでは「染司よしおか」五代目当主で染色家の吉岡幸雄さんがご挨拶され、その話術で大勢の人々を魅了しておられた。実は、この吉岡幸雄さんこそ、前述した『日本の色辞典』の著者だと知ったのは、この会の後、自宅に戻ってから。「そういえば・・・」と本棚を眺めると、ありました。色辞典。なんとも懐かしく、旧友に再会したかのような心持ちを味わいつつ、しばし読みふけった。

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すべて草木から生まれる色・・・

すべて草木から生まれる色・・・

今回の展覧会のテーマは「襲  kasane」。平安時代の貴族たちが愛でた天然色の世界をロンドンへと移植し、女房たちが楽しんだ色彩の妙に触れてもらおうという趣向だ。

平安時代の女房装束は、華やかゴージャスの一言。これだけの色目を揃えて重ねていくのは、さぞ楽しい経験だったに違いない・・きっと時代のお洒落番長もいたのだろう。そんなふうに想像してみると楽しいのだけど、個人的にはやはり、江戸の粋な色柄には叶わないかなぁなんて^^

染色はイギリスで興った産業革命により、いったん、その方向性を化学染料へと転換させられたが、飛鳥時代から続く伝統手法を見習わないまでも、自然から得られるもので染めることは未来への示唆を投げかけている。時代は変わる、回る、進化する・・と考えると、草木染めの良さにさらなる磨きがかかり、注目度が上がっても何らおかしくない。

襲!

色目の研究!

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東大寺のお花会で献上される

東大寺のお水取りに献上される椿の造り花

吉岡幸雄さんのプロフィールを読むと、『日本の色辞典』を刊行している紫紅社は、氏が立ち上げたものだとある。広告・出版の世界で活躍されていた吉岡さんが生業を継ぐことを選択された思いは気軽に推し量ることはできない。しかしその決断があってこそ、現代の私たちがいにしえの雅に触れられることを思えば、ありがたいとしか言いようがない。

ちなみに吉岡さんの色辞典に載っている伝統色は466色。茶系や鈍色のバラエティにシビれるw

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ジャパン・ハウスは世界の日本ファンへ向けて発信する日本のアンテナ・ショップの役割を担っていて、その洗練や陳列されているプロダクトのクオリティには毎度頭が下がる。その現代感覚を反映したミニマルなスペースこそ、ジャパン・ハウスの本領ではあるのだが、今回の展覧会に関してはそれがベストだったのかどうか。

個人的な感想だけれど、草木染めの紹介なので何か自然との繋がりがわかるビジュアルがあってもよかったのではないかなと思った。また照明も展示の一部なので、陰影を感じさせる少し暗めの照明か、あるいは行灯のようなものを要所要所に置くか・・・王朝のみやびを感じさせる工夫があってもよかったのではないだろうか。色は光との関係によって浮かび上がってくるもので、質感を表現できるのも陰影だけだ。展示方法が少しそっけなく感じたが、同館らしいコンテンポラリーな要素を重視した結果かもしれない。

とはいえ、英国にいながら日本の伝統色に触れるまたとない機会となっている。期間中、ぜひお運びいただきたい。

LIVING COLOURS  – kasane –
かさねの森 染司よしおか 

会期:2019年4月5日〜5月19日
会場:Japan House London, 101-111 Kensington High Street, London W8 5SA
入場料:無料
Japan House London: www.japanhouselondon.uk
染司よしおか:www.textiles-yoshioka.com

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岡山県倉敷市出身。ロンドンを拠点に活動するライター、編集者。東京の文芸系出版社勤務、雑誌編集・ライターを経て、1998年渡英。英系制作会社にて数多くの日本語プロジェクトに関わった後、2009年からフリーランス、各種媒体に寄稿中。2014年にイギリス情報サイト「あぶそる~とロンドン」を立ち上げ、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむかたわら、オルタナティブな生活、人間の可能性について模索中。著書に『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房) 『ロンドンでしたい100のこと』『イギリスの飾らないのに豊かな暮らし 365日』『コッツウォルズ』(自由国民社)。NHK文化センター名古屋教室「江國まゆのイギリス便り」講師。MUSIC BIRDのラジオ番組「ガウラジ」に月一でゲスト出演。チャネリングをベースとしたヒーラー「エウリーナ」としても活動中(保江邦夫氏との共著『シリウス宇宙連合アシュター司令官 vs.保江邦夫緊急指令対談』もある)。Instagram: @ekumayu

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