ヴィクトリア朝のイギリスで活躍したラファエル前派の画家、ダンテ・ガブリエル・ロセッティの展覧会「THE ROSSETTIS」が、9月24日までテート・ブリテンで開催中です!
テート・ブリテン
https://www.tate.org.uk/visit/tate-britain
先日行ってきました。
ロセッティと言えばラファエル前派の中核を成す画家で、中世の伝説や宗教など古典的なものを題材とした、耽美的な画風で知られています。
こういう感じの絵の・・・
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ラファエル前派というのはヴィクトリア朝のイギリスで起こった芸術運動です。テート・ブリテンの収蔵品に、シェイクスピアのオフィーリアを題材にした絵がありますでしょう? 美女の川流れ・・・。ジョン・エヴァレット・ミレイという人が描いた絵です。
このミレイが、ラファエル前派の親玉みたいな人。後にヴィクトリア女王にも可愛がられちゃうマルチで誠実な画家であります。
産業革命などで失われそうになった人の感情や抒情的なものを取り戻したいという強い思いが、ラファエル前派のアーティストたちの底流にあります。だから人の心に訴えてくるのでしょうね。ミレイ、ロセッティ、ウィリアム・ハントなどの画家ががんばって人間性の回復を目指しました。おっと、少し語弊がありますね……彼らが見ていたのは。中世の遠い昔、ちょっとゴシックな世界観でした。
というわけでラファエル前派はロマン主義的な側面が強いのですが、ちょっぴりオカルトが入っている。言い換えると、象徴主義的、ということですが。それぞれのアーティストが、自分が美しいと思う霊的な題材を、かなり写実的な手法で存分に表現する感じです。
私はラファエル前派とその周辺には昔から親近感があり、チャンスがあれば展覧会に足を運び、画集もいくつか持っていてなんとなく知識はあるのですが、このロセッティという人は実はあまりピンとこない画家の一人です(笑)。おそらく彼自身が思い描く理想の女性像と、私自身が女性として持っているコアな部分が合致しないからなんだろうなと分析しています。
彼が描く女性の顔のフィギュアが、あまり好きではないからかも。どの絵画に描かれる女性も、一目で「ロセッティの女」だと分かる独自性があるのですが、その画風が好みではないんですね。漫画家さんみたいな感じで、顔の描き方で誰の作品かわかる。一方、彼の同志だったミレイやハントなんかは、書き分けはするけれど客観性も重要視していたので、顔が全部同じみたいなことにはならないわけです。
裏返すと、ロセッティには客観性があまりない。顔の描き方にクセが出ちゃう。自分が美しいと思う内面的な世界をどんどん描いていく人。
そんなロセッティが何度も取り組んでいる題材の一つに、ジャンヌ・ダルクがあります。
この作品はなかなか興味深いと思いました。力強く、ジャンヌの内面の美しさをよく捉えていると思います。手の力強さと大きさにもそれが現れている。
ロセッティの中でも私が一番好きなのは「受胎告知」でしょうか。少女のようなマリアが微笑ましい感じです^^ 本展では最初の展示室に掲げられていました。
ガブリエルの足元に黄金の炎がチラついていて、ちょっと幽霊みたいなのも良いです。
題材としていただけないのは「アーサーの墓」と題された小品。アーサー王の死後、王妃グィネヴィアが修道女になって喪に服しているのに、騎士ランスロットが王の墓越しに未だ言いよっている図(爆)。個人的にランスロットとグィネヴィアの恋愛話はでっち上げだと思っているので、NGな題材ですw
ただ作品としては状況をよく表し、シンプルな感じがとても興味深い。ロセッティが漫画とか描いたらとても面白い作品を残したのではと思います。
例えばこちらの初期の線画。
同士であるウィリアム・ハントが、当時のロイヤル・アカデミーの古いやり方に「否!」を突きつけている風刺画です。吹き出し内の「Slosh」というのは、当時の学長のニックネームだそうなので「Sloshの野郎メが・・・」みたいな感じでしょうか。手の動きが怪しいですがw 吹き出しで書いちゃうなんて、漫画的ではありませんか。
1851年頃の作品ですが、イギリスではその10年前に風刺漫画雑誌「パンチ」が創刊されて大人気を博していた頃。きっとロセッティたちも夢中になって読んでいたのかもしれないですね。
余談ですがこのラファエル前派とその周辺の人たち。ゴシップには事欠きません。
当時としては極めて勇気のあったことだと思うのですが、階級を超えて結びついた愛が多いこと。もちろん絵画モデルとの浮気は当たり前。互いに見て見ぬ振りをし、うまく距離を取りながら仲間内で男女入り乱れての結婚・不倫劇とかですね・・・かなりお盛んなんです^^ (心のままに行動したとも言えますね)
私のお気に入りのエピソードは、ミレイと奥さんのユーフェミアとの馴れ初め。ラファエル前派の理論的な指導者であったジョン・ラスキンという美術評論家がいるのですが、ユーフェミアは、もともと彼の奥さんだったのです。しかしラスキンには性的な問題があり、結婚しても夫婦関係が生まれなかったことからユーフェミアが困惑。そのことを理由に離婚訴訟を起こしたわけですが、当時としてはすごく勇気ある行動だったのではないでしょうか。
ラスキンと結婚していた当時から、ミレイとは同じ美術界で知己の仲であり、彼のモデルを務めるなど親交を深め、二人はやがて恋愛関係に。離婚が成立すると同時に結婚し、8人の子供に恵まれたのです。ロマンチックですよね。この三角関係は、当時格好のゴシップ・ネタとして広くもてはやされたようです。
ロセッティ自身のゴシップについてはもっと色々あるのですが・・・ウィリアム・モリスの奥さんとの不倫とかですね。このモリスの奥さんのジェーンさんというのも、なかなかの強者です。彼女の風貌に強烈な違和感を覚えるのは私だけでしょうか^^;
当時の画家たちの熱い注目を一身に集めたミューズと謳われている彼女、どう見てもロマ風です。ロマが悪いということでは全くなくて、当時のヴィクトリア朝のイギリスでは相当に個性的な容貌だと思うのです。言い換えると異国情緒に溢れており、インスピレーションをもらいやすい。もっともイギリス男性というのは今も昔も異国情緒を好むものではありますが・・・
ちなみにジェーン・モリスはアーサー王物語のグィネヴィアのモデルとかやったみたいですが、「ちがうくね?」と、個人的には思っております(笑)。もっとふさわしい人がいたんじゃないかなぁ。なんてね。
こういう仲間内での恋愛沙汰や葛藤、あるいは上から目線の改革(笑)みたいな物語を見ていると、日本の近代文学の世界に通じるものがあると感じます。なんだか白樺派の人たちとやってることが似てるだなぁ、なんて・・・^^; でも日本の場合は心中とかになりがちですが、英国の場合は姦通罪みたいなものがないので死よりも生を選ぶ人の方が多かったよう。カルチャーの違いなのかもしれないですね。
以上、ロセッティ展で想ったことを徒然なるままに綴ってみました。
すごく主観的にご紹介しましたが、本展の本来の意図などについてはこちらの西洋美術のスペシャリストであるYokoさんの記事に詳細が書かれています。素晴らしい記事なので、ぜひお読みになってみてください。テーマは「愛」♡
皆さんもご興味あれば鑑賞されてくださいね^^