季節は移ろい、あぶそる~とロンドンが発足した秋が、ふたたび巡ってまいりました。この一年を振り返り、絶えず何かしらの脅威にさらされてますます未来が見えにくくなっている世界の現状を、改めて実感します。さて、オフラインになっていたあいだも、英メディアはいろんなこと(キャメロン首相と豚の首などなど)で騒いでいました。が今回は品よく(?)、セレブ建築家のザハ・ハディードの話題をとりあげることにいたします。
洋の東西を問わず建築界では超大物の彼女は、日本では「キールアーチ」で超有名になりました。奇抜さを強調させたい意識が働いてか、日本のメディアは「イラク人」とすることが多いものの、彼女は英国の国籍を取得して英国で活躍する建築家(イラク生まれの女性ゆえに、英国内では軽視されてきたという声も)。そのザハ・ハディードが、RIBA (王立英国建築家協会)から女性で初めてゴールドメダルを授与されたのです。
167年の歴史をもつこの賞は、フランク・ロイド・ライトやル・コルビュジエなどの巨匠はもちろんのこと、日本人では丹下健三に磯崎新、そして(新国立競技場でスッタモンダあった)安藤忠雄と伊東豊雄も受賞。さっそく、9月24日にBBCラジオ の朝の番組が、女性初の受賞者になったザハ・ハディードの「喜びの声」を聞こうと(?)電話インタヴューを試みました。ところが、途中で彼女がキレてしまいインタビューは中断!
数年前にはエリザベス女王から勲位も叙せられた「デイム・ザハ」が、番組プレゼンターの質問に怒って電話を切ったとあって、英メディアは大騒ぎ…。このインタビューに関しては、「訊き手が意地悪」(たしかに!)と言う同情や、「インタビューするには最悪な相手」(これもたしか?)という声が聞かれます。幸か不幸かルックスがド迫力のデイム・ザハ。彼女にどんな印象をもっているかによって、個人の意見は分かれるようです。
で、なぜ彼女がキレたかというと、まず、番組プレゼンターのセーラ・モンタギューが、デイム・ザハのデザインによる新スタジアムをはじめ2020年FIFA ワールドカップの開催準備が進むカタールの建設工事で、これまでに1200人以上の出稼ぎ労働者が亡くなっている事実を指摘。「これだけの犠牲者が出ていることを、どう思われます?」――。すかさずデイム・ザハも、「わたしの手掛けている建設現場では一人も死んでないわよ」と反論。
プレゼンターはさらに、(未実現の建築で知られる「アンビルトの女王」が、触れてほしくなかった?)東京オリンピック新国立競技場の計画が白紙撤回になった件に言及。畳みかけるような質問に、「あれはスキャンダル」、施工業者がいなかったから手を引かざるをえなかった、と彼女も説明を試みようとしたものの、「(デザインのせいで)建設費が跳ね上がったからでは?」と半ば断罪するかのような問いに、ブッチギレたのでした。
このあとBBC は、「デイム・ザハ・ハディードの言葉どおり、カタール新スタジアムの建設現場においては死者が出た証拠はない」ことをウェブ上で訂正し、ご本人にも謝罪。でも、このやりとりをリアルタイムで聴いていた方は、まれに見る(聴く)「ライヴ舌戦」というか「白熱インタビュー」に、ラジオの前で拍手喝采したかもしれません。どちらに拍手を送ったかは別として…。いやはや、だれにとっても厳しい世の中でございます。
ちなみに、東京オリンピックの「スキャンダル」ではいの一番に責任をとるべきだった文科相が、検証委に責任を指摘されてようやく辞意を表明。新国立競技場問題といいエンブレム問題といい、すでに恐ろしい額の税金が無駄になっている東京オリンピックは、波乱含みのスタートです。業界のセレブばかりにデザインを任せようとし、それを選ぶ人たちもエリートだけを揃えたところにも、問題があったんじゃないでしょうかね~。
読書の秋です。謎とロマン、そして気品あふれるノンフィクション『ヴェネツィアのチャイナローズ』、あるいは、悲しくも今シーズンでサヨナラとなる「Downton Abbey」の世界をさらに深く愉しむために、(かな~り分厚い本ですが)『使用人が見た英国の20世紀』など、お読みになってみてはいかがでしょう?(と本の宣伝。スイマセン)
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