ボタン職人のヨシオさん

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barvisit


LONDON BAR VISIT #5 (Tokyo ver.)

帰国すると、かならず行くお店がある
そこは私の姉のお気に入りで、姉は友人Jと月に一度は行っているらしい
イイお店なんだ

でも、そこの常連さんに、まさかおじさん天使がいたなんて
私としたことが、不覚でした…

今回のお話、それは帰国して早速姉達と飲みに行った夜のこと

待ち合わせ時間よりも30分早く着いた
その時刻、まだお店は空いて
カウンター席にカップルが一組と
端っこにおとなしく座って飲んでいる、呑気そうな男性客が1人

「あれ…?
あ、やっぱりそうだ!!!
日本在住おじさん天使、ここで見つけた!」

後ろ姿を見て、私はその人がすぐにおじさん天使だとわかりました
(最近、おじさん天使を見つける速度が速くなったような気がする)

私は隣の席に座らせてもらって
姉たちが来るまでおじさん天使とお話をすることにした

天使の名前は、ヨシオさん (見るからにそういう名前がぴったり!)
*これは日本用の名前、天使の名前は、とても地球人の私達には
発音できないらしいので、名前はその土地に合わせてつけている

「ヨシオさん、このお店によく来るの?」
「はい、週に一、二回は、必ず。私はここに来るのが楽しみで…」
と、言いながら、店主の金子さんに笑いかけ
もう一杯同じものを、とおかわりをした
ヨシオさんは、日本酒が大好きです

「じゃあ、ヨシオさん、エジンバラの大酒飲みジンジャーをしっている?」

「もちろんです!ジンジャーとは、いつも仕事が終わってから飲んでいました」

「ヨシオさんの天国のお仕事って、なんだったの?」

「私は、ボタン職人でした、だけど卵の殻を集めすぎてね…
それで798年の天国追放です」

「え?なに?ボタンを作るのに、卵の殻が必要で
それを集めすぎて、神様のお叱りをうけて、天国追放の刑になったの?」

私は、意味がわからなかったので、ヨシオさんに詳しい話をききました

ボタン職人として大変なこだわりを持っていたヨシオさんは
卵の殻を砕いたものと、流れ星の屑を使って、繊細なボタン作りをしていた
すると、そのボタンが天国の人気商品になり、大ヒットを飛ばした
それからと言うもの、ヨシオさん、とにかく質の良い卵の殻を求めて集めて集めて
天国中を巡り歩いているうちに
[卵取りすぎ注意] の勧告書が何通か着ていたのに、気付かずにいて
六通目の勧告書が届いた時には時すでに遅し…
天国追放の刑が決定し、[ 宇宙のどこかで798年間、良い行いをしてくること ]
という例の罰が下ってしまった、というのが短くまとめたヨシオさんの長い話
(おじさん天使は、皆んなおしゃべりなんです)

追放が決まったヨシオさんは
エジンバラ在住の元祖おじさん天使ジンジャーに連絡をすると
「地球は良いところだ、是非来い」という返事をもらったので
迷わず地球を選び、ちょっとうるさいジンジャーから少し離れていたい気もしたので
エジンバラから遠く離れた、日本を選んだ
なぜ日本にしたかという理由? それは?
たまたま、天国で誰かがお土産に持ってきた日本酒の味が忘れられなくて…
ということだったのです

ここまで話すと、ヨシオさんはまた店主の金子さんにおかわりを頼みました

「ヨシオさん、ところで、その、何か良い行いをするという点では
どうしているの?」

「私はこだわりのボタン職人だったからね、やっぱり何か良い物を
作る仕事をしたいと思っていた時に、モモさんっていう営業マンに出会ってね
話を聞くうちに、私はどうしても、モモさんに手を貸したくなって…」

そう言って、ポケットから出して見せてくれたものは、鉛筆でした

「私が天国から東京に降りたって、まだ2週間も経たない頃ですね
交通量も多い街中の木に隠れるようにしている立っている
ちょっと情けない男に目が留まりました
そして、天使の勘でしょうか?
なんとなく気になってね、その男の後について歩いてしまいました
見ていると、男は営業マンのようで、何かを売り歩いていました
あちらこちらに声をかけ、バッグの中に入っているものを見せるのだけれど
誰も気に留めず、商品は全然売れない… で、気がついたら辺りは暗くなっていて
1つも売れずたくさん入っているバッグを抱えながら
男は赤ちょうちんに入って行ったので、私も彼に続いて入り
その夜、私はその男と結局朝まで飲んで、話を聞いてしまいました
そして、気がついたら、私はその男、モモさんのために力を貸す事になっていたんです」

話をよくよく聞けば聞くほど
ヨシオさんは、名前通り、凄く良い人( 良い天使 )だった

営業マンというか、物売りのモモさんがあの日売り歩いていたもの
それは、黒い男物のふつうのソックスでした
今はどこでも、三足1000円ぐらいのソックスが売っている時に
なんの変哲も無い、ふつうのソックスを 一足980円で売ろうとしてもね…

「 で、その夜、モモさんが赤提灯で朝まで飲みながら話してくれたことは
仕事の悩み、家族の悩み、そして人生の悩みの他に
モモさんのお祖母様から受け継いだという、400年生きた大木の話でした
お祖母様は、モモさんに
「モモ、お前には私の大事な400年生きた木を譲るから
その木で大勢の子供達が使えるものを作って
世のため人のために奉仕するのですよ」
と言って死んでしまったそうだ
モモさんは、そんな大それたことを!と、400年生きた大木を
譲り受けたことが重荷で、また1つ変な悩み事が増えてしまった
と、話をしてくれました

私は400年生きてきた樹と、それを使ってこれから大勢の子供達に役立つものを作る…
という話に、深く興味を持ちました
これこそが私の使命なんじゃないか、と思ったのです

モモさんが思いついたことは
鉛筆を作って世界中にいる鉛筆を持っていない子供達に配ること
でも営業の仕事しかやってこなかったモモさんには
鉛筆を作るなんて、考えられない、どうしたものか…と
悩んでいたのです

そこで、私は、鉛筆を作ることを引き受けるので、モモさんは
それを持って世界中を歩き回って、鉛筆を必要としている子供達に配る
というのはどうだろうか、と提案したのです」

「ふ〜ん、なんだかねえ…
お祖母様から譲り受けた、大切な400年の樹を使って、作る物は、鉛筆か…」
と、思ったけれど

この情けない営業マンのモモさんと
人の良いもとボタン職人のおじさん天使、ヨシオさんには
なんともピッタリな話のかな…、と思った時

カウンターの向こうから店主の金子さんが言いました

「実を言えば、私達もヨシオさんに色々と力を貸してもらっています」

何をしてもらっているのかわからないけれど
このお店、いつ来ても美味しいお料理とお酒が出てくる
店主の金子さんも、スタッフも感じイイし…
ヨシオさん、天使の粉でも振りかけたのかな?

その時、ずいぶん約束時間に遅れた姉がニコニコしながら入って来た
私は、ヨシオさんと、もう一度乾杯してカウンターを離れ
私達のテーブル席へ、移りました

色々なところに住んでいて
様々なことをしているおじさん天使たち
彼らの話を聞くだけで、いつもワクワクドキドキしているけれど
今夜‬神楽坂であったおじさん天使のヨシオさんの素朴な人柄と優しさに触れて
私は、ほんわかと心が温まった

日本には、ヨシオさんのようなおじさん天使が沢山いると思う

ヨシオさんみたいなおじさん天使がいる日本は、
これから最低でも790年は、優しさに包まれるはず

日本に優しい輪がどんどん広がりますように…
その夜のお酒とお料理、また格別でございました!

th_神楽坂金平

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今回の神楽坂のお店は、金平
もしおじさん天使のヨシオさんに会えなくても、ガッカリしないで!
店主の金子さんが、きっと優しく迎えてくれるから!

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東京生まれ、ロンドン在住の絵本作家。高校卒業してすぐに渡米。その後、パリ、南仏に暮らし、ロンドンへ。ロンドンでセシルコリン氏に師事、絵や陶芸などを学ぶ。1984年からイギリス人の夫と2人の子供と暮らしながら東京で20年以上イラストレーターとして活躍、その間、「レイジーメイドの不思議な世界」(中経出版)の他、「ある日」「ダダ」「パパのたんじょうび」(架空社)といった絵本を出版。再渡英後はエジンバラに在住後、ロンドンへ。本の表紙、ジャムのラベル、広告、お店の看板絵なども手がけている。現在はロンドンのアトリエに籠って静かに絵を描いたりお話を創る毎日。生み出した代表的なキャラに、レイジーメード、ダイルクロコダイル氏などがいる。あぶそる〜とロンドンにはロンドンのカフェ・イラスト・シリーズを連載。好きなものはお茶、散歩、空想、友達とのお喋り、読書、ワイン、料理、インテリア、自転車、スコーン、海・樹を見ること、旅行、石(特にハート型)、飛行場etc etc...

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1件のコメント

  1. 僕も探してみよう!
    じじばばてんてん(-_-#) ピクッ ちがた おじさま天使☆彡

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