期間限定の人生の中で感性を育て続ける

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母は生前、何か思い出したように戦争中に経験した話をしてくれました。
それは、恐ろしい思い出話だけはなく、
全く母らしい、と思うようなことまで様々で、
例えば、退屈な田舎暮らしが嫌で、どうしても馴染むことができなかった疎開先から、妹を連れて危険な東京へ戻って来て「ホッとしたのよ」
と、言ったかと思うと、こんなことも話しました。
それは、大好きな東京が大空襲を受け、瓦礫の山となってしてしまった中を歩くと、あちらこちらに死体が転がっているのを目撃し、
「初めは恐怖を感じるのだけれど、段々と死体にさえ慣れてしまうのよ、戦争って本当に怖いわね」と言い、そんな恐ろしい中で小さな花や雑草を見つけ、そこに命の力強さを感じて勇気をもらうと、「ふわっと幸福を感じたの」などと、驚くようなことを淡々と、そしてそれを懐かしそうに、話してくれたのです。

パンデミックがそろそろ終わりそうだと思ったら、ヨーロッパ大陸でのまさかの戦争…
風の時代に入って、隠れていた様々な氣がぐるぐる回り始めたのでしょうか? そして地球に溜まっていた膿が出てきているのかと思うような、大混乱に陥っている世界情勢。あっちを向いてもこっちを向いても、右も左も今は不安になることが広がっています。残念でなりませんが、そんな時だからこそまず身体を丈夫にして心を平和に保って、とにかく元氣でいること、そして日常の中の小さな幸せを見つけ続けていくことが、とても大切なことだと、久しぶりに母の話していた昔話を思い出して、考えてしまいました。

「ここは私がちょっと贅沢をするときに寄るカフェなの」

最近、こういうカフェが少なくなったと思いながら
友人Rと入ったお店は乃木坂にあります。
乃木坂には広告関係の事務所が多く、私はイラストレーターとして
大いに働いていた若い頃にはよく通っていた街です。
一歩奥まった場所にあるこのカフェには氣がつかなかったけれど、
当時から多分あったのではないか?と思わせるそれは、
今はあまり見かけない懐かしい雰囲気のお店です。

さて、私とRが知り合ったのは、次男が生まれた頃だからもう30年前。
目と目があった瞬間に、「あ、この人私の友達だわ!」と思いました。
当時、Rは有名なファッション系企業の取締役。
私とは別世界の暮らしをしていたのにも関わらず、その思いは当たって私達はすぐに意気投合して友達になりました。

不動産が大好き、インテリアデコレーションが大好き、お酒が大好き、楽しいことが大好き!

私たちには好きなことで共通するものがいくつかあって、それらを共有しながら
楽しい時間を過ごして氣がついたら、数十年が経っていたのです。

Rは昔も今もパワフルでキュート。インンテリアデコレーターになったのは、なんと60歳になってからです。でも、彼女の稀にみるセンスの良さで、あっという間に大人気になってしまいました。

「ねえ、カオちゃん、私あと10年働くことにしたの」とRは去年私に宣言しました。
「残り少なくなってきている人生で、今を楽しまなかったらどうするの!
先のことなんて、あまり考えないで、やりたい!と思ったことは実行に移すの。」

Rの流儀にのっとって、彼女は仕事場として使う物件を乃木坂に購入したのです。
広くはない部屋だけれど、スケルトンにして、彼女のセンスで使いやすく、楽しそうな空間に造り変えました。
この数年自宅の近くに仕事場を探していたらしいのだけれど、
なかなかRのお眼鏡にかかる物件がなかったのだそう。
そしてついに、去年それと出会ったのだ。
高層ではないけれど、目の前が開けているので、とても眺めが良くて、素晴らしく氣持ちが良い部屋、この空間に居れば良い仕事がきっとどんどん入ってくるに違いない。

私は、楽しそうに生きている人と一緒にいたいと常々思っている。そして、日常のあちこちで見かけるそんな人達に目が留まる。
どんな仕事でも、一生懸命にやっている人を見ると嬉しくなって、
彼らを見かけるとついつい見惚れてしまうのです。
それはきっと彼らから幸せなエネルギーが出ているからなのでしょう。

汗水垂らしながら、重い荷物を運んで、元氣にいつも走っている宅急便のお兄さん、
ニコニコして、注文を取りに来るウェイターやウェイトレス、
テキパキと仕事をこなす銀行員や看護婦さん、
夢中になって仕事にのめり込んで何時間でもデザインを考える建築家、
そうそう、コペンハーゲンのイタリアンマーケットで見たレジのおじさんは、
歌を歌いながらくる人来る人に笑いかけて、仕事をしていた。

Rも私に「ねえ、カオちゃん、こんなお部屋にするの、これどう思う?素敵じゃない?」とさまざまなアイディアを出して楽しそうに話してくれる、そんなRを、見るとやっぱり、キラッと輝くオーラを感じる、つくづく幸せなのだと思う。

私は、朝起きて、お茶を飲みながら、育てている草花に水をあげたり、集めている石をじっくりみたり、そんなことをするのが好きで、そうしていると幸せだな、と感じる。
そして夕方が近づく頃になると、またなんだかウキウキしてくる。
それは、私の好きな夕食の時間が近づいてくるから、
「今夜は何を作ろうかな? 何を呑む?」
そんなことを考えて、料理を作り始める時、私はただただとても幸せになる。日常の襞の中に隠れていて、ちょこちょこと顔を出すなんという小さな幸福達!

良い仕事をすること、これは私が追い求め続ける大事ではあるのだけれど、ほんの一瞬の楽しさををすくい上げる感度を磨くことや、やりたい!と思ったらすぐに始める行動力、こういうことが実はとても大切で幸せな人生に一番基本のところで繋がっている、と最近思うようになった。

私は、Rのように、なかなか仕事部屋としての不動産を、ポンと買ってしまう勇気が、それにお金もないけれど、でも、明日じゃなくても、明後日終わってしまうかもしれないのが私たちの人生、何か思いついたら、「何を迷っているの?今始めないと!」Rに背中を押されなくても、行動しなければ!

Rは80歳になった時も、「ねえカオちゃん、私ね、あともう少し仕事続けようと思うの」と、私に宣言するような氣がする。

私も同じ!その歳になっても、没頭して絵を描いたり想像の物語を広げることが出来るようでいたいと思っている、そのためには身体も精神も柔軟に保ち、小さな幸せを見つけられる感性を育て続けなくてはならない。

何があってもこの人生は死ぬまでの期限限定、やりたいと思ったことがあったら、行動に移さないと!

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【今日のカフェ】
カフェ・ド・ラペ
港区南青山1−12−22

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東京生まれ、ロンドン在住の絵本作家。高校卒業してすぐに渡米。その後、パリ、南仏に暮らし、ロンドンへ。ロンドンでセシルコリン氏に師事、絵や陶芸などを学ぶ。1984年からイギリス人の夫と2人の子供と暮らしながら東京で20年以上イラストレーターとして活躍、その間、「レイジーメイドの不思議な世界」(中経出版)の他、「ある日」「ダダ」「パパのたんじょうび」(架空社)といった絵本を出版。再渡英後はエジンバラに在住後、ロンドンへ。本の表紙、ジャムのラベル、広告、お店の看板絵なども手がけている。現在はロンドンのアトリエに籠って静かに絵を描いたりお話を創る毎日。生み出した代表的なキャラに、レイジーメード、ダイルクロコダイル氏などがいる。あぶそる〜とロンドンにはロンドンのカフェ・イラスト・シリーズを連載。好きなものはお茶、散歩、空想、友達とのお喋り、読書、ワイン、料理、インテリア、自転車、スコーン、海・樹を見ること、旅行、石(特にハート型)、飛行場etc etc...

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