
3年以上もご無沙汰してしまいました。アーティストの赤川薫です。
この3年間に色々なことがありました。
まず、大人の事情であまり詳細は語れないのですが、「あぶそる~とロンドン」で鉄道のコラムを連載させて頂くようになったおかげで、ますます鉄道ジャーナリストや鉄道写真家として充実したお仕事をさせて頂けるようになりました。
また、当時3歳でまだヨチヨチの名残があった小鉄(息子)は、すっかり生意気な小学生になりました。かつては、「お仕事」というシステムがあまり理解できていませんでした。日欧の鉄道専門誌や鉄道カレンダーなどに定期的に鉄道写真をお買い上げいただいているママに対抗心メラメラで小さなハートを燃やし、「僕が撮った写真、そろそろ雑誌とかカレンダーになる頃じゃない?いつなるの?」と、勝手にワクワクしてみたり、そして、いつまで待っても自分の写真が雑誌やカレンダーにならないことに気が付いて「どうして僕の撮った鉄道写真は誰も買いに来ないの?」とすねたりしていたものです。それが、最近ではすっかり理解して、「ママのお仕事、頑張って!」と応援してくれるようになりました。成長が嬉しかったり、寂しかったり、逆に、もう少し成長したら、ママを鉄道撮影スポットに連れて行ってくれるようになるのかなと想像してみたり。感情が忙しい昨今です。
そんな小鉄の中でママの株がグーンと急に上がるお仕事が最近ありました。アーティストとして、鉄道シミュレーションゲームの世界大手である、英国企業のDovetail Gamesと公式コラボをさせて頂いたのです。同社からアジア初の路線として9月末に発売された、会津若松の只見線のゲームを記念したコラボです。
また、鉄道ジャーナリストとしても、同社のCEOやゲームの開発責任者をインタビューさせて頂き、「乗りものニュース」に執筆致しました。
1回目:CEOインタビュー
2回目:開発責任者インタビュー
3回目:ゲーム発売直前・開発責任者インタビュー
前置きが随分と長くなりましたが、今回の『赤川薫のあぶそる〜とレイルウェイ』では、この3回のインタビューで「乗りものニュース」には書ききれなかった、「こぼれ話」を書きたいと思います。今日も鉄道談義に是非お付き合いください。
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同社との公式コラボ作品(赤川薫・作)
「No stress(プレッシャーには感じないで)」。
2008年創業で、英国ケント州に本社がある従業員約200人の企業、Dovetail Games社と一緒にお仕事をした間、何度この言葉を耳にしたことだろう。しかも、一人の口からだけではなく、開発責任者から企業内弁護士、はたまた、同社と契約しているPR会社の担当者など、あらゆる人から、この言葉をかけられ続けたのです。
もしかしたら、戦前生まれの、武士のように厳格だった父に叱咤激励され続けて育ち、根本的になんでもがむしゃらに頑張り過ぎてしまう上に、育児の隙間時間にアーティスト・鉄道写真家・ジャーナリストの3足の草鞋をどうにか実現させようともがいている筆者自身から常に駄々洩れになっている「ストレス満載オーラ」のせいで、こんな言葉をDovetail Gamesの多くの方にかけられたという事情もあるかもしれません。
しかし、同社との取材を通じて見えてきたのは、心底「No stress」な欧州流な仕事のやり方でした。
只見線と言えば、2011年(平成23年)7月の「新潟・福島豪雨」により甚大な被害を受け、全線運転再開にこぎつけるまで11年を要しました。同ゲームでは、その豪雨被害前の世界観を超リアルに再現し、そこを、2020年に惜しまれつつ定期運行を終えたキハ40系気動車が走るのです。つまり、「もう二度と元の姿では見られない世界」のシミュレーションなのです。
もう存在しない世界をデジタルで復元するワケですから、その開発は一筋縄ではいかなかったようです。その苦労した点などは「乗りものニュース」に詳報したため、ここでは省きますが、この只見線のゲームを実際に開発している関連会社のUnion Workshopは、本来ならば半年で開発が済むところを、2年以上かかってしまったそうです。ところが、Dovetail Gamesの開発責任者は「2年以上かかったのは、良いクオリティにできるように慎重に勉強してくれている証拠だからハッピーだ」と、さらりと言うのです。
公式提携アーティストの私にも、同社のマーケティング統括部長から「芸術は急かして作らせるものではないから、必要なだけ時間をかけてください。あなたの作品がゲームの発売日までに完成しないようなら、ゲームの発売日を延期するから、No stressで」と声をかけてくれるのですから、驚きました。
英国人なりのブリティッシュ・ポライトネスなのかと思いきや、実際、同ゲームは、様々な理由で発売を何度も、何度も延期してきました。今度こそ、本当に発売になるかと思われた2026年7月末、すでに正式に告知していた発売予定日の数日前にバグが見つかって、急遽、発売を延期したのです。ゲームが複雑化している昨今、こうした発売延期は珍しくないそうですが、同社がそうした状況下でも全くNo stressで明るく軽い空気に満ちていることに目を見張りました。
こうした空気は、欧州全体の傾向なのかもしれません。もちろん、No Stressに甘え過ぎればバッサリ切られて次はないという冷たい側面があるのではないかと思われますし、No Stressと連呼していて仕事がなかなか進まないというデメリットもあると思うのです。
筆者は過去に日本で、3次元のコンピューターグラフィックスのデザイナーとしてコマーシャルの制作に携わっていたので、ゲームとは結構近い仕事をしていました。当時のCGの仲間ではゲーム会社に就職した人もいました。日本のCG関連の世界はNo Stressとは程遠い世界だと感じることが多々あるため、こうした欧州の傾向を肌で感じ、驚いたわけです。
さて、No stressと言えば、筆者がお世話になりっぱなしの、この「あぶそる~とロンドン」の編集長、江國まゆさんもNo stressで見守るスタイルを貫く素敵編集者です。3年以上もお言葉に甘えてゆるゆるさせてもらった筆者。「No Stressに甘え過ぎればバッサリ切られて次はない」という特大ブーメランにならないように気を付けていく所存です。
「あぶそる~とロンドン」で連載をさせて頂くようになってからとんとん拍子でお仕事になった鉄道。そのお仕事を通じて得た鉄道関連の「こぼれ話」、、、は是非またの機会に。