自動車と航空の歴史に酔いしれる「Brooklands Bar」@ザ・ペニンシュラ ロンドン

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今回は、ハイドパーク・コーナーにある「ザ・ペニンシュラ ロンドン」の8階に位置する「Brooklands Bar」を、航空ファン、そしてクラシックモータースポーツファンの目線からご紹介します。

ブルックランズ・バーといえば、英国モータースポーツと航空の歴史にインスピレーションを得た、独創的なデザインで知られるルーフトップバー。以前の記事『コンコルドを見たい、体験したい~Brooklands Museum編』でご紹介した、あのブルックランズ博物館にちなんだ場所でもあります。

ブルックランズ・バー

かつて速度の限界に挑んだレーシングカー。そして、空の可能性を切り拓いた航空機。一見すると異なる世界に思える自動車と航空ですが、その歴史をたどると、速さへの情熱、技術者たちの挑戦、そして時代を超えて受け継がれるものづくりへの誇りという、共通する物語が見えてきます。

そんな自動車と航空の歴史が、ロンドンのラグジュアリーホテルの中でどのように表現されているのでしょうか。

モータースポーツと航空の歴史が交差する場所

ブルックランズの物語は、ある上流階級の一族が広大な土地を利用し、サリー州ウェイブリッジに英国初の本格的な自動車レースサーキットを作ったことから始まります。1907年に完成したこの施設は、彼らの所有するBrooklands Estateにちなんで「Brooklands」と名付けられました。高速走行を可能にするためにつくられた巨大サーキットは、当時の自動車技術の進歩を象徴する存在でもありました。

創業の翌年、英国航空史の草創期を担った飛行機野郎、アリオット・ヴァードン・ローがこの地で複葉機の試験を行ったことをきっかけに、航空機の製造や試験飛行の拠点としても発展していきます。20世紀を通じて数多くの航空機が製造され、英国の航空産業の発展にも大きく貢献。超音速旅客機コンコルドの構想が動き出したのも、ここブルックランズでした。

ブルックランズ・バーは、こうした自動車と航空が歩んできた道のりを、建築やインテリア、展示品、そして一杯のカクテルにまで織り込んだ、いわば「体験できるギャラリー」なのです。

きっかけは2014年。クラシックカーへの情熱が結んだ縁

このバーが誕生するまでには、興味深いストーリーがあります。

ザ・ペニンシュラホテルズを展開する香港上海ホテルズ・グループの会長、マイケル・カドゥーリー卿(Sir Michael Kadoorie)は、世界的に知られるクラシックカーのコレクターであり、航空機やヘリコプターにも深い関心を寄せる人物です。両者に情熱を注ぐカドゥーリー卿にとって、ブルックランズは特別な魅力を持つ場所だったのでしょう。

2014年、カドゥーリー卿はあるイベントで、ブルックランズ博物館の元館長アラン・ウィン氏(Allan Winn)と、当時の理事スチュワート・ジョン氏(Stewart John)と出会い、意気投合。ロンドンに新設されるペニンシュラホテルに、ブルックランズの歴史をテーマとしたレストランをつくる構想が生まれました。

翌2015年には、デザイナーやホテルの経営陣との協議が進むなか、香港で開催されたクラシックカーとヴィンテージカーの展示イベント「Hong Kong Classic」に、ブルックランズ博物館が所蔵する伝説的なレーシングカー「ネイピア・レイルトン(Napier-Railton)」が大きな目玉として招かれました。

ペニンシュラホテルとブルックランズを仲介した、伝説的なレーシングカー、ネイピア・レイルトン。世界速度記録を打ち立てた伝説的なレーシングカーです。

さらに、同車をザ・ペニンシュラ香港に数日間展示する企画も実現。この成功が、両者の関係をさらに深めるきっかけとなりました。

そして2023年、ザ・ペニンシュラ ロンドンの開業に合わせ、ブルックランズ博物館の歴史的な車両をホテルに貸し出し、展示する取り組みが実現します。ホテルのスタッフも博物館を訪れ、コレクションやその背景にある物語について理解を深めたそうです。こうして博物館で大切に受け継がれてきた歴史が、新たな舞台へと広がっていきました。

バーへ向かう道のりから、物語は始まっている

地上階からルーフトップへと向かうその道のりにも、自動車と航空の歴史へのオマージュが散りばめられています。例えばロビーには、ベントレーのヘッドライトを取り入れた照明が配され、エレベーターの内部にも思わず笑みがこぼれるような仕掛けが。

エレベーターは熱気球をイメージしたデザインが取り入れられ、上昇する際にはバーナーが燃え上がる「ゴォーッ」という力強い音を模した演出まで用意されていて、空へと浮かび上がる高揚感を演出しています。

上階へ向かうと、そこにはクラシックカーや、コンコルドの実物ノーズ(機首)が見えてくるなど、貴重なコレクションが展示されています。訪れるたび、こうした実物のパーツや歴史的な展示品を間近に出合えるのも、車や航空ファンにはうれしいところ。

この日、出合えたのは「1925 Salmson Grand Sport」(右上)、右下はコンコルドのノーズ。左は熱気球に乗っているような感覚を味わえるエレベーター。

新たなシーンが広がる、8階の空間に到着

エレベーターのドアが開くと、そこにはまた新たなシーンが広がっています。初めて訪れた際、私はバーの入り口に気を取られ、壁面に施されたアルミニウムパネルを見過ごしていました。

その意匠は、コンコルドに搭載されたロールス・ロイス製オリンパスエンジンのカウリング(覆う金属製のカバー)やノズルのディテールから着想を得たものだそうです。面一に仕上げられた留め具など、航空機の構造を思わせる精巧なデザインが施されています。

さらに、コンコルドの胴体窓をモチーフにした埋め込み型の壁面照明も。まるで格納庫に足を踏み入れたかのような、クールで洗練された雰囲気が漂います。

航空機の美しさは、流線形の機体やエンジンだけにあるのではありません。パネルの接合部や窓の形状、機能を追求した構造にも、技術者たちの知恵と工夫が表れています。そうしたディテールをインテリアに取り入れることで、Brooklandsは航空ファンの心をくすぐる空間をつくり上げているのです。

ダイニングに繋がるホール。圧倒されます。

ダイニングにも、空を飛ぶコンコルドが

バーの隣には、シェフのクロード・ボシ氏が手がけるミシュラン二つ星レストラン「Brooklands by Claude Bosi」があります。実は、こちらにも見逃せない仕掛けがあります。初めて案内していただいたときには気づかなかったのですが、帰宅してから写真を見返してびっくり。

ダイニングには、建築家アーチャー・ハンフリーズ(Archer Humphryes)が、ブルックランズ博物館とエールフランスが所蔵するオリジナルの手描き図面をもとにデザインし、先進的なプロダクトデザインブランド「Discommon」が制作したコンコルドの大型レプリカが設置されているのです。

ダイニングの上を飛翔するかのようなコンコルド。その足元には星座を描いたカーペット。飛行機をただ展示するのではなく、まるで空を飛んでいるかのように見せる演出。その世界観が、余すところなく表現されています。

今回はほんの少し足を踏み入れただけでしたが、次回はぜひ食事を楽しみながら、ダイニングの内装もじっくりと観察したいと思います。

メインダイニングの天井に浮かぶコンコルド

ギャラリーのような美しさに包まれる「Brooklands Bar」

そして、いよいよ今回の主役である「Brooklands Bar」へ。

一歩足を踏み入れると、クラシックな装いとモダンな感性が見事に調和した、落ち着きのある空間が広がります。まるでギャラリーのようでありながら、そこには人が集い、お酒を楽しみ、会話を交わすバーならではの温かみもあります。まず目を奪われるのは、部屋の端から端まで続く大きな窓。ロンドン・アイをはじめ、市内の建物が美しく広がります。

歴史や機械のディテールに目を奪われていたかと思えば、ふと窓の外に視線を向けた瞬間、ロンドンの街並みが目に飛び込んでくる。その対比もまた、この場所ならではの魅力です。

格子状の天井は、20世紀初頭の航空機構造の発展に貢献した技術者バーンズ・ウォリスの仕事に着想を得たもの。馬車を思わせる座席や革張りの壁面には、ロールス・ロイス・シルバーゴーストの世界観が反映されています。バーのカウンターには、ロールス・ロイス・シルバーゴーストの車体パネルや外装から着想を得た意匠が施され、8階を象徴する「8」のモチーフも取り入れられています。

自動車の優雅さと航空機の機能美。その異なる魅力が、ひとつの空間の中で自然に溶け合ってるのですね。

コンコルドのエンジン部品が、シャンデリアに

ぜひ注目していただきたいのが、天井から吊り下げられた精巧なシャンデリアです。建築家アーチャー・ハンフリーズが特別にデザインしたこのシャンデリアには、コンコルドのオリンパス593エンジンのタービンブレードが用いられています。

航空機の推進力を生み出していた部品が、今度はバーの空間を彩るアートとして生まれ変わっているのです。
しかも、このシャンデリアは回転する仕組みになっているそう。エンジンの内部で高速回転していた部品が、洗練されたデザインの中に取り込まれている。その背景を知ると、単なる装飾として眺めるだけではもったいない気がしてきます。

いつか、実際に回転している姿も見てみたいものです。カーペットには、ブルックランズ博物館のメンバーズエリアで使われているオリジナルの色彩が再現されているなど、天井から壁、足元に至るまで、細部にまでこだわりが尽くされています。

タービンブレードが用いらたシャンデリア。バーで過ごす時間そのものが歴史をひもとく楽しみに変わる空間。

クラシックカーの世界観を楽しむ、個性豊かなカクテル

メニューの表紙や裏表紙にも、コンコルドやレーシングカーが描かれており、ドリンクを選ぶ前からその世界観にワクワク。ドリンクリストには「AUSTIN 3000」など、クラシックスポーツカーやレーシングかーにちなんだ名前が並びます。

この日はヘッド・ミクソロジストのジェームズ・タマン氏に、カクテルをいくつか選んでいただきました。最初にいただいたのは、ジンをベースに柚子やプラム、シソなどを組み合わせた「Sunbeam Blue Bird」。ハイビスカスの美しい赤色が目を引く一杯です。

爽やかな香りとすっきりとした飲み心地で、とてもリフレッシュできました。Sunbeam Bluebirdという名前からも、速度記録に挑んだ時代のレーシングカーを思い浮かべます。歴史を感じさせる名前と、現代的で軽やかな味わいの組み合わせも魅力です。

もうひとつは「SILVER BULLET」。

マルガリータに着想を得ながら、オールドファッションドのスタイルに仕立てた、レポサド・テキーラベースのカクテルです。トンカビーンズ、アプリコット、ドライ・キュラソー、キノットを組み合わせており、トンカビーンズのバニラを思わせる甘さと、アーモンドのような深い香りがとても印象的でした。

シェフのクロード・ボシ氏が考案した上質なバー料理も用意されており、軽く食べながらお酒を楽しみたい方にもぴったり。私もいくつかいただきましたが、さすがと思わせるおいしさでした。

右下がジェームズさん。左下がSunbeam “Blue Bird”

山崎、響、軽井沢。そしてマッカランの希少なコレクション

往年の名機を再現した航空機模型やレーシングカーの模型を夢中で眺めていると、アシスタントマネージャーのニコラさんが、ウイスキーも紹介してくださいました。

そこには「山崎25年」「響30年」といった日本を代表する希少なウイスキーに加え、かつて存在した軽井沢蒸留所のウイスキー「軽井沢」まで並び、さらにマッカランの「The Macallan Red Collection」も揃っているのです。あまりにも豪華で希少なラインアップに、思わず足が止まってしまいました。

自動車や航空機のコレクションに心を奪われていたところに、今度はウイスキーの世界でも思いがけない出会いが待っているとは。このほかにも貴重なヴィンテージウイスキーが用意されており、カクテル好きはもちろん、ウイスキー愛好家にとっても見逃せないバーといえるでしょう。

ニコラさん(左上)は日本語も勉強されたそうです。右下は日本のウィスキーの一部。人生で初めて「ザ・マッカラン レッドコレクション」の実物にお目にかかりました!(右上)

伝説のレーシングカーに敬意を表した「Napier Railton Room」

バーの奥には、プライベートな集まりやパーティーにも利用できる「Napier Railton Room」があります。

冒頭でもペニンシュラホテルとブルックランズを仲介した、伝説的なレーシングカーとしてご紹介したネイピア・レイルトン。その車体の素材や構造から着想を得た空間には、アルミニウムの力強さ、真鍮のヒンジを思わせるディテール、銅製のリベットをイメージした意匠などが取り入れられています。

クラシックレーシングカーを愛する人にとって、ネイピア・レイルトンという名前には、単なる車名以上の意味があります。速度の限界に挑んだ時代の情熱と、機械そのものが持つ美しさ。その精神が、こうした特別な空間の中にも受け継がれているのです。

再訪時に改めてその魅力を発見させてもらった「Napier Railton Room。。最大16名まで利用できる特別な空間です。

歴史を知るほど、もう一度訪れたくなる場所

ザ・ペニンシュラ ロンドンの「Brooklands Bar」は、単に美しい景色や上質なお酒を楽しむだけの場所ではありません。1907年に誕生したサーキットから始まる歴史。速度の限界に挑んだネイピア・レイルトン。人類の航空史に大きな足跡を残したコンコルド。そして、それらを生み出してきた技術者たちの創意工夫。

その歴史と情熱が、インテリアの素材や照明、シャンデリア、展示品、そしてカクテルの名前にまで息づいています。初めて訪れたときには見過ごしてしまったディテールが、歴史や背景を知ることで、次の訪問ではまったく違って見えてくる。それもまた、この場所を訪れる楽しみのひとつなのではないかと思います。

ロンドンを訪れる機会があれば、ぜひ足を運んでいただきたいBrooklands Bar。地上を駆け抜けた名車と、空を切り拓いた名機の物語に乾杯しましょう。

Brooklands Bar
https://www.peninsula.com/en/london/hotel-fine-dining/brooklands-bar

 

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リエコ・大島・バークレー。英国サリー州在住。メディカルハーバリスト、アロマセラピスト、リフレクソロジストとしてロンドンのセラピールーム及び癌ケアセンターにてのセラピスト活動を行う。メディカルハーバリストとして25年以上の臨床経験を持ち、長年日本での啓蒙活動に携わる。ハーブやアロマのオンライン講座、商品開発コンサル活動の他、時々イングリッシュワイン応援&執筆活動も行う。ゴルゴ13 をこよなく愛する飛行機オタクでもある。 著書に『メディカルハーブハンドブック』(説話社)『ハーブの薬箱』(文化出発局)。フレグランスジャーナル社にて2023年まで『ゴルゴ13とハーブカード』連載。 インスタグラム:ハーブ&アロマ関連 @herbalhealinguk  航空機関連 @rieko.747  ワイン関連 @winevineyard 

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