<生誕100周年>走行のフライング・スコッツマンを追う!

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こんにちは。アーティストの赤川薫です。

皆さま、現在発売中の雑誌『旅と鉄道』に書かせて頂いた世界で最も有名な蒸気機関車、フライング・スコッツマンの記事はもう読んで頂けましたでしょうか?(是非よろしくお願いします。)
今回は、『旅と鉄道』の記事の中でチラリと触れました、英中部リーズ近郊のキースリー&ワースヴァレー鉄道までフライング・スコッツマンに会いに行って来ましたというお話と、『旅と鉄道』で書ききれなかったこぼれ話です。スコッツマン、スコッツマン、うるさいなぁ!とおっしゃらずに、是非ともお付き合いくださいませ。
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世界で最も有名な蒸気機関車、フライング・スコッツマン
LNER A3形4472号機(現60103号機)

英国の「撮り鉄」(電車の写真を撮るのが好きな人)に「どこの保存鉄道が好きか?」という話を振ると、かなりの頻度で名前が挙がる、キースリー&ワースヴァレー鉄道。とにかく、写真が撮りやすい。

徐行しつつシグナルマンからトークンを受け取るフライング・スコッツマン(右) ノンストップ特急のため、トークン交換も停車せずに行われた

なぜ写真が撮りやすいのか、機会があったらいつか詳しく書きたいと思うのだけれども、そんな路線でフライング・スコッツマンがノンストップ特急で走るのだから、とても楽しみにしていたのだ。(ノンストップ特急の理由については、現在発売中の『旅と鉄道』を是非ご参照ください。)

なのに、私の今回のフライング・スコッツマンを追いかける旅は嬉しさ半分、ガッカリ半分でまたもや不完全燃焼になってしまった。なんと、列車の最後尾に別の蒸気機関車が後部補機(先頭の機関車を後ろから押す役目を果たす)として付いていたのだ。

2022年9月ノースヨークシャームーア鉄道撮影
LNER A4形の4498号機サー・ナイジェル・グレズリー号
最後尾に配された後補機重連に押されて軽々と坂を上がる

通常は、一度に2機の蒸気機関車を拝めるし、華やかさが増すので後部補機は大歓迎だが、2022年9月に世界最速の蒸気機関車マラードの姉妹、LNER A4形の4498号機サー・ナイジェル・グレズリー号がノースヨークシャームーア鉄道で走行した時にも書いた 通り、急行列車に使うような強力な蒸気機関車(A4形はボイラー圧力250 psi)に後部補機を付けるとどんな坂道も余裕過ぎて全く本気を出してくれない。

2022年9月ノースヨークシャームーア鉄道撮影
Taff Vale Railway class 02形タンク機関車(ボイラー圧力160 psi)

この時の後部補機はTaff Vale Railway class 02形タンク機関車(ボイラー圧力160 psi)だったのだが、これくらい小さい機関車が後ろに付いただけで大型の蒸気機関車にとっては坂道も楽勝なのだ。

今回のイベントではブリティッシュ・スタンダード形2MT 78022号機が後部補機に

フライング・スコッツマンのボイラー圧力はサー・ナイジェル・グレズリー号より多少低く、220psi。だが、今回のイベントではそこに、ボイラー圧力200 psiのブリティッシュ・スタンダード形2MT 78022号機という、強力な蒸気機関車が後部補機として付いてしまった。

後部補機ばかりが頑張っている現場を激写

ボイラー圧力200psiの蒸気機関車に後ろから押されたのでは、フライング・スコッツマンとしては本気の出しようもない。本気を出さないと蒸気もあがらない。蒸気があがらなければ写真映えしない。

どこで撮っても良い感じで写真が撮れる同路線にもかかわらず、線路沿いを右往左往して少しでも蒸気が上がりそうな撮影ポイントを探し回ることになった。なんとか頑張り、若干サボり気味ながらもそこそこ蒸気も上がっている写真がいくつかの場所で撮れた。

一応頑張っているフライング・スコッツマン

なぜこんな馬力のある蒸気機関車を後部補機に付けたのだろうか。

蒸気機関車は終点に着くと列車から一度切り離され、反対側の先頭に付け替えられて折り返し運転をする。だが、切り替えを行うと、乗客が見物に降りてきてしまう。「世界で最も有名な蒸気機関車」フライング・スコッツマンだけに、イベントは全席完売で、日頃は蒸気機関車に興味がないような鉄オタ以外の観光客も数多く乗車した。蒸気機関車の旅に慣れない乗客を再び全員乗車させるのは時間がかかる。少しでも遅延のリスクをなくすために機関車の切替をなくしたかったのだろう。切り替えをなくすためには、蒸気機関車の両サイドに牽引力のある蒸気機関車を付ける必要がある。つまり、後部補機が付いていたと言うよりも、「列車の両サイドに本務機(メインの蒸気機関車)を付けちゃった」ということだろう。専門用語でいうと、プッシュプル列車というわけだ。フライング・スコッツマンのイベントなのに、これはちょっと興ざめするのは鉄オタなら共感してくれるだろう。

蒸気を吐いて走るフライング・スコッツマン

話を蒸気の煙に戻すと、そもそも、元々、英国の蒸気機関車は黒煙があがりにくく、白い蒸気が多い。『旅と鉄道』の原稿を書くために各地の保存鉄道の広報担当者や、蒸気機関車を数多く保有する英ヨーク国立鉄道博物館の広報担当者、蒸気機関車の修理で有名な工場ライリー&サン者の取締役などと直接お話させて頂いた機会に、英国の蒸気機関車はなぜ黒煙が上がりにくいのか聞いてみた。三者三様、立場の異なる様々な意見で面白かったので紹介したい。

① 質の良い石炭を使っているので、燃焼時にススが出にくい。
② 定期的なオーバーホールが義務付けられているので、ボイラーなどの状態が良い。
③ 保存鉄道がたくさんあり、動態保存されている蒸気機関車も多いため、機関士が全般に蒸気機関車の運転に慣れている。経験豊富な機関士は石炭を不完全燃焼させずに走行する術に長けているためススが出にくい。

どれも説得力がある意見で納得がいく。

確かに、オーバーホールの期限が迫っている蒸気機関車の蒸気は黒っぽいことが多い印象をいつも受ける。また、ご年配の機関士の方が一般的に蒸気の上がり方がカッコいいと個人的に感じるので、腕前によって蒸気の色が変わると言うこともあるのだろう。そして、石炭の質については、どこの鉄道会社もロシアから大量に石炭を輸入していたため、ウクライナへの侵略戦争を受けてロシア以外の石炭の調達先を確保するために随分と奔走したらしい。まだ気が付いたことはないけれども、石炭の産地が変わって蒸気の色も多少変わったのだろうか?蒸気機関車は奥が深くて写真を撮り飽きない。

英国の蒸気機関車もウクライナにおける戦争の影響を受けているかと思うと複雑だ


世界最速の蒸気機関車、LNER A4形の4468号機マラード(Mallard)
国立ヨーク鉄道博物館

さて、もうひとつ、取材のこぼれ話を。
この連載でも度々取り上げてきた世界最速の蒸気機関車マラードだが、フライング・スコッツマンと同じ伝説の技術士、サー・ナイジェル・グレズリーが設計した姉妹。そのマラードもフライング・スコッツマンと同じく、現在はヨークの国立鉄道博物館が所有している。現在は走行できない状態で鉄道博物館に飾られているのだが、同館の広報担当サイモン・ベイリス氏にマラードを生誕100周年に合わせて走行可能な状態に修理しないのかと質問をぶつけてみた。
答えは「その予定はありません」だったが、その後に「(でもまだ15年も先のことだから議論をする段階になってないというのが正確なところです)」と補足されていた。

これを「修理する」と理解するか、「修理しない」と理解するか。私個人的には「するんだな」と理解した。ドラえもんブルーのマラードが緑豊かな英国の保存鉄道を爆煙を上げながら走る姿を拝める日まで楽しみにしていたい。イースト・ランカッシャー鉄道の広報、マーク・ヒル氏によると、修理をするならきっとまたライリー&サン社になるだろうと言うことなので、『旅と鉄道』に書いたように、同鉄道がマラード百寿のお披露目の地になる可能性は高そうだ。修理中のマラードを見学に行かれないだろうか?そんな夢も広がる。

英国の鉄道雑誌『Heritage Railway(保存鉄道)』に執筆

さて、前回告知させて頂いたように、英国の鉄道雑誌『Heritage Railway(保存鉄道)』に執筆しました。デジタルでも買えるようなので、是非ご一読下さい。ドイツのドレスデンで開催された「第15回蒸気機関車会合(Dampfloktreffen)」というイベントについての記事です。「会合」という名称からどんなお堅いイベントだろうかと思うかも知れませんが、実際、本当にドイツ人らしい大真面目なイベントで、かなり面白かった、、、というお話は是非またの機会に。

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About Author

アーティスト&鉄道ジャーナリスト。アーティストとして米・CNN、英・The Guardian、独・Deutsche Welle、英・BBC Radioなどで掲載されました | 鉄道ジャーナリストとしては日本の『旅と鉄道』『乗りものニュース』や英国の雑誌『Heritage Railway』に執筆しています。
公式インスタグラム:@kaoru_akagawa
鉄道インスタグラム:@kaoru_akagawa_railwayslways

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