鉄子の夢「爆煙を上げる青いA4」撮影、成るか。

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こんにちは。アーティストの赤川薫です。

★★英国の鉄道雑誌『Heritage Railway(保存鉄道)』に執筆しました。近々(5月12日)発売予定なので、また詳細はご報告させてください。

世界最速の蒸気機関車、マラード。その兄弟とも言えるLNER A4形の4498号機サー・ナイジェル・グレズリー号に過去2回、会いに行ったことはすでに書いた。1回目は、まだ子鉄(息子・当時2歳)のママ追いが激しくて、鉄道マニア達が押し合いへし合い場所取りをする駅のホームからしか写真撮影できずに不完全燃焼だった。2回目は、4498号機がマラードと同じ「ドラえもんブルー」に塗り替えられると聞きつけてロンドンからわざわざ遠征した。にもかかわらず、故障が原因で塗装が延期になった上に、子鉄の手を引いて山道を15分も歩いて有名な撮影スポットまで行ったものの、後部補機(列車の最後尾に別な蒸気機関車が付くこと)の加勢を受け、煙を吐かずにスルッと坂道を上がって来てしまった。そんなこんなで念願の「爆煙を上げる青いA4」を求めて行って来ました。3回目の正直となるか、それとも、2度ある事は3度あるで、今回も不完全燃焼のままトボトボと帰ってくるのか。今日もどうでも良い私の鉄道ラブ話に是非お付き合いください。

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LNER A4形の4498号機サー・ナイジェル・グレズリー号

今度こそ、爆煙を上げて走る青いA4の姿を写真に収めたい。走るのはロンドンから日帰りが可能なネイネ渓谷鉄道(Nene Valley Railway)。ロンドンのキングス・クロス駅からロンドン・アンド・ノース・イースタン鉄道(LNER)の特急に乗ってピーターバラ駅まで片道50分弱。そこから徒歩20分弱ほどでネイネ渓谷鉄道のピーターバラ駅に到着する。沿線は自然豊かで写真映えするネイネ・パークの中を走る。

そもそも、ネイネ渓谷鉄道にはこれまでに何度も訪問を計画してきたが、そのたびに鉄道ストライキで行かれなかったり、山火事や蒸気機関車の故障でイベントが中止になったり、ビックリするほど毎度毎度ご縁がなかった。ネイネ渓谷鉄道にも青塗りのA4にも裏切られてきたものだから、4498号機が青に塗られたというニュースをしっかり読み、鉄道ストライキもなさそうだということもきっちり確認して、速攻で各種チケットをゲットした。

予定が近づいたら、週間天気予報を頻繁にチェック。雨の日の方が蒸気機関車が吐く蒸気は派手になりやすいという説があり、撮り鉄の中には雨の日を好んで撮影に出かける人もいるらしい。だが、雨の日にレインコートのフードを目深にかぶりながら蒸気機関車をひたすら待っているのは、我ながら、映画『千と千尋の神隠し』で雨に濡れて佇んでいたカオナシっぽい。やっぱり雨は降ってない方が良い。

かと言って、雲ひとつない快晴と言うのは木立が多い保存鉄道では、木の影が列車に黒々と落ちやすいので個人的にあまり嬉しくない。

望むは、「薄曇り」だ。

だが、雨続きの春の英国で、私が乗る予定の日だけ、ポッコリと晴マーク付き。気持ちを切り替え、乗車前夜に子鉄を寝かしつけてから、晴れることを想定した撮影ポイントを探るべくパソコンを立ち上げた。

ベストを尽くして良い写真を撮りたい。Googleストリートビューを駆使しながら目を皿のようにしてパソコンでアチコチを下見すると、オーバートン駅の近くに良さげな橋を見つけた。私があまり好きではない晴れの日を逆手に取って、橋を渡るA4の姿を川面に反射させて水鏡ショットが撮れそうだ。

ただ、その橋までどうやって行くかが問題だ。今回のネイネ渓谷鉄道のイベントはA4が4往復するというもの。つまりA4しか走らず、別な列車に乗って橋まで先回りすることができない。A4に乗ってオーバートン駅まで行って歩き、数時間後に再びやってくるA4が来るのを待つしかない。一緒に行きたいという子鉄の体力を考えると4往復のうち、夕方遅くに走る最後の一回は諦めてロンドンに帰らなくてはならない。橋で撮ることのできるのは3往復で計6回ということになるが、蒸気機関車は転車台というターンテーブルでクルリと回してもらわない限り、「顔」を先頭に往路を走った後、復路は「お尻」を先頭に戻って来る。お尻が先頭の復路はどうしてもフォトジェニックではない。良い写真が撮れるチャンスは一日粘って往路のたった3回。だが、橋まで行こうと思うと、そのうちの1回を棒に振って乗車しなくてはたどり着けない。

どうするべきか悶々と考えていたら、あまり寝ないうちに当日の朝になった。

結論が出ないまま、優柔不断に色々と考えながらピーターバラ駅までLNERの特急で行ってみると、なんと、駅前にタクシーがたくさん止まっているではないか。保存鉄道と言うのは大抵、自然豊かな田舎を走っているため、タクシーが簡単に捕まえられるのは結構珍しく、諦めていたのだ。迷わずタクシーに飛び乗った。

お目当ての橋は、想像通り、良い景観だった。川の流れが緩やかで水鏡写真も期待できるだろうという読みはドンピシャだった。木立も開けていて、遮るものもなく、川のギリギリまで近づける。完璧だった。ただ、予定外だったのは、鉄橋に歩道があったこと。列車が順光で撮れる南側の川辺に立つと歩行者ゾーンの分だけ列車が奥まって良く見えない。しかも、A4は、華やかなドラえもんブルーのマラードとは異なり、もう少し落ち着いた暗めの青に塗られたらしい。逆光の中、川面に綺麗に映るとは思えない。

それに気が付いた時点でA4が正面を向いた状態で走ってくるまで後10分。迷っている暇はない。タクシー代まで払って手に入れた貴重なシャッターチャンスを無駄にはできない。一瞬で水鏡プロジェクトを放棄し、前夜に見た地図を思い出しながら線路沿いを走りに走って順光で撮れる別アングルを確保しに行った。

咄嗟に走りに走って撮ったA4

どうにか間に合ってA4を写真に収めて見送った後、諦めきれず、後ろ向きで戻って来たA4で逆光の水鏡ショットも一応撮った。

橋の北側で逆光の中を撮ったA4の水鏡ショット

その後、頑張りに頑張った結果、撮れたベストショットが冒頭の写真だ。一方、下記は場所取りに失敗してさまよった挙句に撮った写真。空に浮かぶ白い雲がA4の上げる蒸気だということにして欲しい。

最後の一回は場所取りに失敗して無煙の写真になってしまった

今回もなかなか思い通りに行かなかった「A4詣で」となった。限られた時間内に瞬時に決断を迫られるハラハラ感や、絶対に次こそはと逆に諦めきれなくなるのが鉄道写真の中毒性だろうか。まだしばらく更生はできそうにない。

子鉄の体力を考え、貴重な最後の「正面走行」の撮影を諦めてA4で帰路に着く

写真的には無念さが残る一日だったが、今回も鉄オタと撮影場所について情報交換したり、英国の著名なプロ鉄道ライターと鉄談義に興じたり、と別な意味で有意義な一日となった。

鉄道イベントに行くたびに英国の鉄オタが話題にするのは世界一有名な蒸気機関車、フライング・スコッツマン。特に今年はいろいろある、、、というお話は是非またの機会に。

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About Author

アーティスト&鉄道ジャーナリスト。アーティストとして米・CNN、英・The Guardian、独・Deutsche Welle、英・BBC Radioなどで掲載されました | 鉄道ジャーナリストとしては日本の『旅と鉄道』『乗りものニュース』や英国の雑誌『Heritage Railway』に執筆しています。
公式インスタグラム:@kaoru_akagawa
鉄道インスタグラム:@kaoru_akagawa_railwayslways

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