“Don’t be afraid to speak about spirit! ”
アラスカ先住民に伝わる神話の語り手として知られる、クリンギット族のボブ・サムさんの言葉だ。
映画「地球交響曲」シリーズの監督、龍村仁さんが記された『地球交響曲第三番 魂の旅』(角川書店)という本をたまたま友人から借りて読み、その中で見つけたフレーズ。それは今まさに、私が皆さんに伝えたいと思っていることと同じで、目にしたときは胸が踊った。友人にこの本を見せてもらったとき、「地球交響曲」「星野道夫」といった懐かしいキーワードが気になり、「読まねばならない」と感じて読み始めた。
『地球交響曲第三番 魂の旅』(2003年)は、星野さんが亡くなった1996年翌年の公開となった「地球交響曲第三番」が撮影された経緯について、監督自らが綴ったエッセイだ。
生きて映画に出演するはずだった星野さんが、撮影開始の2週間前に亡くなってしまったことから、龍村監督の壮大な魂の旅が始まる。それは星野さんを、魂の「実在」としていかに映画に召還するかという祈りのような試みだった。旅は生前の彼の魂と深くかかわった人々への取材を通して、驚くようなシンクロニシティの祝福を受けながら続いていく。
写真家の星野道夫さんがアラスカでヒグマに襲われて亡くなったニュースは、私もうっすらと覚えている。20代30代の頃「Switch」や「Coyote」といった雑誌を愛読していたので、星野さんの文章にはたまに接する機会があった。同じ時期に私は日本で「地球交響曲第一番」を観ているのだが、その後、第三番で星野道夫さんが取り上げられていることは知らなかった。なぜなら二作目以降は機会がなく、残念ながら未鑑賞だからだ。
しかし監督のこのエッセイに出会い、残りの7曲も、観てみたいと強く思うようになった。
この本は、読み進めるとすぐに、龍村監督の真っ直ぐな心とエモーションに圧倒されてしまう。行間には掬いとられねばならない思いがあふれている。その思いはそのまま、「私たちの命が地球の一部であることを思い出し、皆でつながろう」という「地球交響曲」シリーズの大きなテーマへとつながっている。
どうすれば地球とつながり、地球の一部である自分を思い出し、自然と語り合う人生を取り戻すことができるのだろうか?
その答えが、冒頭で引いたボブ・サムさんの文言に込められている。
「魂を語ることを怖れないこと」
つまり自分の魂に沿った生き方をすること。そのためには、あなたの思考ではなく、感情が、魂が、何を感じているかに耳を澄まさねばならない。ある意味、とても簡単だ。あなたの魂が望んでいることに従うだけなのだから。しかし人は、ときとして自分の魂でなく、人の言うことや社会通念に耳を傾けてしまう。ときには自分自身が何を感じているのかさえ分からなくなっている方もいるだろう。こうなると魂の声を感じ取ることが困難になる。
「魂を語る」とは、魂を率直に表現することだ。
もっとも霊魂の慰霊活動に努めているボブ・サムさんの言う「スピリットを語ることを怖れるなかれ」という言葉は、おそらく「霊魂の存在を認め、それを語ることを怖れるな」という意味で、ニュアンスは若干違うかもしれない。しかし純粋なる魂の存在を認め、それを語るとは、巡りめぐって、やはり同じ意味なのだと思う。目に見えない大いなるものを感じて大切にしていくこと。これができればきっと、私たちは祝福された道を歩んでいけるに違いないのだ。
龍村監督は第三番を撮っていく中で、さまざまなシンクロニシティを経験する。人と人を結ぶ目に見えないネットワーク。次に誰を取材するべきか、まるで星野道夫さんの魂が導いてくれているかのように、不思議な出会いが重なってゆく。そして、龍村監督自らの魂のルーツも明かされて、魂が語るままに進んでいくことで本来の軌道にのり、出会うべき人に出会い、起こるべきことが起こり、成されるべきことが成されてゆく。それはほとんど「人生のアート」と言っていい。
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最近、2人の「魂に沿った」活動をしている素敵な人々に出会った。
一人は新オープンの個人宅を利用したアート・ギャラリー「Chalice Gallery」の記念すべき初回展覧会のアーティスト、大村正一さんである。
彼は画廊主の兄上で日本在住。今回の展覧会のために3日の日程で渡英されたという。もともと高校の美術教師を務めながらアート活動を続け、その後、家業を継がれて新しい仕事に没頭していたところ、体調を崩したため、やむなくアート活動を断念されていた。しかし正一さんはその後、「病気をきっかけに自分の人生について深く考えた」という。そして、「やはり自分はアートが好きだ。どうしても表現したい」という思いが沸き上がって活動を再開、今回の展覧会につながった。
正一さんの絵は、ご自身の中にあるものと深く繋がり、それを素晴らしい技術で表現されている正真正銘の魂のアートだ。ギャラリーのグランド・オープニングでは、畳二畳分ほどの模造紙にダイナミックな墨絵を描く即興パフォーマンスも披露! これには参った。時折見せる沈思黙考するかのような表情からは、ご自身の振る舞い一つひとつを、しっかり腑に落としながら前進されているかのような印象を受けた。
しかもゲスト・ギタリストのHide Takemotoさんとのコラボではブルージーなハーモニカまで披露されるというマルチぶり。圧倒的に楽しく心踊るオープニング・ナイトだった。画廊主の大村直子さんにも感謝。彼女の「自宅ギャラリー」創設にいたるまでの道のりもすごい! こちらも魂のお仕事なのだ。大村正一展@Chalice Gallery(5月19日まで)の詳細はこちらで。
さて、このチャリス・ギャラリーのグランド・オープニングで初めてお会いしたロンドン・ベースに活躍されるHideさんこと、ギタリストの武本英之さん。彼の演奏をこの夜初めて聞いて、度肝を抜かれてしまった。明らかにクラシック・ギターのテクニックなのだけれど、音のほうは自由奔放・変幻自在。そのサウンドには・・・きらきら光る大きな魂が宿っていた。
Hideさんはクラシック・ギターの巨匠、藤井敬吾さんに師事され、ロンドンのギルドホール音楽院に入学、数々の師から学びながら、その独自スタイルを形作ってきたようだ。クラシック、フラメンコ、ロック、ブルース、そして日本の民謡、そのエクレクティックなスタイルがあまりにも素晴らしかったので、ちょうどよいタイミングで初CD「Four Springs」の発売記念パーティーがあるとお誘いいただきお邪魔してきた。
演奏もさることながら、彼の笑顔に惹き付けられない人がいるだろうか? これぞやりたいことをやってる人、魂のお仕事をしている人の笑顔 ^^ 観ているこちらまで、なんだかワクワク、ウキウキしてくるのだ。魂に響いてくるギターのサウンドは言わずもがな。計り知れない才能と可能性を秘めたHideさんの今後に注目してきたいと思う。Hideさんの公式ウェブサイトはこちらでチェック!
「魂を語ることを怖れるなかれ」
魂がやりたいことをやる。人生、これに尽きる。
しかし魂がやりたいことをすると、なぜ地球と繋がるのだろうか? それは魂が本当に喜ぶことをすると、自分が幸せになり、その人の周りに、その幸せの輝きが広がり、それらの輝きが地球という星を明るく照らすから。そのうつくしい魂の循環はやがて、龍村監督が書いているように、一万年前に続く私たちの魂のルーツを照らし出していくのかもしれない。
魂に繋がって生きている方のインタビュー記事もそろそろやっていきたいなと思っているので、乞うご期待♪