福盛進也インタビュー「非日常のなかの日常を表現したい」

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こだわりのドイツ・レーベルとして知られるECMからデビューした稀有な音楽家、ミュンヘン在住日本人ドラマーの福盛進也さんが、ロンドンにやって来る。

ECMは創業者の一人であるマンフレート・アイヒャーの極めて繊細な美意識を反映した作品群で知られ、その世界観にマッチしたアーティストだけがアルバムをリリースすることを許される。言うまでもなく狭き門であり、だからこそ世界的にリスペクトされているレーベルでもあるのだ。所属アーティストには、気難しいことで知られるキース・ジャレットの名も見える。

そのECMから福盛さんは昨年、Shinya Fukumori Trio名のアルバム『For 2 Akis』をリリースされた。彼が創る旋律は、とても穏やかで美しい。そのメロディアックで成熟したサウンドを聴いていると、まさにECMが彼の曲のために作成したビデオのような、日常と非日常が混ざり合う温かな情景が浮かんでくる。

Shinya Fukumori Trio『For 2 Akis』
https://www.youtube.com/watch?v=sRA0xM9szIw

Shinya Fukumori Trio『For 2 Akis』

また今回のアルバムには、宮沢賢治の「星めぐりの歌」滝廉太郎の「荒城の月」などいくつか日本の古い曲も新しい個性を得て収録され、私たち日本人にとっては特別な色合いも込められている。

そんな彼が今回、ロンドンを拠点に日英交流をプロモートしている団体、YOKOHAMA CALLINGの招きを受けて、ロンドン初となるライブを行う。イギリスをベースに活躍するミュージシャンたちとの初コラボであり、福盛さんにとっても初ロンドンという記念すべきライブを前に、自身の音楽について語っていただいた。

福盛進也 Shinya Fukumori
大阪市生まれ。15歳でドラムを始め、17歳の時に芸術高校にて音楽を学ぶために単身で渡米。ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、ボストンのバークリー音楽大学を卒業。2013年よりミュンヘン在住。繊細なシンバルワークをはじめとするメロディックで巧みなドラム・プレイだけでなく、作曲家としても高い評価を得ている。2017年に自身のトリオでECMレーベルから日本人二人目となるリーダー・アルバム「For 2 Akis」を録音し、2018年2月に世界リリース。ミュンヘンを拠点に日韓欧を中心に活動の場を広げている。

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ECMデビューとこれまでの音楽生活

ずっとアメリカに住まわれていたのに、どうしてヨーロッパへ?

僕は音楽の勉強でずっとテキサスに住んでいて、次に大学でボストンに移り住みました。暑くて人々がオープンなテキサスは大好きで、第二の故郷という感じですね。10年のアメリカ生活を切り上げて一旦日本に帰ったとき、もともと大好きだったECMに近づくために、ミュンヘンに来ることにしたんです。そして偶然と幸運が重ってプロデューサーに聞いてもらうきっかけができ、今回のアルバム発表につながりました。

ECMの音楽に惹かれる理由は?

その世界観に惹かれます。非常にしっかりとした軸があります。そしてサウンドがとても美しい。僕が今のような音楽を作るようになったきっかけも、実はECMの作品群にあります。こういう音楽の表現方法、幅があるんだなと気づくきっかけを与えてくれたのがECMなんです。ある意味、そこからアルバムを出すことは僕の夢だったので、本当に嬉しいですね。また、今回のデビューがきっかけとなって自分の音楽を世界に提示できたことで、僕のスタイルを理解してくれる人が増えたことも単純に嬉しい。そこからまた新しい出会いや刺激も増えました。

現在ジャズの情報サイトにエッセイを書かれていますね。その中で高校時代に映画「Swallowtail」に出てくるバンドの曲を友人と暗闇の中で聞いていて、とても不思議な感覚を覚え、「自分が表現したい音楽というのはこれなんだ」と思ったと書かれていますが、それは具体的にはどういう感覚? 

プラネタリウムの中にいるような感覚と言えばいいのかな。宇宙のような大きな空間につながっているという感覚。自分だけの空間なのに、そこからいろいろなところにつながっているという不思議な感覚です。同時に、自分だけの大きな空間もあるという感じ。

その不思議な感覚は、現在作っている音につながっている?  例えば「星めぐりの歌」など。

今回のアルバムで日本の曲を取り上げたのは、特に戦略的にやったわけではなく、ただ自分の好きな音楽を取り上げただけなんです。もともと計画立ててやることが苦手なたちで、直感的にしか行動できないので(笑)。その中で言えるのは、メロディを大切にしたい気持ちがとても強いことですね。シンプルで美しいものが好きなので、自分の中の日本人的な感覚はそこに見いだせるのかなと思います。抽象的な感覚、掴めそうで掴めない、遠からず近からずという、ちょうど良い距離感や感覚を表現したいと思って音を創っています。

計算ではなくご自身の直感に従って展開していく感じ? 

こうやってみようと意図してなっているわけではないので、自然の流れに任せる感じです。

アルバム名にもなっている曲「For 2 Akis」は、どう言う意味?

僕が大阪に一時帰国していたときに、とてもお世話になった「いんたーぷれい8(はち)」というジャズ・バーのマスター、中村明利さんとスタッフのあきさんのお二人に捧げた曲なんです。元々は「A Song I Wrote for 2 Akis」という曲名で、それを短くしました。「2人のアキに書いた曲」みたいなニュアンスでしょうか。ちなみに先代のはちママは、僕がマスターにしていただいたように無名時代の山下洋輔さんをとてもサポートされていた方です。前回帰った時にちょうど「はち」の60周年記念+はちママ誕生日に合わせ、洋輔さんと僕のスペシャル・デュオ・コンサートをさせていただき、それは僕にとっても感慨深い一夜となりました。マスターとあきさんだけでなく、バーで出会った仲間たちへの想いとか、そういういろいろなものが詰まった曲です!

 

なぜドラムなのか?

幼少の頃のバイオリンをはじめ、ピアノ、ギターなどをやすやすと演奏されてきたわけですが、最終的にドラムに行き着かれました。それはなぜ?

父が大学の頃、ドラムを演奏していたんです。それで子供の頃からずっと家にはドラム・スティックがあり、ドラムの話もよくしていました。その影響が最も強いと思います。ピアノやギターを演奏していた時も、自分はいずれドラムをやるって、どこかで思っていましたから。「進也はリズム感がすごくいいから、ドラムやったら面白いよ」という父の言葉にも背中を押されたと思います。

音楽においてドラムが演じる役割とは?

難しい質問ですね。かつてはドラムでリズムやグルーヴを演奏することがカッコいいと思ってました。ジャズを始めた時もそうだったかな。でもドラムに深く入っていくと、特に僕がやっているような音楽では本質はそこにはないと気づきます。ドラムはメロディになってもいいし、コード楽器にもなりうる。旋律もハーモニーもできる。リズムやグルーヴだけでなくもっと色付けができる楽器であって欲しいという気持ちがいつもありますね。

だからジャズを選ばれた?

僕自身はジャズをやっているという「ジャンル意識」というのはほとんどありません。歌が入った音楽でもドラムが色付けしてもいいと思いますし。ジャズを意識してドラムを叩いているわけでは全くないんです。

今のような演奏スタイルになったのは?

昔は(現代ドラム奏者の殿堂入りも果たしている)ヴィニー・カリウタというドラマーが大好きで、彼のようになりたいとずっと思っていたんですが、でも自分が本当にやりたいことはそういうことじゃないなと、ある日気づきました。というのも、バークレー音楽大学に通っているころ、ヴィニーのようなドラマーになりたいと思っている学生がゴマンといたんですね。練習室でもそういったことを主眼に練習している人が多くて、テクニックばかりに囚われていた。でもヴィニーの演奏で素晴らしいのはそこだけじゃなくて、繊細な音を表現できることにもあるんです。

それでご自身の演奏を作っていった?

そこは大きいですね。ヴィニーはすでに存在しているのに、自分がヴィニーになっても仕方ないなと思った。そこから自分の演奏をやっていこうと言う姿勢に変わっていきました。ヴィニーは最近ジェフ・ベックと一緒にやることが多くて、個人的にはあの二人が一緒に演奏しているのがとても嬉しいんです。自分が大好きな二人が、やっと一緒にやることになったって(笑)。先日、友人と「誰が最高の音色を持っているミュージシャンか?」みたいな話をしていたんですが、とっさに頭に浮かんだのはジェフ・ベックでした。一音一音に込められているエモーションが素晴らしい。一音を聞いただけで、その思いがどんと伝わってくる。

それはご自身が音楽に求められていることと同じ?

音楽で何かを表現したいと思ったことは実は一度もなく、それに答えを出したくないというのが正直なところです。先ほども言いましたが、音楽はどこか抽象的であって欲しいので、そこは追求します。それ以外に関して音楽性のコンセプトは作りたくないというのかな。アーティストで言うとジャクソン・ポロックが好きなんですが、そんな抽象性と言うか・・・そこから出てくる何かだと思います。

ではご自身が目指している音楽性を言葉で表すとしたら?

自分がいちばん理想としている形は、すごくはっきり言いますけど(笑)、ラーメンズの小林賢太郎さんが描いている世界観なんです。ジャンルは全然違うんですが、僕が目指しているアートとしての音楽性はそこにあります。言葉にするとなかなか難しいんですが(笑)。ラーメンズのコントはとても芸術的だと思っていて、そこにつながっていると思います。小林さんがよく言っておられる「非日常の中の日常」という言葉がすごく好きで、インスピレーションをもらっています。設定は日常なのに、どこか違う世界にいるような、そんなテクスチャーがすごく好きなんですね。これが「Swallowtail」のバンドの音楽を聴いた時の不思議な感覚につながっているのかも。

 

ECM以降の動き

ECMからメジャー・デビューをされたことで、周辺も賑やかになってきていますね。

新アルバムがきっかけとなって各方面から声がかかり、この6月から3ヵ月ほど日本に滞在しました。多彩なミュージシャンの皆さんとの交流があり、その結果としてさらに活動の場も広がることになり、本当に嬉しく思っています。

日本での演奏は新鮮でした。7年ほど前、アメリカから日本に一年半ほど戻っていたときに比べて格段に違うステージに来たなという感はありますね。今回は主に東京に滞在したのですが、自分がこれまで知らなかった素晴らしいミュージシャンに出会うことができて、とても刺激になりました。じつは今、その活気ある日本の音楽シーンを海外で知ってもらう手助けができればと模索しています。

素晴らしいですね! もう少し具体的に教えてください。

日本の音楽シーンはアメリカやイギリスに目が向いていて、そこからは何もしなくても最新のものが入ってくるのに、ヨーロッパだとそうはいかない。努力しなければ交流は生まれないのが現状です。自分がこれからできるといいと思うのは、日本とヨーロッパの架け橋です。ヨーロッパのいい音楽を日本に紹介したいですし、日本のいいものもこちらに持って来たい。先日はノルウェー在住の田中鮎美さん、スウェーデン在住の坂田尚子さんといったピアニストの皆さんの日本での公演の仲立ちをさせていただきました。

また韓国に行く機会が今年は2回ほどあり、その度にミュージシャンをはじめ、地元の皆さんから温かい歓迎を受けました。日韓は政治的に難しい時期だと報道されていますが、皮膚感覚としては好印象しかありません。音楽的な交流は特に僕たちの業界ではとても少ないので、日韓の音楽交流の架け橋にもなれるといいなと思っています。じつはECMから同じくアルバムを出しているサックス奏者のソンジェ・ソンさんとの交流からも、面白いイベントが生まれそうです。彼は本当に素晴らしいミュージシャンで、ぜひ多くの方に知っていただきたいですね。

ミュンヘンでの生活や直近の活動について教えてください。

ミュンヘンは公園がたくさんあって過ごしやすい街です。バイエルン料理もすごく美味しい。僕は飲むのも好きなので、ビールが美味しいのは最高ですね! それに自分自身で美味しいものを探して食べたりすることが趣味になっています。料理も好きでよく作りますよ。大学時代からミートソースへの情熱があります! チリコンカンなどの煮込み料理が好きで、煮込んでいる時間をボォっと過ごしているのが幸せな時間かな。

直近ではこの10月、ギタリストの藤本一馬さんがミュンヘンに来てくださることになり、一緒に演奏します。そしてYOKOHAMA CALLINGのイベントでロンドンへ行きます!

 

イギリスの音楽に対する思い

イギリスの音楽について、どんな思いがありますか?

本当はアメリカよりもイギリスに留学したかったほどで、イギリスの音楽は大好きです。学生時代はディープ・パープルがすごく好きで、自分がドラムを始めたきっかけにもなった最も影響を受けたバンド。イアン・ペイスは敬愛するドラマーの一人でもあります。僕にとってイギリスはツェッペリンでありジェフ・べックであり、70年代全盛の音楽を思い出す場所ですね。そういう意味でも、今回、YOKOHAMA CALLINGに呼んでいただいたのは本当に嬉しく思っています。

ではUKのオーディエンスへメッセージを一言!

イギリスの音楽は好きなのに、訪れるのは初めてなので、めちゃ楽しみにしています。ある種、僕の音楽の原点と言ってもいい場所。その地に舞い降りることが楽しみでなりません。新しい出会いも今からとても楽しみ。また今まで僕の音楽を生で聴く機会がなかった方々に聴いてもらえるのもすごく嬉しいです。楽しみにしていてください!

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「音楽は考えるものじゃない。直感で表現するものだ」。そう教えてもらった福盛さんへのインタビュー。一つひとつの音へ純粋な愛情をかけていく彼の音楽は、生で聴くと、もっともっとここで語っていただいた内容と符合し、その世界観を実感することができるのだろう、そんな風に感じたのでした ^^  ぜひ皆さんもお越しください!

***福盛進也さんのロンドン・ライブ情報***

Shinya Fukumori & Andrew McCormack duo
日時:10月18日(金)20:30 – 22:30
会場:Launderdale House, Waterlow Park, Highgate Hill N6 5HG
入場料:12ポンド
チケットはこちら
https://www.eventbrite.co.uk/e/shinya-fukumori-andrew-mccormack-duo-tickets-65319296775

Convergence – Shinya Fukumori・BJ Cole・Iain Ballamy・Chris Montague
日時:10月20日(日)19:30 –
会場:The Cockpit, Gateforth Street, London NW8 8EH
入場料:15ポンド(割引12ポンド)
チケット購入はこちら
https://www.thecockpit.org.uk/show/shinya_fukumori_•_bj_cole_•_iain_ballamy_•_chris_montague

福盛進也 公式ホームページ
https://www.shinyafukumori.com

Shinya Fukumori Trio『For 2 Akis』ECMページ
https://www.ecmrecords.com/catalogue/1511878813/for-2-akis-shinya-fukumori-trio

アルバム詳細
https://store.universal-music.co.jp/product/ucce1171/

iTunes Store
https://itunes.apple.com/jp/album/for-2-akis/1440858594

Blue Note Clubでの連載エッセイ:
https://www.bluenote-club.com/diary/147976?wid=67716

あぶそる〜とロンドンのイベント紹介記事
http://www.absolute-london.co.uk/happenings/event/26284

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About Author

江國 まゆ

岡山県倉敷市出身。ロンドンを拠点に活動するライター、編集者。東京の文芸系出版社勤務、雑誌編集・ライターを経て、1998年渡英。英系広告代理店にて各種媒体の翻訳ローカライズや日本語コピーライティングを担当。日本語翻訳リライトのスペシャリスト。2009年からフリーランス。趣味の食べ歩きブログが人気となり『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房)を出版。2014年に「あぶそる〜とロンドン / Absolute London」を立ち上げ、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむかたわら、オルタナティブな生活、人間の可能性について模索中。あぶそる〜とロンドンが選ぶ『ロンドンでしたい100のこと』(自由国民社)を2018年に上梓。

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