048 | 巨大な象のいる部屋

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ロックダウンでさらに暗い冬を送っても、何事もなかったかのように息吹に満ちた春はやって来るものです。段階的ではあっても、さらなる規制解除が楽しみですね。前号に関連して、今回では医療システムやサイエンス・コミュニティが抱えている問題など、表立って扱われることがなさそうなトピックを取り上げます。

緊急事態の裏側

世界をパニックに巻き込んだ新型コロナウイルス感染(COVID-19)。特に複数の慢性疾患症を患う人たちが重症となって命を失い、深刻な問題となりました。予期せぬ事態への対処に際し、イギリス国内では国民性なのか(大英帝国の面影を今もなお引きずっている?)、滑稽と形容したくなる状況や発言が未だに続いています。仕事柄、科学的根拠に基づく情報の収集が必要なため、調べものはほぼ日課で、この一年は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)関連も、通常のリサーチに加わっています。意識的に報道と異なる情報を探すつもりは全くありませんが、調べれば調べるほどいろいろと出てくるもので、このギャップがどうやって埋まるのか、また埋まる方向にあるのかは大きな謎です。以下、わたしたちの現在位置を把握する目安になれば幸いです。

公開データと現実問題

ウイルス感染の広がりと共に強化されたPCR検査。培養によりサンプル内に細菌そのものを探す方法とは異なり、DNAを増幅させて存在や種類を特定する検査法です。これは、ウイルスに限定することなく、バクテリアなどの研究でも使われています。本人の存在なしにDNA鑑定で犯人を特定する方法をイメージすると、想像しやすいかもしれません。増幅回数の設定を高くしすぎると検査結果は偽陽性、低すぎると偽陰性となるため、PCR検査を開発した科学者自身が「新型コロナウイルスの検査には向かない」とコメントしていたにも関わらず、現在でも使われ続けています。

とある医療ジャーナル内に、PCR検査関連でNHSが抱えている問題についてレポートされているのを見つけました。偽陽性が多く出ているため再テストに時間とコストがかかることに加え、無症状陽性者の対応基準が設定されていないこと、そのためNHSの負担が大きくなっていることなどが指摘されていました(1)。正確さに欠けることに加え、陽性か陰性かしかわからない点も問題です。無症状で陽性の場合、症状がなければ周りへの感染はありませんが(2,3)、その中には感染初期段階で数日後に症状が出て感染を広げる可能性のある人もいます(割合はまだわかりませんが、ワクチン接種者からもCOVID-19感染者が出ているため、今のところワクチン接種者にも感染の可能性あり)。 PCR検査の問題は、WHOのウエブサイトでも、検査結果が正確に出ないことに関するページもあり(4)、NHSと同様の現象が世界中で起きているといえそうです。

アメリでは、COVID-19の入院患者には24時間おきにPCR検査が行われ、陽性であればその都度感染者数に加えていたようです。すなわち、報告されている数は明らかに感染者の「人数」ではないということです(5)。世界規模で、誤診や同じ人による連続再テスト分を加算していることが考えられます。誤解を招くので、何を根拠に「感染者数」を割り出しているかを明確にする必要があると思いますが、誰も指摘しないのは 、間違っていることに気づいていても今さら正すわけにもいかず、どちらにしても正しい数がわからないためかもしれません。

そして、これをさらに複雑にするのは、テストのタイミングです。感染後、比較的正確な結果が出るタイミングを逃すと、間違った検査結果の出る可能性が高くなることも、あまり知られていないようです。これらを合わせると、PCR検査の有効性とレポート・システムの設定には幅があり、陽性検査数と感染者数はイコールではないという事実に突き当たります。個人的には、これらの情報がある程度の目安に使えるかどうかも謎の範疇に入るという結論で締めくくっています 。

さて、再び舞台をアメリカに戻して、医療機関CDCのお話です。去年3月下旬になぜか正規の手続きをスキップして、死亡報告のシステムを単独で勝手に変えていたことが指摘されています。そのため、従来のシステムを適用した場合には、COVID-19による死者数は現在報告されている数の約6%なのだそう(5)。もしかしてと思って調べてみたら、アメリカほどではないものの、イギリスも似たような状況にあり、ガイドラインを見たところ実際の死因がCOVID-19でない場合でも、テスト陽性の記録がありその一定期間内であればCOVID-19による死亡に換算されているようです(6)。ということで、公表している数字は多めになっているようですが、現在各国が競っている集団ワクチンの接種率を下げないために、今さらこれらが間違いだったとして大々的に訂正することはまずないでしょう。

イギリス政府は、「わたしたちのNHSを守ろう」のスローガンでNHSへのサポートを呼びかけていたものの、実際のところ政府の目論見とNHSが必要としていたことには大きなずれがあり、その歪みが大きくなっていることも報告されています。通常の医療サービスが、大きな割合でコロナ対応に切り替わって後回しとなり、現在その遅れを取り戻すために動き始めていますが、通常の業務から離れて働き続けている、NHS職員の健康を脅かす負担となっているようです(7)。EU脱退もあり、Brexit(ブレキジット)ならぬDrexit(ドレキジット=Doctor Exit)が懸念されるなか(8)、医療システム運営の雲行きがさらにあやしい状況となっています。

メディアの危険性

アメリカ同様に、イギリスでも現在ソーシャルメディアを通じての情報公開阻止が半端ではなくなっています。もちろん、根拠がなく質の悪い間違った情報もたくさんあるので、これらの削除は必要でしょう。その反面、特にニュースと異なる意見を公開すれば、良質の有効な情報であっても削除されているようです。そのため、わたしたち一般市民が普通に得られる情報が、偏ったものであることにも気づきにくくなっています。一般人のわたしが、報道と現実とを見比べて明らかにわかる程度なので、実際にはもっと大きなギャップがあるのかもしれません。特に珍しいことではありませんが、特定の団体や企業との利害関係が大きく関与していることには間違いなさそうです。例えば、研究者側が(わたしたちにとって)有効な調査結果を得ても、ジャーナル側が弾圧を受けると判断した文献は、出版を拒否されています。逆に、今回のワクチン開発でももちろん、製薬会社から金銭的な援助を受けて研究結果を操作する研究者たちも存在します(9)。

ちまたでは、これらの一連を「陰謀説」と受け止めて、パラノイアの傾向にある人たちもいますが、それはさておき、一般市民の安全や個人の権利が確保できない状況は考えものだと思いませんか。選択や思想の自由が本当に存在するのか、謎です。上のとおり、安全目的の必要事項でも、都合の悪い真実はほぼ非公開になっているため、わたしたちが「意識的な選択」を行うことを難しくしています。自分たちの健康や安全が大切なら、「見えないから、ない」とか「ニュースは真実」という無意識層に入らないように注意する必要がありそうです。

こころの健康も大切。

最初のロックダウンから一年。人やコミュニティとの接触が制限され、そのストレスや不安から、パニック買いやストレス食いなどの「不健康」を選んだ人は多く、それに比例して精神状態の不安定や悪化を訴える人が増えています。社会隔離によるストレスが及ぼした影響は、多くの人が心身ともの健康バランスを失うという大きな代償と引き換えになっています。また、COVID-19の後遺症(Long COVIDと呼ばれています)で、鬱や不安症を発症した人の割合も大きいという統計が出ています(10)。ウイルス感染によるダメージも関係しているのでしょうが、メディアを通して植え付けられた恐怖の観念やロックダウンが、精神状態をさらに悪くしているのは変えようのない事実といえるでしょう。大げさに報道されている統計も、心理的には何の助けにもなりません。注意が必要なことを無視して無謀に走るのも大きな問題ですが、去年までの統計を知らない人たちが事実の確認をしないまま、どんどん膨れ上がる数字に怯えて、過剰な殺菌やOCD(強迫性障害)気味になっているのを見ると悲しくなってしまいます。

ちなみに、ハンド・ジェルなど市販のアルコール系殺菌剤は、頻繁に使用するとバクテリアが抵抗力を持つようになり殺菌困難な菌種になるため、注意が必要です。病院などで使われすぎて、すでに抗生物質では対応できなくなっているバクテリアも出てきています。可能な時には石鹸で手を洗い、本当に必要な時だけアルコール系殺菌剤を使うようにしてくださいね。

現在出ているデータ

去年後半に見つけた書類には、去年以前のコロナウイルスとの接触で、すでに人口の約40〜70%には免疫があるだろうという推測がありました(11)。その後イギリスのデータが出て、3月現在の報告によるとイングランドでは54.7%がすでに抗体を持っているという統計となっているようです(12)。さらには、つい先日発表された統計に基づく推測によると、イギリスではワクチンを2回接種しても、継続してCOVID-19による死者が接種していない人より多い半分以上の割合で出ることが予測され、今後のコロナ対策としてワクチンだけに頼ることはできないと報告していました(13)。

この一年間いろいろと調べていて、一般向けの報道の中に一つたりとも健康を軸にしたアプローチを推奨する記事やコメントを見つけていません。どこかで見落としたと思いたいのですが、そうではないようです。世の中は、病気や薬ベースの考えで進む必要があるからです。もちろん、医療システムのおかげで生命を維持している人たちも多く存在するので、それ自体を否定するつもりは全くありません。しかし、現在の体制が慢性疾患に理想的な形で対応できるデザインではないとことに加え、COVID-19の高リスク層には複数の慢性疾患を持つ人が圧倒的に多いこと(5)と考えると、物事は矛盾しているような気がします。イギリスは、2月の時点で合計4億5千7百万のワクチンを異なる8社に発注し、その総数は国内で必要とされる数を大きく上回ることが非難気味に指摘されていました(13)。ワクチンが安心できるプロテクションになるかは、まだ答えがなく謎の範疇にあります。ある程度のことがわかるのは、たぶん最短でもこの先数年かかるでしょう。正規の認証を受けたワクチンがこの地球上にまだ一つもないのに「ワクチン・パスポート」の導入が進んでいるのも、全く持って変な話です。その間、 高リスクの人たちの「病気」ではなく「健康」をサポートする体制があれば、とふと考えてしまいました。必要がないということではありませんが、この状況で大きく欠落しているのは、「ワクチン」という偽りの名を持つ「遺伝子治療」(11)よりも「健康で丈夫な人」だと思うのですが、世の中はそういうわけにはいきませんね。

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この記事のタイトルには、問題が世界規模であることから「巨大」としていますが、まさに「an elephant in the room(部屋の中に象がいる=問題が明らかでも見て見ぬふりで口にしないこと)」の状態です。そして、そのせいで良くも悪くも事実とは異なる情報が氾濫しているため、世界丸ごとが巨大な象のいる部屋と化しているような気がします。純粋に真実を伝えて一般市民の安全に努める医師や研究者たちも存在しますが、彼らのメッセージはことごとく削除されるなど見つけにくくなっているおまけに、ありもしないレッテルを貼られているのが現状です。この状況は、問題の起きている核部分はもちろん、それに対する一般市民の無意識度または無関心度の高さも大きな問題です。「知らぬが仏」的アプローチも選択肢の一つですが、無意識と無責任が紙一重に見えて複雑に思う今日この頃です。

追伸:
前号の原稿を準備している段階では、アストラゼネカ(ウイルス・ベクター)かファイザー(mRNA)かが選べたのですが、その後受ける側にはどちらかがわからない状態となり、表面上は選べなくなっているようです。ただし、選べないということで、強制的に希望しない方を押し付けられた場合は違法の領域に入ります。接種前に不明点をしっかり明らかにしておくことをお勧めします。もしご興味があれば、イギリスの医師&弁護士で構成されている団体の情報サイトもあるので、こちらをご参考に:
https://www.ukmedfreedom.org/about

 

参照:

  1. Surkova E, Nikolayevsky V and Drobniewski F. (2020). ‘False-positive COVID-19 results: hidden problems and costs’, The Lancet. vol.8, December. doi: 10.1156/S2213-2600(20)30453-7
  2. Cao S, et al. (2020). ‘Post-lockdown SARS-CoV-2 nucleic acid screening in nearly ten million residents of Wuhan, China’, Nature Communications, 11(5917). doi:10.1038/s41467-020-19802-w
  3. Li F, et al. (2021). ‘Household transmission of SARS-CoV-2 and risk factors for susceptibility and infectivity in Wuhan: a retrospective observational study’, The Lancet. doi:10.1016/S1473-3099(20)30981-6
  4. (2020). ‘WHO Information Notice for IVD Users’ Available at: https://web.archive.org/web/20201215013928/https://www.who.int/news/item/14-12-2020-who-information-notice-for-ivd-users (Accessed: 07 March 2021)
  5. Ealy H, et al. (2020). ‘COVID-19 Data Collection, Comorbidity & Federal Law: A Historical Retrospective’, Science, Public Health Policy, and The Law. 2:4-12
  6. Public Health England. (2020). ‘Technical Summary – Public Health England data series on death in people with COVID-19’. Available at: https://coronavirus.data.gov.uk/about (Accessed: 07 March 2021)
  7. Hunter, D. (2020). ‘Trying to “Protect the NHS” in the United Kingdom’, New England Journal of Medicine. 383(25). doi:10.1056/NEJMp2032508
  8. Russel, P. (2020). ‘”Drexit”: Can More Be Done to Understand Why Doctors Leave the NHS?’, Medscape. Available at: https://www.medspace.com/viewarticle/925062 (Accessed: 25 February 2020)
  9. Dagan N, et al. (2021). ‘BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine in a Nationwide Mass Vaccination Setting’, New England Journal of Medicine. doi:10.1056/NEJMoa2101765
  10. Taquet M, et al. (2021). ‘Bidirectional associations between COVID-19 and psychiatric disorder: retrospective cohort studies of 62 354 COVID-19 cases in the USA’, Lancet Psychiatry. 8:130-40. doi:1016/ S2215-0366(20)30462-4
  11. Brusa CA and Mereu R. (2020). ‘Complaint Relative to Vaccines Article 40 of the Criminal Procedural Code’. Formal Complaint to The Public Prosecutor of the Republic of France Judicial Tribunal of Paris. 1-44
  12. Rocke, T. (2021). ‘UK COVID-19 Update: WHO Wuhan Report, Extending Novavax Dose Gap ‘Probably’ OK, Sir Lenny’s Jab Message’, Medscape. Available at: https://www.medspace.com/viewarticle/925062 (Accessed: 30 March 2021)
  13. Moore, et al. (2021). ‘Vaccination and non-pharmaceutical interventions for COVID-19: a mathematical modelling study’, The Lancet. doi: 1016/ S1473-3099(21)00143-2
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About Author

大阪府出身、1996年よりロンドン在住。ナチュロパス、ファンクショナル・メディスン・プラクティショナー、ニュートリショナル・セラピスト(mCMA, mBANT, CNHCreg, CFMP)。ハックニー地区にあるコンプリメンタリー・ヘルス・クリニックと並行して、オンライン・クリニックでも活動中。好きなこと:健康的でおいしいものを作って食べること、ナチュラル・ヘルス・フード・ストアでヒット商品を探すこと。好きな色:ピンク紫(夕暮れ時の空の色とか)。好きな言葉:(実現の状態を)見る前に信じること(”You’ll see it when you believe it.” by Wayne Dyer)。

2件のコメント

  1. 朋子さん、どうもありがとうございます!ニュースで目にするような報道内容とのギャップが大きいため心配していましたが、ポジティブなコメントをいただき、大きな励みになると心より感謝しております。わたし自身もこれらの差にどうしたものか困ってしまうような内容ですが、どちらも即鵜呑みにせず比較対象として使っていただければ幸いです。おっしゃるとおり、ソーシャルメディアの投稿削除はもちろん、安全目的で報道と異なる意見を発信する医師たちのアカウントも相次いで削除されています。信じがたいことですが、「なぜ?」の部分を掘り下げれば真実がよりクリアに見えてくると思います。

  2. ラーセン朋子 on

    典型的なイギリス人家族に囲まれて暮らしている私が昨年から悶々としていた理由。
    そのリストが全て網羅されていると感じた記事。本質に深く触れてますね。
    前回の記事にも唸りましたが、今回の記事も何度も読み返してます。

    まゆさん、ゆり子さんの記事には助けられてます。ありがとうございます。

    日本からの情報で、新潟大学名誉教授の岡田正彦さんの動画の紹介記事に
    『現状では、特に海外の場合、SNS でも YouTube でも
    「ポリシーに違反する」と判定された動画は、それが専門家のものであろうと
    容赦なく削除、あるいは検索から排除されることになっています。』とあったのとも繋がります。

    まさかイギリスでこういう経験をしようとは!とそのこと自体にいまだにショックを
    受けていましたが、それは幻想ではないようですね、残念ながら。
    だからこそ心ある報道を伝えようとされる方達には感謝です。

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