ごく英国的なアイテム【日用品編】 ベスト5

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イギリス人が好む、イギリスらしいアイテムのベスト5! 

実は数年前に他媒体向けに執筆したものなのですが、その媒体がなくなってしまったので文章を大幅編集して掲載します。「イギリスあるある」的な要素も含め、一般的に浸透している日用アイテムの中から、イギリスらしいベストを選んでみました。きっとそれぞれにベストがあると思うのですが、皆さんのベスト5はなんでしょうか^^ (食品についてはまた今度!)

 

1. Henry the Hoover  掃除機のヘンリー

イギリスで小売店の閉店時に居合わせると、たいてい真っ赤なアナログ掃除機「Henry」がビッグ・スマイルを顔に浮かべて活躍している。家庭での使用率も高い。なぜ彼はイギリス全土にいるのか? それはまるで影分身の術を使ったヘンリーが、イギリス中の床を掃除しているかのようなのだ。
コードレスの軽い掃除機が人気の今、ずっしりと重い6.6キロのヘンリーは世代交代してもよさそうなのに、製造元である英企業Numatic社では未だに一日に何千台というヘンリーを造り続けている。ヘンリーの体重が重いのは、彼が元々、学校や病院の広い床を清掃するパワフルな業務用掃除機として開発されたからだ。生まれたのは1981年。誕生時から顔にずっと大きなスマイルを浮かべているわけだが、これはNumatic社の創業者でヘンリーの生みの親であるクリス・ダンカン氏のアイディア。早朝や夜遅くにオフィスの清掃をする孤独なスタッフのために「友達のような掃除機を造りたかったから」。顔と一緒に「ヘンリー」(執事の典型的な名前)という名前までもらって実際に商業施設で使われ始めると、なんとも愛嬌のある真っ赤な掃除機はたちまち人気者となり、家庭でも使いたいという人が続出。製造元が意図しないところでどんどん一般家庭に普及していったのだという。
しかし愛用されている真の理由は、掃除機として非常に優秀だからなのだ。実際に使ってみると、その実直な良さが分かる。シンプルで頑丈、何より吸引力がズバ抜けている。イギリスはカーペットの家が多く、その上を土足で歩くためヘンリーの強力な吸引力は願ったりかなったり。電気コードはハンドルをクルクル手で回して収納する仕組みなので、電動式にありがちなヘンな故障の原因になることもない。どころか、頑丈な彼はほとんど故障しないのだ(万が一故障してもパーツ交換でOK)。お値段も手頃でスタンダードなヘンリーは100ポンド。実直なイギリス人に愛されている理由が、これでお分かりいただけたと思う。

 

2. Christmas Jumper クリスマス・ジャンパー

皮肉屋のイギリス人たちがジョークで着こなすダサ可愛セーターが、クリスマス時期に登場する「クリスマス・ジャンパー」だ。冬のイギリスに定着している風物詩的なファッションで、通常のブティックよりも食糧品を売る大型スーパーの一画で簡単に見つけることができる。
お世辞にもクールとは言えないこれらのセーターは、いわば季節限定のジョーク・セーター。そのルーツを辿ると、おばあちゃんやお母さんが作ってくれる、びっくりするほどダサい(でも愛情いっぱいの)手編みセーターに行きあたる。この手編みセーターへのイギリス人たちの複雑な思いは、ちょうど「ハリー・ポッター」シリーズでウィーズリー家の子どもたちが母親から無理矢理与えられるクリスマス・プレゼントの手編みセーターによく表われている。有り難いけれど、着るのが恥ずかしい。そんな偽らざる気持ちはどうも万人に共通だったらしく、このジョーク・セーターの文化を生み出す土台となった。
ポジティブな意味で注目を集め始めたのは1980年代。テレビのクリスマス特番で「着るのが恥ずかしいほど派手にクリスマスしているセーター」を、出演者たちがジョーク混じりに着たことで人気となり、クリスマス時期にクリスマス・ジャンパーを着るという文化が次第に定着。2001年に公開された「ブリジット・ジョーンズの日記」では生真面目なマーク・ダーシーがダサダサのトナカイ柄セーターを着てクリスマス・パーティーに参加したことで、一気に注目度がアップ! こぞってメディアが取り上げて一種のファッションにもなった。
今ではハイストリート・ブランドも季節になるとクリスマス・ジャンパーを手がけるようになり、ダサいというよりも季節のファッションというイメージに変わりつつある。このクリスマス・ジャンパーを「クリスマス時期以外」に着ている人がいたら……それは真にジョークの分かる人か、または真にダサいかの、どちらかだ。

 

3 Lap Tray ラップトレイ

居間のソファに座ったまま、お茶を飲んだりご飯を食べたりしたい」というイギリス人の率直すぎる思いを形にしたイギリス生まれのプロダクトが「ラップトレイ」、つまりクッション付きの簡易トレイだ。ラップトレイが広く使われるようになった背景に、1950〜60年代のテレビの普及があることは間違いない。テレビによるエンターテインメントの黄金時代、アメリカでは仕切りのあるアルミトレイに肉料理や付け合わせのビーンズやコーンをのせたお弁当スタイルの冷凍食品が生まれた。これは「TVディナー」と名付けられ、お一人様用の足付きデスクトレイにのせてソファで食事いただくスタイルの火付け役になったようだ。
イギリスではダイニング・テーブルのない労働者階級の家庭も当時は珍しくなく、居間のソファに座ったまま一皿盛りにした食事をとるのにクッション付きトレイほど便利なものはなかった。 そしてなぜか、伝統的にはラップトレイのトレイ部分の柄は、ちょっぴり垢抜けない「具象的な絵柄」が多いのが特徴だ。例えば大胆な70年代風のボタニカル柄であったり、動物柄だったり鳥柄だったり。トレイの縁を額縁に見立てると、それはまるで庶民にも分かりやすい一幅の絵画。いかにもおばあちゃんが好みそうな……。
イギリスでラップトレイと言えば「お年寄りのいる家庭にあるもの」というイメージが強いのも、このせいかもしれない。おばあちゃんが肘付き椅子に座って、お気に入りの柄のラップトレイで、テレビを見ながらご飯を食べて癒されている……そんなイメージなのだ。そしてそれは、家族からの贈りものであることも多い。最近では若い世代の家庭をターゲットにしているのか、スっとした表情のシンプルなデザインも数多く見かける。しかしなぜか昔ながらのもったりとした絵柄のラップトレイは、未だ強い支持を得ているようである。仕事ならシンプルなものがいいが、リラックスしたときに使うなら、好みの具象柄が付いているほうが明るい気持ちでいられるのかもしれない。

 

4 Pears Soap ペアーズ・ソープ

ペアーズ・ソープは年配層を中心に根強い支持を得ているイギリスの定番石けんだ。日本で言うと牛乳石鹸みたいなものだろうか。しかし牛乳石鹸が90歳足らずであるのに比べ、Pearsは驚くなかれ、230年の歴史を誇る世界で最初に商標登録された透明石けん、つまり透明石けんのマスプロダクト第一号なのである。
作ったのはコーンウォール生まれのAndrew Pears。18世紀末、床屋修業でロンドンに出てきてみると、上流の皆様がお顔の美白に執心していらっしゃることを発見。それならばデリケートな美白肌のためのやさしい洗顔剤が必要であろうと、試行錯誤を重ねて生まれたのが、グリセリンとシダーウッドやタイムの油で作った自然派石けんだった。不純物を取り除くことに重点を置いて2ヵ月ほど熟成させてみたら、なんと半透明の琥珀色をしたきれいな石けんができちゃった。1789年のことである。
このブランドは現存する商品ブランドとしても世界最古らしい。イギリスの街角にある古いビルディングの外壁には、時おりPears Soapの宣伝用の壁画が残っている。販売元だったA & F Pears社は、19世紀半ばのビジネスとしては稀に見るブランディング戦略に力を注いだ会社だった。華々しい広告展開で「富裕層が使う肌にやさしいナチュラル石けん」のイメージを人々の脳みそに刷り込むことに成功。創業者はストーリーを生み出し、消費者の感情に結びつけるという王道マーケティングに天才的な才能を発揮した。
現在は1コ50ペンス(約70円)程度で買える庶民のブランド(長い歴史ゆえロイヤル・ワラントも保持しているが)で、今も年配の皆さんにファンは多い。しかしユニリーバの傘下に入ってからはオリジナルの「洗い立ての洗濯ものみたいなふんわり幸せな香り」から「どぎつい工業的な匂い」に変わってしまったという。それに気づいたある愛用者が、「オリジナル」のPears石けんの在庫を置いている小売店のドアを叩き、残り一生分のオリジナル・ソープ200個を買い占めたという逸話もあるほど。この時期に「オリジナル・ペアーズを取り戻せ」キャンペーンが展開されたが、やはり元通りにはならなかった模様。え? 実際はどんな香りなのかって? 洗い立ての洗濯物みたいな香りではない、とだけ記しておこう。

 

5. Bach Rescue Remedy バッチ・レスキューレメディ

小さなガラス瓶に入っている液体、フラワーレメディは、服むと感情面でつっかえていることの解消に役立つという。1930年代にエドワード・バッチ博士というイギリス人医師が開発したもので、けっこう歴史は長いのだ。バッチ博士は細菌学者として世界的な名声を得て王室医でもあった人だが、身体だけでなく心の癒しが人間には必要だと気づき、放浪の末、自然の中にあまねく存在する癒しの力の発見に至った。
中身は何かというと、ほとんどが水と保存用のブランデー。しかし、その液体には……なんと「植物のエネルギー」が転写されているのだ。ミネラルウォーターの上に花を浮かべて太陽光にあてる、あるいはミネラルウォーターで植物を煮る。そうやって植物のエネルギーを水に転写することで母液ができあがる。バッチ博士が見つけたレメディは38種類あり、それぞれの植物のバラエティによって、心への作用が異なるのだという。
例えば「オリーブ」は心身共に疲労困憊してエネルギーが枯渇している人にバイタリティを取り戻させる、 「ウォルナット(クルミ)」は過去からのしがらみに縛られた心をいやし、前に進んでいく順応性を与えるといった具合。この38種類のレメディとは別に「レスキューレメディ Rescue Remedy」というシリーズがある。「レスキュー」と言うだけあり、救急・緊急の場面に登場する。強いストレスやショックなどを感じているときに服用すると、緊張をときほぐし、リラックスさせてくれる効果がある。イギリス人がよく使う場面としては、テスト前。とくに運転免許試験の前に使うという話はけっこう聞く。失恋したときや、誰かが亡くなったときにも穏やかに作用して心を落ちつかせてくれるという。レスキュー・シリーズには液体だけでなく、スプレー、塗布用クリーム、ドロップなどいろんな形態がある。クリームは火傷をした直後に塗ると効果てき面。症状が格段に軽くてすむ。
自然とのつながりをとても大切にするイギリス人だからこそ、自然由来のフラワーレメディは思った以上に日常に浸透している。そしてレスキューレメディは、バッチの中で最も広く使われているレメディである。イギリスでは日本のマツキヨなどに当たるごく一般的な薬局「Boots ブーツ」で簡単に入手できるのもいい。「一家に一本、心の救急箱の中にお一つどうぞ」。

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岡山県倉敷市出身。ロンドンを拠点に活動するライター、編集者。東京の文芸系出版社勤務、雑誌編集・ライターを経て、1998年渡英。英系制作会社にて数多くの日本語プロジェクトに関わった後、2009年からフリーランス、各種媒体に寄稿中。2014年にイギリス情報サイト「あぶそる~とロンドン」を立ち上げ、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむかたわら、オルタナティブな生活、人間の可能性について模索中。著書に『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房) 『ロンドンでしたい100のこと』『イギリスの飾らないのに豊かな暮らし 365日』『コッツウォルズ』(自由国民社)。NHK文化センター名古屋教室「江國まゆのイギリス便り」講師。MUSIC BIRDのラジオ番組「ガウラジ」に月一でゲスト出演。チャネリングをベースとしたヒーラー「エウリーナ」としても活動中(保江邦夫氏との共著『シリウス宇宙連合アシュター司令官 vs.保江邦夫緊急指令対談』もある)。Instagram: @ekumayu

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