Back in Time for…ヴィクトリア時代の食糧品店!

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BBC2 の「Back in Time for…」シリーズは、近年イギリスでとても人気があるテレビ番組の一つです。

食生活や学校生活などテーマを決めて、イギリスがこの1世紀のうちに体験してきたライフスタイルの変遷を見ていくという趣向の番組。一つの一般家族が選ばれ、着ているものや生活の手段に至るまで当時のままの暮らしをなぞっていくので、言うなれば番組制作の枠を借りてのタイムスリップ!  念が入っていることに、キッチンやリビングのインテリアも当時のものに毎回変えちゃうのです。なかなか楽しいでしょう? 戦争中や戦後の食糧難の時代など、体験するからこそ見えてくることもたくさん。成り切っちゃうドラマと違って、現代人としての反応も見どころなのです^^

Back in Time for Dinner のロブショウ一家+プレゼンターのジャイル・コーエン。

人気の火付け役となったのが、2015年に放送された第一シリーズ「Back in Time for Dinner」(ディナーで過去へ戻っちゃおう)でした。私もこのシリーズはお気に入りで毎回楽しみにしていました。1950年代から60年間に渡って中産階級のディナータイムの文化誌をひもといていくのですが、一般人であるロブショウ一家の面々がかなりユニークだったため、その魅力も手伝って大人気に ^^  (ロブショウ家のお父さんは作家さんみたいです) この成功を受けてBack in Time Weekend / Tea / Factory / School などが制作されたのです。

そして昨年春の放送となった最新シリーズが、「Back in Time for the Corner Shop」(町の商店で過去へ戻っちゃおう)。19世紀末のヴィクトリア朝時代から始まり、1990年代まで小さな商店の歴史を振り返ります。どうしていきなりこの番組の話をし始めたのかというと、散歩中に久しぶりに隣町にあるヴィクトリア朝時代から続く商店に立ち寄ったとき、思わずこの番組を思い出しちゃったからです^^  前置きが長くなりました。

そのお店の名前は、W Martyn。北ロンドンのMuswell Hillという住宅ヴィレッジのハイ・ストリートにあります。創業は1897年。1800年代後半は、現在も続いているたくさんのブランドが生まれた時代です。継続年数だけなら負けていないお店はたくさんあると思いますが、W Martynが特別なのはヴィクトリア朝時代のインテリアがほぼそのまま残っていること!  店に入った途端に・・・誰でも簡単にタイムスリップできちゃうのです。

レトロなマホガニーの棚。いちばん奥に、お客さんとやりとりする小さな窓口があります。

ビスケットやチョコレートがぎっしり! 魔法学校の生徒も常連になりそう^^

ジャムやチャツネ類がぎっしり!

W Martynが何屋さんかというと、まずコーヒーと紅茶の専門店です。そしてティータイムに欠かせないジャムやビスケット、チョコレートなどの嗜好品もずらりと取り揃えているのです。ビスケットやチョコレート、ジャムも自社ブランド品を作っているので、スーパーでは買えないオリジナル商品がここにはたくさん。もちろん独立系の他ブランドの商品も少し扱っています。

W Martynはコーヒーと紅茶の専門店で、全て自社商品。紅茶は全てリーフ・ティー。コーヒーは焙煎もここで!

オリジナル・ラベルのビスケット。契約しているサプライヤーさんに作ってもらうのだそうです。

お土産に喜ばれそうなものばかり^^

チョコレートも人気商品だそう! それからドライ・フルーツやナッツも主力商品だとか。

現在のオーナーさんは、4代目のウィリアム・マーティンさん。お店のウェブサイトに沿革が書かれているのですが、それによるとデヴォンからロンドンに商人見習いとして引っ越してきたウィリアムさんの曾おじいさんが始めたお店だそうです。

ヴィクトリア時代の町の食料品店では、今のようにお客さんが勝手に品物を自分のカゴに入れるセルフサービスではなく、店の人が客の注文を聞いてメモをとり、その日の午後か翌朝に商品をまとめて自宅に届けるのが普通だったそうです。それはテレビ番組「Back in Time for the Corner Shop」でも言及されていて、実際に荷馬車で商品を運ぶ様子も再現していました。W Martynも、当時、商品を配達した荷馬車の写真が残っています!

余談ですが W Martyn 創業のちょうど翌年にスコットランドで誕生したショートブレッドのウォーカーも、マーケティングに荷馬車の写真を使っています。ヴィクトリア朝時代に生まれた食品ブランドとしての出発点が、そこにあるからなのでしょうね ^^

お店のウェブサイトから拝借。

こちらはBBC2「Back in Time for the Corner Shop」から。ヴィクトリア朝時代のコーナー・ショップを再現!

秤もまだ分銅の時代です。

北ロンドンのマズウェル・ヒルは19世紀末から20世紀初頭にかけて郊外の住宅街として開発されました。その都市計画の中に商店街の開発も含まれており、1899年の資料には、チーズ屋さん、パン屋さん、肉屋さん、鳥肉屋さん、魚屋さん、お菓子屋さん、文房具店、理髪店、薬局、呉服店、靴屋さん、染物屋さん、本屋さん、酒屋さん、画廊、貯蔵所などがあったと書かれており、このW Martynも、そのリストに記載されています。

実はW Martyn の店舗は、2009年にヒストリック・イングランド(旧イングリッシュ・ヘリテージ)認定の保護建築リストに加わっています。リスティングの話が持ち上がった時、オーナーのウィリアムさんが「リスティングされたくない!」とインタビューに答えている記事を読みました(笑)。こういった歴史建築保護リストに認定されてしまうと、内装はおろか外装もほぼ変えることはできなくなってしまい、とっても窮屈で商売に差し障りがあるからなんですね。でも認定を受けちゃっているみたいなので、なんらかの条件をつけてもらったのかも^^  しかしお客さんには朗報です。この素敵なヴィクトリアン建築は、この先もしばらく変わらないはずですから。

この町に来ると、3度に1回くらいは私もW Martynの様子を覗きたくなってしまいます。以前、とても気に入っていたビスケットがあったのですが、今は取り扱いがないようで残念。今回はアップル&シナモン風味の紅茶と、ダークチョコレートでコーティングしたジンジャー・ビスケットを入手したので、ヴィクトリアンなティータイムを楽しみました^^

W Martynでは、今も1930年代のレトロなコーヒー焙煎機がフル稼働しています。店頭で焙煎しているときは、店の周りじゅうにコーヒーを煎る香ばしい匂いが充満します。その様子は信じられないくらい時代錯誤で、通りで見かけるために足を止めて見入ってしまいます。

ロンドンの中心部には壮麗な大建築が大通りに並び、かつての上流階級の人々の生活に思いをはせることができますが、100年前の庶民の暮らしぶりがわかるお店はなかなか見つからないもの。今度ロンドンにこられたら、マズウェル・ヒルにも一度足を伸ばしてみてくださいね^^ 他にもたくさん独立系のお店があり、ロンドナーの日常を体験できます。

ここ数年、私は脱プラを目指していて、食品の保存はホウロウかガラス製の容器に入れるか、またはボウルに入れてお皿で蓋。野菜や食べかけの生鮮食品は八百屋さんでもらった紙袋を二重にして包むか、またはミツロウで作ったエコラップで保存しています。ミツロウのラップは洗って何度も使える天然素材なので、とってもエコで身体にも優しい。 BBCの再現番組を見ていて、包装の仕方も100 年前はエコだなぁなんて、そんな視点でも見てしまいました。

W Martyn
135 Muswell Hill Broadway, London N10 3RS
営業:月〜土 10:30-16:30 / 日 12:00-16:00
https://www.wmartyn.co.uk

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About Author

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岡山県倉敷市出身。ロンドンを拠点に活動するライター、編集者。東京の文芸系出版社勤務、雑誌編集・ライターを経て、1998年渡英。英系制作会社にて数多くの日本語プロジェクトに関わった後、2009年からフリーランス、各種媒体に寄稿中。2014年にイギリス情報サイト「あぶそる~とロンドン」を立ち上げ、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむかたわら、オルタナティブな生活、人間の可能性について模索中。著書に『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房) 『ロンドンでしたい100のこと』『イギリスの飾らないのに豊かな暮らし 365日』『コッツウォルズ』(自由国民社)。NHK文化センター名古屋教室「江國まゆのイギリス便り」講師。MUSIC BIRDのラジオ番組「ガウラジ」に月一でゲスト出演。チャネリングをベースとしたヒーラー「エウリーナ」としても活動中(保江邦夫氏との共著『シリウス宇宙連合アシュター司令官 vs.保江邦夫緊急指令対談』もある)。Instagram: @ekumayu

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