異色のデュオ「2Gz」辻仁成 x 武本英之 ロンドン公演レビュー!

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すごいものを観させてもらった。まったく異なる個性があっという間に見事な反転を見せ、目覚ましく統合していくような。2Gz初のギグは、まさにそんな感じだった。

・・・というわけで、冬に逆戻りしていくかのようなロンドンの寒空の下から(笑)、4月19日のレポート!

この金曜日、音楽通ロンドナーなら知らぬものはいない伝説のベニュー、The Water Ratsにて、Gig Connectionによるオーガナイズ「2Gz」のライブが行われた。辻仁成と武本英之、2本のギターが互いを支え、響き合い、唯一無二のヴォーカルが加わって、ロックの聖地ロンドンの一画を、確かに揺るがせたのだ。

ここでーす

入り口の告知板

ここがバーでーす。「Beat the Rat Race」(人生を生き抜けろ)

アートも個性的。バーは大忙し

右手にベニューへの入り口が見えます。もうすぐON AIR!!

かたや日本の1980年代を疾走したトップ・ミュージシャンであり、フランスを拠点に活動する芥川賞作家、画家でもあるマルチな天才、辻仁成。かたやクラシック・ギターを片手にロンドンから着実に欧州へと活躍の場を広げている”マジック・フィンガー” 武本英之 / Hidè Takemoto

まったく異なる背景をもつ二人が、前代未聞のタッグを組み、信じられないような舞台を観せてくれた夜。キャリアの違い? そんなの関係ない! ここ、ロンドンで、この日、二人がともに同じ夜をデザインし、観客を楽しませてくれたこと、それだけが神聖な事実なのだ。

え? それでどんなライブだったかって? それをね、これからレポートしようと思うのであ〜る。

さ、人が続々と集まってきましたよ♪

スタートは19時半。最初に鳴り響いたのは、辻風にアレンジされた「ソーラン節」!  聞き慣れた民謡の力強い歌詞と音調に、会場はまたたくまに熱気ムンムンに。この稀有なデュオを見ようと集まってきた英国在住の日本人オーディエンスが、一斉に心を一つにすることができたファースト・チョイス。さすがである。

その後は「Le Ciel [空] 」「ガラスの天井」「光の子供」「鳥の王」「アカシア」など辻さんのオリジナル曲、「My Funny Valentine」「Summer Time」「Ne Me Quitte Pas」などのカバー曲を含む12曲を、テンポよく聴かせてくれた。

それにしても何というエネルギー!

辻仁成の太く伸びやかなヴォーカルと力強い弦の音を、ヒデの軽やかで陰影あふれるギターがサポートする。魂から立ちのぼってくるような辻さんの歌に、皆が圧倒されていた。これが2Gzなのだ。

途中、お二人の掛け合いや、いつも通りのヒデらしい軽妙なMCが入り、会場からは声援と温かい拍手の嵐♡ 直前インタビューでヒデさんは「レイドバックしている人なのだ」と書いたが、昨夜もそれを目撃してしまった。これまでにない大舞台で「緊張した?」と後で聞いてみたら、「それが全然なんです」とまたしても例のスマイリー・フェイスで返してくれた。ギターだけでなく、彼のMCファンも大勢いるのである。

それにしても初めてのコラボとは思えないスムーズな仕上がりはさすがだった。もちろんこの日を迎えるまでパリとロンドンという離れた土地で眩暈がするような練習とすり合わせがあったことは百も承知しているが、その試練は見事に実り、瑞々しい果実となってそこにいた全ての魂を潤してくれた。

何より、お二人とも気持ちよさそうに演奏されていたのが、眩しかった。

©️Mika Suzuki @mika7574 (冒頭のバナー写真も同様です!♡)

ちょい渋めの写真ですが気に入ってますのです

アンコールには「ZOO」! 開場全体がどっと沸いて、大盛り上がり。そうこなくちゃ。

実は・・・序盤数曲あたりでギターを弾く辻さんの爪が割れてしまい、その後は血を流しながらの演奏という由々しき事態になってしまった。にもかかわらず、最後まで完走されたのはさすが。プロフェッショナル魂がそれをさせたのだと思う。

というわけで最後のアンコールは、ギターをおろした辻さんが、ヒデさんのギターで全身全霊のヴォーカルを「Sunny」で聴かせてくれた。

泣ける・・・。

 

大盛況のうちに幕を閉じた史上初の「2Gz」ライブ。

会場に残された誰もが満たされ、「良かったね」と顔を見合わせ微笑んだ夜だったのである。

ライブ終了後、日本から来られていた熱烈ファンにに突撃インタビュー! 親子で辻ファンなのだそうだ。

「日本から来られているなんて、すごいですね!」

「昨年の10月もきました! 日本だとこんな間近ではみられないので、本当に貴重なチャンスです。」

「ヒデさんはどうだった?」

「辻さんにピッタリ! すごく良かったです。今日のライブは特に辻さんが楽しそうに見えたのが印象的でした。それが何よりです♡  6月はフランスにも行きま〜す!」

手作り衣装の美人親子さん。キラキラの「辻うちわ」が眩しすぎる

辻さんのライブを何度も観ている熱狂的な辻ファンにも2Gzは好評だったようだ。次はフランス!

フランスは2Gzというよりも、辻仁成のライブにヒデさんがギターで随行する形になるようだ。

・・・・・・

辻さんにとってはアウェイ感たっぷりのロンドン公演だったと思う。蓋を開けてみると、ホストとしての武本英之が、自身のコネクションと愛を駆使して作り上げたコミュニティー・ライブのようにも見えた。スポンサーの「サカイ引越しセンター」ロンドン支店社長さんも、長年に渡るヒデ・ファンだ。

日本の大きな箱で活躍されてきた辻さんには初めての体験も多かったと思うけれど、初体験も込みの今回のロンドン公演、さまざまな側面から楽しんでいただけていたらと、願ってやまない。

辻さん主宰のウェブメディア「Design Stories」のご自身のブログは、ヒデさんが関わるようになってから私も時折拝読している。多くのファンが、毎日綴られる辻仁成の心象風景に心を寄せ、共鳴しようとしている。そこには辻さん自身が観ている世界が、ごっそり横たわっている。

その中で辻さんがヒデさんのことを「宇宙人」だと称していてつい微笑んでしまった。そういうコミュニケーションの難しさがあることは容易に想像できる。

今回の2Gz初公演では、ロンドンの武本英之にとっては17曲という全く新しい曲を数ヵ月でモノにするという荒業が存在していた。たった2回のリハーサルであの素晴らしいギグを実現できたこと自体、お二人の情熱とテクニックの賜物だし、まさに驚異的だと思う。

そんな中で宇宙人同士のコミュニケーションが「ツーカー」ではなかったことは仕方ないけれど(笑)、辻さんも日記で綴られているように、「これからもっとよくなっていく」しかない部分でもあるだろう。

面白いなと思ったのは、そもそも今回の2Gz誕生の立役者が、他でもない辻仁成ファン歴が約35年のヒデ友人のAさんだったということだ。Aさんの後押しがなければ、ヒデさんは辻さんに連絡していなかった。でなければ辻さんはヒデさんを「発見」しなかった。発見できなければロンドンでの公演も全く別のものになり、ヒデという才能を広く世に示すこともできなかったかもしれない。(辻さん側にも別のストーリーがあるはずだ)

人生に起きること全てが必然だとすれば、この運命の輪が物語るストーリーにも、きちんと耳を傾けなくてはなるまい。世界には誰一人として、脇役はいない。人は皆、人生を主役として生き切る。辻さんもヒデさんも、Aさんも。もちろん、このライブに関わった全ての人たちが、それぞれの異なる視点を抱えて生きていく。人生の接点を持ちながら。

辻さん、またぜひロンドンに戻ってきてくださいね。そしてヒデさん、ますますのご活躍を! フランスの日程は、辻さんのJINSEI STORIESで!

ブラボー!

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岡山県倉敷市出身。ロンドンを拠点に活動するライター、編集者。東京の文芸系出版社勤務、雑誌編集・ライターを経て、1998年渡英。英系制作会社にて数多くの日本語プロジェクトに関わった後、2009年からフリーランス、各種媒体に寄稿中。2014年にイギリス情報サイト「あぶそる~とロンドン」を立ち上げ、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむかたわら、オルタナティブな生活、人間の可能性について模索中。著書に『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房) 『ロンドンでしたい100のこと』『イギリスの飾らないのに豊かな暮らし 365日』『コッツウォルズ』(自由国民社)。NHK文化センター名古屋教室「江國まゆのイギリス便り」講師。MUSIC BIRDのラジオ番組「ガウラジ」に月一でゲスト出演。チャネリングをベースとしたヒーラー「エウリーナ」としても活動中(保江邦夫氏との共著『シリウス宇宙連合アシュター司令官 vs.保江邦夫緊急指令対談』もある)。Instagram: @ekumayu

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