Chapter 3.9
「好きなこと」がみつからない
<はじめに>
今回のコラムは「フォーモーとせんたくし症候群②」の続きに当たります。詳しく知りたい方は前回、前々回のコラムをご覧くださいね。
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「大切なことや好きなことをするための時間・空間・心のスペースを作る」という話をすると、よく言われます。
「それ以前に好きなこと、やりたいことがわからないです。」
あきらめとやつあたりの気持ちが入っていることもあります。
「好きなことがある人はいいですね。私は忙しいばっかりでやりたいことなんてないし、あってもできないですよ。」
確かにこういった悩みを抱える人は多いもの。でも、そのことについて一瞬ではなく、本気で考えてみたことがある人はどれほどいるのかな、とも思います。
たとえばある日、何もしなくていい1時間がぽっかりできたとします。さて、どうやって時間を過ごしましょうか。
多くの人がテレビやネット、ゲーム、スマホなどスクリーンを眺めることに時間を費やしてしまうのではないでしょうか。
「何もしなくていい時間、ぼんやりする時間がある」ということは本来とても贅沢な状態のはずなのですが、現代人にとっての「空き時間」「ヒマ」は時に恐ろしいものでもあります。
それは「ヒマ人」「負け犬」「取り残されている」といったマイナスのイメージが気になってしまうというのがひとつの理由。そしてさらに大きな理由は、これまでずっと答えを出すのを先送りしてきた「…で、本当のトコロどうしたいの?」という問いと向き合わなくてはいけなくなるからです。
「何をしたい?何が大切?」
単純なようでとっても怖〜いこの質問。
だってその「なにか」は今の生活と大きくかけ離れているかもしれない。それができないことに気がついて悲しくなるかもしれない。
そんな気の滅入ることをするよりも、この貴重な空き時間をなんとか「有効利用」しなくては。ぼんやりとする贅沢は、いつか南の島でバカンスする時にでもとっておこう…。
こういった心理は前述の「フォーモー」と「せんたくし症候群」の典型的な例といえます。
娯楽や暇つぶしが悪いという意味ではなく、これらが「逃げ」「穴埋め」のツールとして使われているケースがあるということです。
そこそこ恵まれているはずなのに不満と不安ばかり。いろいろやっているのに大切なことができていない感覚がある。好きなことがわからない。
こういった状態ではやはりあまり楽しくないので、また暇つぶし的に娯楽や快楽に時間を費やしてしまい(これが加速化すると前述の「アフルエンザ」に至ります)、問題は永遠に先送りという負のスパイラルが続きます。
では、いったいどうしたらいいのでしょう?
ミニマリズム・ムーブメントを10年にわたって観察してきて思うのは、「今すぐ全部わからなくてもいい」ということ。
大切なこと、やりたいことがはじめからハッキリ分かっている人たちはごく少数派。
モノと「やることリスト」の山に埋もれそうになっている人たちがミニマリズムと出会い、不必要なモノと決別していく過程で突然ココロの見晴らしまで良くなったようにそれがクリアになってくるパターンの方が多数派。
また、空いたスペースに飛び込んでくるような形で「やりたい」や「好き」に出会うケースも多い印象です。
物理的なモノを動かすことで人生まで動いてしまう。とても面白いなと思います。
それは、たぶん、こういうこと。
○モノの方が目に見える分、時間や心、対人関係などを整理するよりも手が付けやすい。
○モノを練習台に取捨選択を重ねるうちに自分にとっての「イエス」と「ノー」を見極める感覚が磨かれ、ほかの面でどうしたいのかがクリアになる。
○モノへの執着が減少し、時間や経済的・ココロの余裕ができる。(モノからの精神的な卒業)。
○何かを「やろう」とひらめいたら、その時間や費用を投入することができる。(「モノ」から「行動・経験」へのシフト)
○たくさんのことに「ノー」を言った分、自分にとっての「イエス」は大切にするようになる。
ライフスタイルにおけるミニマリズムで「処分する(※)」「捨てる」という行為が注目されているのには、こういった理由もあるのです。
<おまけ>
※頭の体操としてミニマリスト・コミュニティで紹介されている「モノと体験」についての簡単なエクササイズを紹介します。10分時間があったら、試しにやってみてくださいね。
いや…せっかくですから、ぜひ「時間を作って」やってみてください!
<やりかた>
- 紙を用意し、左半分に過去5〜10年に購入した高価な物のリストを10個書き出す。
- 右半分にそして同じ期間にあった素晴らしい出来事や幸せな瞬間を10個あげてみる。
- 2つのリストがどれぐらい関連しているかを比べてみる。
さて、どんな結果になったでしょうか?あなたにとってのモノと幸せの関わりがきっと見えてくるはずです。
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※「処分する」…単にゴミにして捨ててしまうという意味ではなく、欲しい人や必要な人にあげる、寄付する、リサイクルする、売る、といった行為を指しています。念のため♪