地球のてっぺんにある小さな町で

0


デンマークは6月の最後の金曜日から夏休みを取る人が多いらしく、

「7月の最初の週はホリデーに行くことにしたよ!」という、急な夫の提案に
「そうなの?どこへ行くの?海に行きたいな~」
「うん、海にした、島へ行く」
「おお!嬉しい、前に行ったポルトガル領のマデイラ島とかいいね?
もしかしたら、行きたかったカナリア諸島とか?はたまたギリシャの島???」
「そうじゃないよ、北極の近く」
「…」

というわけで、やっぱり、行き先はヤシの木のある南国の島ではなく
ヤシの木どころか、木が多分一本もない、冬の世界へ行くことになりました。

夜7時過ぎの便で、コペンハーゲンからオスロへ向かい、
オスロの空港ホテルにて一泊。
そういえば、オスロ空港の美しさには感動させられ、
思わず写真をパチパチ撮ってしまいました。
ショップでかわいいラベルのビールが目についたので、それを2本買い込み
ホテルについて、12時まで明るい西の空を眺めながらビールで
乾杯した後と、明日は早い出発だから、と即就寝。

翌日約3時間の飛行後に着いた場所が Svalbard諸島、
ノルウェーのずっと北にある島です。

片側に山が迫り、片側は海という場所にある短い滑走路に降りた飛行機は
強烈な急ブレーキをかけて止まりました。
空港からも見える町へバスで行くのですが
バスは、乗客が泊まるホテルへ順々に立ち寄ります。

町の名前はLongyearbyen、世界最北にあるかつては炭鉱の町として栄えたそうです。
最後の炭鉱はまだ稼働していますが、今の主なる産業は観光だということです。
しかし一見してさびれた、寂しい町並がバスから見えてきました。
遠くからやっとの思いでたどり着いた観光客が訪れても、
楽しい散歩道のようなものは見えません。

カラフルな家が並んでいるのが、山のふもと、少し離れたところに見えるのですが、
その他に建ち並ぶ建物の印象はあまり面白みのない安易で簡素な安普請的な建物です。
素敵な町並みははありません。

川に沿って設置してあるむき出しのパイプも目につき、
それが町の景観を悪くしていました。
一軒づつ回るホテルも、特に素敵な建物はなく…

やっと辿り着いた目的地です、これから数日間滞在する旅先の町やホテルを見て、
普通感じる、あのウキウキするような、心が踊る感覚からはずいぶん遠く、
私は心の中で「あら、まあ…」と呟いてしまいました。

冬になれば、建物にもパイプにも雪がかぶってしまい、
白銀の世界、パーフェクトな美の世界になってしまうのだから、
短い夏の風景に氣を使うこともないのでしょう。
それに、建築用の材料や機材を運び込むことも、難しいのかもしれません。
そんなことを、バスに乗りながら思い巡らしているうちに
私たちのホテルに着きました。

やっぱりここも同じ、外から見て「まあ、いい感じ!」
と思うようなホテルではありませんでした。
「でも、まあ、しょうがない、ここは何と言っても北極圏だもの…」
と、自分の心に言い聞かせながら、建物に入りました。

入ったところには、ただストールやベンチシートがいくつか置いてあるだけで
フロントは、どうやら2階にある、と氣付いた私達は、
エレベーターで2階に上がろうとしました。

すると、エレベーターの右側に、あら!びっくりです!
なんと、下駄箱部屋があったのです!
日本でもスキー場へ直接行くことが出来るホテルにある、
スキー、スノーボード、ブーツなどを置く、そんな部屋です。
覗くと、一つづつの箱にゲストの靴(大体がウォーキングブーツ)が入ってました。
日本人と日本に慣れている夫である私達ですので、
当たり前のように、ウォーキングブーツを脱いで空いている所へ靴を入れてから
エレベーターでフロントへ上がりました。

エレベーターが開いで、一歩部屋の中に踏み入れた途端、
「うわ~!」speechless、言葉が出ない…

と、いうのはこういうことなのでしょう。
ホテルに入ってこんなに驚いたことは、ありません。

北極圏の大自然の中にある、世界から取り残されてしまったような
寂しげな元炭鉱の町、ヘンテコな建物、
そして一階の妙な下駄箱室から靴を脱いで上がって来ると
最後、この世界です。

このギャップ!

これはまるで、北極圏のとある町を舞台にして創られている、
巨大なインスタレーションの中に入り込んだような、驚きの体験でした。

エレベーターの目の前には、
大きくないけれど、なかなか楽しげなバーに続いている小さなフロントデスクと、
右側には小さなショップコーナー、そして反対側に暖炉とソファー、
奥にはレストランと、図書室、ダイニングルーム、もう一つある暖炉のラウンジ…。

そこに広がっていた世界は、ノルディックデザインで美しく仕上がっている、
とても落ち着く素晴らしく素敵な空間でした。
私たちの部屋も同じ、ドアを開けたら「うわ~素敵!素敵!」の連発です。
部屋はそれほど大きくはないのですが、上手にレイアウトがされ、
細部までこだわりを感じました。

例えば、私がとても感激した一つは、アメニティーボックスです。
素材、色、フォント、本当に細かい部分ですが、全てが調和していて、
この地の果てで、どうしてこんなに素敵な空間ができたのだろう、
と本当にため息が出てしまう、ホテル全体がマジカルな内装だったのです。

私を驚かすために、わざとしているんじゃないの?と感じさせる
この外側とのギャップの高さ!コントラストの強さ!
言葉では、うまく書けないけれど、まるでアミューズメントパークで
体験するような楽しい驚きと、美術館で受けるような感動、
そんな思いで、感謝感激。

初めに言ってしまうと、
遭遇を期待していたシロクマには結局出会うことがなかったのですが
この旅での、この面白すぎる初日の数時間の予想外の体験(出会い)をしただけでも、
90%、イヤ98%、満足度の高い旅行である!と私は言い切れるほどでした。

Nordic Design、センスの高さに改めて、脱帽です。

この世界のてっぺんにある小さなヘンテコな町には、
私たちが滞在した素敵なホテル以外にも、面白いホテルがありました。
そこは、元炭鉱で働く人々が暮らしていた粗末な家を改造して、
女性のオーナーが丁寧に一つずつ造り上げた、
とてもユニークでアーティスティックでヒッピーな雰囲気のホテルです。
今回のカフェはこのホテルのウィンターガーデンにあります。
嬉しいことに、この北極圏にあって、温室のようなウィンターガーデンは、緑であふれていました。
私たちが訪れた時は、夏だったので、全く暗くならない白夜の時期でしたが、
冬に来れば、オーロラを眺めることができるはずです。
床暖房で温かくて緑がいっぱいのウィンターガーデンから、
美味しいカクテルを飲みながら、オーロラを眺める…。

想像しただけでも、嬉しくて踊り出してしまいそうです!

外見からの予想をはるかに超えたスーパークールでシックなホテルに泊まったり、
オリジナリティー溢れるレストランで食事をしたり、ボートに乗って大冒険したり、
と数日間の滞在は、強烈な印象として、私の心に残りました。

世界の果て、地球のてっぺんに、こんな町があったなんて!

私は、【デザインの力こそ世界を変える】と、信じているのですが、
地球のてっぺんにある僻地で、そのことが証明されていた、
そんなことも発見した面白い旅でした。

さて、せっかく大自然の中に入ったのに、
今回のストーリーは、ホテルやカフェのことだけになってしまったので、
今回に引き続き、もう一度北極圏のカフェを次回にも書こうと思っています。

次回は、大自然の中で見つけた世界一素晴らしいカフェ!
と言えそうなカフェについて。
ウッフッフ、どうぞ楽しみにしてお待ちください。

【きょうのヒント】
それでは、また次回まで!素敵な夏をお過ごしください。
今回のヒントは、もう上に書いた通りです!

追伸)地球のてっぺんで出会った外側はヘンテコだけど、
中に入ると別世界、というホテルでのお食事も素晴らしく美味しいものでした。
前菜に私が食べたのは、ノルウェー風のサーモンのお刺身、
夫は和牛のたたき、そしてメインに蟹料理。
レストランの雰囲気も、味もプレゼンテーションの美しさも、
それはそれは、忘れる事の出来ない素晴らしいひとときでした。

【前回のこたえ】
Arken
Skovvej 100
2635 Ishøj
info@arken.dk

Share.

About Author

アバター画像

東京生まれ、ロンドン在住の絵本作家。高校卒業してすぐに渡米。その後、パリ、南仏に暮らし、ロンドンへ。ロンドンでセシルコリン氏に師事、絵や陶芸などを学ぶ。1984年からイギリス人の夫と2人の子供と暮らしながら東京で20年以上イラストレーターとして活躍、その間、「レイジーメイドの不思議な世界」(中経出版)の他、「ある日」「ダダ」「パパのたんじょうび」(架空社)といった絵本を出版。再渡英後はエジンバラに在住後、ロンドンへ。本の表紙、ジャムのラベル、広告、お店の看板絵なども手がけている。現在はロンドンのアトリエに籠って静かに絵を描いたりお話を創る毎日。生み出した代表的なキャラに、レイジーメード、ダイルクロコダイル氏などがいる。あぶそる〜とロンドンにはロンドンのカフェ・イラスト・シリーズを連載。好きなものはお茶、散歩、空想、友達とのお喋り、読書、ワイン、料理、インテリア、自転車、スコーン、海・樹を見ること、旅行、石(特にハート型)、飛行場etc etc...

ウェブサイト ブログ

Leave A Reply

CAPTCHA