この連載では、家を単なる箱ではなく「自分や家族の個性を現す自分の延長」または「自分の分身」と考えるイギリス人にならって、本当に自分にとって居心地のいい空間はどうやったらつくれるのか? その手法やプロセスも公開していきます。 前回までは素敵な空間を実現しているクリエイターの家を見て頂きましたが、今回からはいよいよその手法に入ります。
日本では「デザイン」と言うと、「直感」や「フィーリング」、「センス」という言葉と結ぶ付ける人が多いのですが、建築空間のデザインは直感やフィーリングではできません。 経験や歴史から築き上げられた確固たるプロセスに沿って行われるものです。
イギリスではRIBA(Royal Institute of British Architects、王立英国建築家協会)という職能団体が建築教育システムを管理・監督しており、建築プロジェクトの業務プロセス(Work of Plan)も定めています。 インテリアデザイナーは 建築プロジェクト専門職の一員であり、インテリアデザイナーの職能団体BIID(British Institute of Interior Design)はこのRIBAのプロセスに大まかに沿った業務プロセスを定めています。 私もBIIDの一員なので、今回ご紹介するのはイギリスの建築業界で幅広く認識され使用されているプロセスです。 「自分でやってみたい!」という方にも十分に参考になる内容だと思いますので少し専門的になりますが、お付き合いください。
最近、ご依頼頂いたクライアントの中で「Yokoにコンタクトをしたのはプロジェクトに対する取り組み・プロセスがしっかりしているから」と初回のミーティングでおっしゃってくださった方がいました。 自分ではできない建築空間を実現するために依頼をしたいと言うのはみなさんおっしゃることですが、限られた予算と時間の中で最適な解を選び取る、工事に入る前にリスクを吟味し細部までデザインすることにより予期せぬアクシデントが起こる可能性を最小化する、投資効果を最大化する、など、「違う条件下で成功の再現性を高める」ためにはしっかりしたプロセスが必要です。 「柔道における型」とも言えるでしょうか。
以下がイギリスで汎用的に使われているRIBA Plan of Work 2013です。
私が普段使用している業務プロセスは以下のステージからなります。 6.と7.は、建築家と異なり内装材や備品の調達も行うインテリアデザイナーならではの業務、備品などの調達が入るのでRIBA Work of Planからは少し改変しています。
0. 戦略の定義
1. 準備・デザインブリーフ
2. コンセプトデザイン
3. デザイン・ディベロップメント
4. テクニカルデザイン
5. 建築工事
6. FF&E(Furniture, Furnishings & Equipment)調達
7. 引き渡し
それでは、順にステージをご紹介します。
0. 戦略の定義
クライアントとの契約前に、プロジェクトのゴールと戦略を決める重要なミーティングです。 何を目的にどんな予算・期間でどのような工事をしたいかヒアリングをします。 イギリスでは一生に何度か持ち家を変える人が多く要望はそれぞれです。 家族が増える将来に備えたい方もいれば子どもが独立するので家の一部を貸せるように二世帯用にしたい方もいます。 ボロボロの古い家を割安で買って全面改修して長く住みたい方もいれば、内装だけ綺麗にして賃貸に出す大家さんもいます。 全く初めてでどんな工事ができるのか分からないという方もいれば、居住用不動産投資を専門としていて内装デザインにプロの力を借りたい方もいます。
プロジェクト実現に考慮すべきことなどさまざまなアドバイスも行います。 この時点でプロジェクトの大枠が決まっており予算と期間が現実的なクライアントであればサービス提案書をつくり提出します。 プロジェクトの概要が決まっていないクライアントには、いくつかのオプションをつくりそれぞれの案件の実現可能生を探るフィージビリティスタディをご提案します。
建築プロジェクトは関わるプロとクライアントのコラボレーションなので、ゴールやこだわりの点は明確に、そこまでの道筋や方法論はプロの豊富な知識を借りて柔軟性を持たせることが成功の秘訣です。 次回からは、契約以降のプロセスをご紹介します。