舞台『ハイゼンベルク』レビュー:この先二人がどうなっていくかなんてわからない。

0


東京・中野に4つの小劇場が隣り合う劇場街、ポケットスクエアがあります。その中でも中心となる劇場ザ・ポケット(約180席)で「HEISENBERG ハイゼンベルク」が8月14日(日)まで上演中です。

舞台はロンドン! ご縁あって、足を運んでまいりました。

1998年5月にオープン。使い勝手のよい舞台スペースで、オープン以来様々な劇団によって利用されている。

脚本は、トニー賞を含む多数の賞を受賞している英国の劇作家サイモン・スティーヴンス。今回はオフ・ブロードウェイのヒット作品が日本初上演となりました。

共通点のほとんどない二人が、偶然の出会いから会話を交わしていく二人芝居です。そして「HEISENBERG ハイゼンベルク」というタイトル通り、ドイツの理論物理学者ヴェルナー・ハイゼンベルクが発見した「不確定性原理」を、男女の関係性に置き換えて語るという趣向。

「二つの離れた粒子の運動量や相関関係を正確に測り決定することはできない」に行き着く “恋物語” です。とても難しいストーリーを想像してしまいがちですが・・・実際はコメディタッチで、ストレートに胸に飛び込んでくる内容でした!

多くの人々が行き交うユーロスター発着ターミナルである、ロンドンのセント・パンクラス駅から始まります。

肉屋の店主75歳のアレックス(平田 満)の首の後ろに、突然キスをする女性ジョージー42歳(小島 聖)。ニュージャージー州出身の彼女はお喋りで風変わりで言葉が乱暴。彼女がキスという突飛な行動を謝罪するのに対し、アレックスは「気にしてないから」と答える。それでもなお自分の住処や職業、恋愛遍歴までもまくし立てるように語り出すジョージーに、アレックスは慎重に相槌を打ちながら耳を傾けている。

「あなたといるのが楽しいから」という彼女の台詞で、最初の一場面が終了します。

舞台は二人が出会ってから六週間の話を、六つの場面に区切って進行。

各場面の舞台セット、二人の衣装は私達観客の目の前の舞台上に置かれています。場面ごとに主役の二人がセットを移動し、衣装替えは舞台上で行われるのです。舞台の端と端で衣装替えを済ませる光景を、作品と同じように私達は見守ります。衣装替えを終えるとジョージーとアレックスはお互い顔を見合わせ大きく頷く。さぁ、次の場面が始まるぞ!と、私達も身構えるのです。

鐘の音と共に始まる二場面。
「あなたといるのが楽しいから」と言い放ったジョージーは、アレックスに会いたくて肉屋を訪れました。彼は驚き「ここで何してんだ?」と聞き返します。相変わらずジョージーの言葉は乱暴で衝動的。何かを探り出すかのようにアレックスに話しかけ、彼は初めて出会った日のように慎重に返答する。二人の会話はどこか噛み合っていないような気がするのだが、それは観客の視点。

私がジョージーだったら、彼女と同じように私も自分の勘で動くだろう。もし私がアレックスだったら、真っ直ぐに見つめてくるジョージーの瞳を、反らさずに受け止めたいと思うのかもしれない。決して互いに振り回しているという観念は無く、二人の関係性を確認するのは言葉でもあるが、言葉ではなく、一緒にいる、という濃密な関係性の中にあることなのかもしれないと感じました。

その後の場面で二人は一夜を共にする。

最後の六場面は、最初のほうの二人の印象が全く違うように思えました。

頑固でシャイだったアレックスは、笑顔が多く明るくお喋りで新しいものへの喜びに満ちた人に。かつては歳をとる儚さを感じつつ、何をすればいいのかかを考えていた男性です。他の人間とのふれあいにがっかりさせられ続けた人生は、ジョージーとの関係性の中で「思いがけない幸せがオレたちの日常になるんじゃないか」と思えるまでになっている。言葉の乱暴なジョージーは、自分を作りなおすことなくアレックスと一緒にいることに落ち着きを感じ、それが私にぴったりだと確信している。

この先二人がどうなっていくかなんて確かなことはわからない。わからないまま、自分の言うことを聞いてくれる相手がいるということだけが確かなような気がしたのです。

「あと何回、誰かの手を握ることができる?」とアレックスへ問いかけるジョージー。その言葉に、心底ドキドキした私。もう一度その言葉を聞いてみたくて、いや、もう一度ドキドキしてみたくて、オンラインで配信視聴券を購入して自宅でライブ鑑賞を楽しみました。

残念ながらキャストA(りょう・上條恒彦)の公演は中止。

小劇場ならではの近い距離で、演者の方の汗やエネルギーを感じたこと。配信視聴券で自宅で制限時間いっぱい楽しめたこと。素敵でした。

「HEISENBERG ハイゼンベルク」は8月14日(日)まで中野ザ・ポケットで上演中です。ご自身に合ったスタイルでどうぞお楽しみください♪

 

公演パンフレット¥2000(税込):今回中止になった、小山ゆうなさん(演出)と、キャストAの皆さんによる不確定性に関する思いも詰まっています♪

劇場パンフレットにあぶそる〜とロンドン編集長 江國まゆさんエッセイ「ロンドン:運命が交差する場所」と「アレックスのロンドン散策マップ」が収められています。このエッセイを読んでお芝居を観るとジョージーとアレックスの背景がさらに掴めて楽しみ倍増!パンフレットのみのオンライン購入も可能です♪

 

 

※※※※※※※※※※
【HEISENBERG ハイゼンベルク】
日程:2022年7月29日(金)〜8月14日(日)
会場:中野ザ・ポケット 東京都中野区中の3-22-8 / 03-3381-8422
◉当日券は開演1時間前から発売
◉公式サイト・公演チケット・配信実施公演・パンフレットはこちらから
◉公演一部中止のお知らせ
出演者体調不良の為、Aキャスト(りょう、上條常彦/演出:小山ゆうな)は全公演中止となりました。

【配信チケット販売:conSept movie】
https://consept-movie.myshopify.com/

Bキャスト
小島聖(ジョージー)
平田満 (アレックス)

翻訳:小田島創志
演出:古川貴義(箱庭円舞曲)

conSept】企画・製作・主催
公式サイト「Simple, Small but Special」をテーマに舞台公演及び映像作品を企画・製作をするプロダクション

 

Share.

About Author

アバター画像

兵庫県伊丹市出身。東京都在住。主婦時々パートタイムジョブをこなす。子育て期をニューヨーク、ロンドンにて駐在生活を送る。思いつきのその日決めで行動する一匹オオカミ派。『成るように成る』をモットーに今世を生きる。水泳・ジョギング・登山・ウクレレ・映画・ライヴ鑑賞・奉仕活動と未知なる自分を今後も探求し続ける。Instagram: @n_amihey

Leave A Reply

CAPTCHA