D’Angelo、再降臨。

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20代の頃、発売とほぼ同時に聴いた『Brown Sugar』は衝撃的だった。若干21歳のD’Angelo が創り出したクールでアーバンなサウンドはヒップホップ感覚がほどよくクラシックなソウル・ミュージックと溶け合い、ハートも身体もトロトロにする魔力と何度も繰り返し聞きたくなる強い中毒性があった。今やネオ・ソウルの金字塔となっているそれは、当時まさに音楽業界の「事件」だったのだ。

それから5年後の2000年に発表された待望の2ndアルバム『Voodoo』はグラミー賞の最優秀R&Bアルバム賞を受賞、名実ともにネオ・ソウルの伝説として認識されたディアンジェロだが、この人、根っからのやんちゃボーイw 暴れん坊ぶりが過ぎての警察沙汰など土俵外での話題にも事欠かず、活発に音楽活動はしているものの新アルバムに関しては「出す出す詐欺」を繰り返した挙げ句w 2014年末、突如14年ぶりとなる新アルバム『Black Messiah』を発表。師走の音楽業界に激震が走り、息をもつかせぬ勢いでiTunes即1位を獲得した。

業界最高峰ミュージシャンたちとのアナログ録音にこだわったこのアルバムは、2015年2月の時点ですでにここ十年間の最高傑作との評価を受けている。個人的にはI will never betray my heartと繰り返す「Betray My Heart」、レイドバック感がいい「Back to the Future」あたりが好み。歌詞は下半身偏重の粘っこさが薄れた代わりにw 人間の本質にフォーカスした古典テーマへと移行。もう少し聞き込まないと、だけど ^^

そして2015年20日・21日、 2012年のBrixton Academy以来となるロンドン公演が、ハマースミスEventim Apolloで行われた。

開演前の熱狂も心地よい♪

開演前の熱狂も心地よい♪

ますます肉体派になっていたD様w

ますます肉体派になっていたD様w

気づいたときにはすでに完売に近づいていたのだが、滑り込みでプレミアム・チケットをゲット。初の生D様♪   四十路も越え、汗止めのバンダナが大工さんのねじり鉢巻に見えてしまったのは致し方ないにしてもw 伝説のネオ・ソウルは文句なく素晴らしかった。この夜は大出血サービスで、ディアンジェロ様が観客席に降臨し、ファンにもみくちゃにされるという一幕も(笑)。

自ら客席へと飛び降り、ファン・サービスするD様

自ら客席へと飛び降り、ファン・サービスするD様

ハイライトは何箇所かあったが、私的には初めての生Brown Sugar、そして2度目のアンコールで演奏してくれた『ブラック・メサイア』からの「Back to the Future」だろうか。ネオ・ソウル・メサイアの久々のアルバムを祝って客席はほとんどお祭り騒ぎ。天才の名をほしいままにする彼だけど、そのサウンドは尋常ではない細部へのこわだわり、完璧主義から生み出される努力の賜物でもある。

最高のプロダクションでした☆

最高のプロダクションでした☆

この人の最大の持ち味は、もったりとした独特のリズム感と、完璧な「間」の取り方だと思う。ラップ、ヒップホップ、ファンクといった様々なエレメントはあるが、私が惹かれているのはおそらくメンフィス・ソウルの中でもブッカー・Tなどに辿ることができる軽妙なリズム感なのだと思う。D様の後に出てきたネオ・ソウル・フォロワーたちとは大きく一線を画するスペシャルな存在なのだ。

彼がジャズ・アルバムをつくったら、きっとすごいのができるんだろうな。ムフフ ^^ と夢想してみる。それはヒップホップとジャズの境界線上、いや、あらゆるジャンルを超えた、スリリングなD様サウンドになるに違いないのだから。

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さて、久々編集長ブログなので、いくつかレビューを。

SING-ALONG-FROZEN

今月18日にはトッテナム・コート・ロードにあるDominion Theatreで、世界で話題をさらっている『Frozen』(アナと雪の女王)を元にした参加型上映『Sing-along Frozen』が開幕、興行に関係している友人の招待で初めてこの話題作を観る機会に恵まれた。

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ほとんど前知識なしで観たのだが、シンプルなメッセージがダイレクトに届く万人受けするテーマはさすがディズニー。『サウンド・オブ・ミュージック』や『ロッキー・ホラー・ショー』を持ち出すまでもなく、こういった参加型の映画鑑賞は手放しに楽しいものだ。

テーマは「愛と怖れ」→「愛の勝利」なのだが、氷や雪を自在に創り操れる“スペック”を持った女王様が、いかに自分の能力をコントロールするかを描いた作品でもあり、それを可能にするエレメントが「愛」というわけ。Xメンにおける「ミュータントvs一般人」、ハリーポッター・シリーズにおける「魔法使いvsマグル」、SPECにおける「スペック・ホルダーvs一般人」という構図と同じテーマが描かれているのも興味深いと思った。

自分とは違う異質な者に対する怖れ、怖れの対象にされた者の怖れ、互いの怖れに基づいた誤解を映す争い。その怖れをミラクルのように溶かし、すべてを統合するために必要なエレメントはやはり、「愛」なんだよなぁ。

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(C)TSUBOQ

(C)TSUBOQ

MR POTSUNEN’S PECULIAR SLICE OF LIFE

あぶそる〜とイベント欄でも紹介させていただいた小林賢太郎さんの「ポツネン氏の奇妙で平凡な日々」ロンドン公演がLeicester Square Theatreで2月3日、4日の日程で行われ、鑑賞させていただいた。

パシリと膝を打つ面白さだった。

驚異的なのは、企画、筋書き、アート、演出、サウンド、出演、全てを小林さんが一人で担当されていること。漫画家としてのすぐれた才能、超日常と日常の落差を突く笑いのセンス、ナンセンス感を際立たせた演出、目くらまし的要素。これらのうち、どれが欠けても成立しえないのが、ポツネン・ワールドである。それらを見事ににまとめているのが、小林さんのおっとりとした超絶パフォーマンスなのだ。

ほんの好奇心からペットにしてしまった不思議な虫がどん欲に食って飲んで巨大化していくのだが、意外と常識的な思考を持つ虫に対してw、ポツネン氏はかなりアヴァンギャルドな思考法でもって調教していく。かすかながら温かい交流が生まれた頃、ある日、ペットの虫は部屋からこつ然といなくなってしまう。ペット探しに出かけたポツネン氏はエッシャーばりの絵画的迷宮の中に入り込み……。

いやはや言葉で説明するのは野暮なので、ここはぜひ作品を鑑賞して荒唐無稽感覚を共有していただきたい。

個人的なお気に入りは通販購入品の組み立て過程で使われた漫画的な手法。そして黒子の役割。黒子って海外の舞台芸術にはないコンセプトなので、非日本人の観客はその存在そのものが不思議だったのではないだろうか。そしてこの黒子の存在によって、作品は一気にメタ的な構造を呈してくる。

ストーリーが進むにつれ、観る者はポツネン氏の日常が奇妙でこそあれ、全くもって平凡ではないことに気づかされるわけだが、これって実は人間の心象風景としてはありがちなのかもしれないと思ったり。二次元と三次元が入り乱れるポツネン・ワールドがタイムレス&ボーダーレスなのは言わずもがな。国籍性別年齢を問わず、ロンドンの観客たちは間違いなくポツネン氏の奇妙な日常に引き込まれていたと思う。

次回のロンドン公演が今から待ち遠しい。

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DAPHNE’S

あぶそる〜と「ロンドン・ダイニング」欄で紹介することを念頭に、機会を見てはせっせとレストラン通いをしているが、行ったレストラン全てを紹介できるわけではないことが本当に辛い(笑)。そのグチを編集長ブログで書かせていただくのが定番となりつつあるが、先日試したチェルシーのDaphne’sも、残念だったレストランの一つだ。

イタリアン・レストランDaphne’sは、UKだけでなく中東や中米でも展開しているCapriceグループによるレストランの一つであり、私は彼らのプロフェッショナルなマネージメントやツボを抑えたインテリア、メニューに敬意を表している者の一人であるが、先日の訪問におけるDaphne’sは残念ながら当サイトでご紹介したいと思うレベルではなかった。

残念だったDaphne's

残念だったDaphne’s

平日ランチのセットメニューを頼んでみたのだが、前菜の一つだったアランチーニが、なんと味なしw 塩気もなければスパイスの香りもしない(かろうじてサフランによる色づけと若干の風味があったくらい)。アランチーニってふつう、モッツァレラとかパルメザンとかが入っていて失敗しないイタリアン・メニューの代表みたいに思っていたのだけど、こんなパサパサのアランチーニは初めてw シェフはチーズを入れ忘れたのであろうか? それとも超ヘルシー・アランチーニを目指していたのであろうか? よしんば後者であったにしても、ソルト&ペッパーは最低限入れて、何かで味付けしようよw

今ひとつの前菜であったサラダはふつうに美味しかったが、友人ともども同じもののオーダーとなったメイン・コース、スズキのソテー。ソースの味はまぁいい。皮の焼き具合がパリっと感は皆無でシナシナ、しかもとてもオイリーだったことは百歩譲ってよしとしよう。

いちばんイケなかったのは、魚の下処理をちゃんとしてなかったこと。写真のようにフィレ状態になっているにもかかわらず、サイドの骨の一部が取り除かれていなかったうえに、他の箇所にも細かい骨が残っていた。平日昼のセットメニューは彼らにしてみれば確かに大放出もってけサービスなのかもしれないが、こういったところで手を抜くシェフがいるレストランって、なんだか信用できない。ディナーのアラカルト料理は美味しい可能性はあるが、それを試すために足が向かないのも確か。とうわけでDaphne’s、残念ながら編集長ブログゆきとなったw

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SHIROSABI AND MACHAN BY YASUSUKE OTA

最後に一つ、2月20日に発売された写真集の紹介を。

しろさびとまっちゃん:福島の保護猫と松村さんの、いいやんべぇな日々』(メディアファクトリー)
写真:太田康介

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福島の原発20キロ圏内で生きる猫たちの救出給餌活動を原発事故直後からずっと続けている友人のカメラマン、太田康介さんが、旧警戒区域にとどまり動物の世話を続ける松村直登さんと、松村さんが保護している姉妹猫2匹、しろ と さびの交流をカメラに捉えた、なつかしく、ほんわかした気持ちになれる写真集♪

保健所に連れて行かれる直前にしろとさびを引き取った松村直登さんは、元家畜であった牛やダチョウ、犬や猫などの保護活動を故郷の富岡町で続けている方。動物たちへ限りなく優しい目を向ける氏は、NPO法人「がんばる福島」代表という活動家としての顔も持っておられる。松村さんが一人で福島にとどまり続けているのは、原子力行政の横暴に対するレジスタンスの意味があるのだ。

生まれてから一度も故郷を離れたことがない松村さんが、2014年3月には欧州を訪れ、フランスであった反原発デモ「人間の鎖」に参加、さらにパリでは環境保護団体が主催する討論会にも参加し、「原発は現在の科学技術では制御できない。世界中の原発を止めよう」と被爆の実態を訴えるなど、 福島県浪江町「希望の牧場・ふくしま」の吉沢正己さんとともに反原発のシンボル的な存在になっている。

そんな中、太田さんが捉えたしろさびを可愛がる松村さんの視線はとてもおだやか。福島原発事故から3月11日で4年。松村さんも、太田さんも、活動し続けている。

ニャン固として行動するカメラマン
太田康介の福島での活動が分かる猫愛ブログ『うちのとらまる』はこちら

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というわけで盛りだくさんでお届けした編集長ブログ、次回はいつの更新となるのかっ・・・!? (←こまめに更新しようよw)

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岡山県倉敷市出身。ロンドンを拠点に活動するライター、編集者。東京の文芸系出版社勤務、雑誌編集・ライターを経て、1998年渡英。英系制作会社にて数多くの日本語プロジェクトに関わった後、2009年からフリーランス。2014年にイギリス情報ウェブマガジン「あぶそる~とロンドン」を創設。食をはじめ英国の文化について各種媒体に寄稿中。著書に『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房) 『ロンドンでしたい100のこと』『イギリスの飾らないのに豊かな暮らし 365日』『コッツウォルズ』(自由国民社)。カルチャー講座の講師、ラジオ・テレビ出演なども。英国の外食文化について造詣が深く、企業アドバイザーも請け負う。チャネリングをベースとしたヒーラー「エウリーナ」としても活動中(保江邦夫氏との共著『シリウス宇宙連合アシュター司令官 vs.保江邦夫緊急指令対談』もある)。Instagram: @ekumayu

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