メラーティの死に想う

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しばらく日本に帰国していたのでありますが、わたくしの姿を窓越しに見た途端にお隣の猫が「ちょうだ~い」と屋根に飛びのってまいりました。お隣の奥さんは猫を4匹飼っているのですが、どの猫も感心するほど良い子ちゃん達なのであります。

下の部屋に住む、人間にはちょっといかめしいおじいさんはこの猫達が大好きで、自分の部屋の窓から時々猫をこっそり入れて可愛がっているようです。ところがわたくしの部屋の窓は、猫すら飛び乗れないほどに一階の屋根から高さがございます。いけないことだと罪悪の気持ちを感じつつも、お隣の奥さんがいないことを確認して、時折猫用のビスケットを投げてあげるのです。猫はどうやら記憶力がいいらしいと以前に書いたことがあるのですが、ほぼ4週間ぶりにちらりとわたくしの姿をみただけで屋根に飛び乗ってくるのであります。

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さて、悲しい出来事なのですが、2月の初旬にロンドン動物園のスマトランタイガー、雌10才のメラーティが亡くなってしまいました。

メラーティはロンドン動物園で3回子虎をもうけました。あいにく最初の子虎の1匹はプールに落ちて亡くなってしまったのですが、のちに3匹、数年後にはまた2匹の子虎を出産し、パートナーのジェイジェイとはとても仲の良いカップルだったのです。スマトランタイガーはインドネシアのスマトラ島に住む虎で、野生は300頭ほどしかいない絶滅危惧種です。世界中の動物園で遺伝的に多様性のある種を確保するための努力が試みられています。そのため、ジェイジェイはフランスの動物園に行くことになり、新たに7才のアシムという雄虎がデンマークからやってきました。

相性を見るため2頭は別々に暮らしていたのですが、どうやらお互いに興味を示しあっているようなので、一緒の空間に放されたのです。動物園の飼育係の人々は万が一のために、消化器、警報器、水ホース、照明、麻酔銃と細心の注意を払って待機していたにもかかわらず、メラーティがアシムに攻撃を仕掛けたのを始まりに、アシムはメラーティに致命傷を与え、メラーティが死亡してしまうことになったのです。わたくしはこの事件を聞いた時、「一緒にするのが早すぎたのではないかしら」「なぜ麻酔銃を使わなかったのかしら」と色々な思いが頭を駆け巡りました。

Animal Health Industryに20年以上勤務し、Royal Veterinary Collegeの看護師長を務め、2013からロンドン動物園でチーフオペレーティングオフィサーを務めているKathryn England。彼女は悲しい結末を迎えた日までの詳細を記した手紙を動物園の職員にしたためました。この手紙には次のような記述が見られました。「一緒にするのが早すぎたと言う人もいますが、虎は隔離している時間が長すぎると逆に敵対心を煽ることになってしまうのだそうです。2頭のお互いへの興味を示す態度、愛着を示す行動など注意深く観察し、飼育係が何度も話し合いをした上で、一緒の空間においてみようと決断されたことだったのです。そして麻酔銃については、たとえ着弾しても薬が効くのはおよそ30分、アドレナリンが放出して興奮状態にある場合はそれ以上かかるのです。」

Kathryn Englandの手紙(ロンドン動物園ブログ):
https://www.zsl.org/blogs/reflecting-on-a-difficult-day-–-the-events-at-tiger-territory

わたくしはこの事件を、ロンドンに戻る前日に動物園のボランティアの友人からのメールで知りました。ボランティアの何人かも私と同じような疑問を持ったようですが、Kathrynの手紙を読んで動物園の人たちは絶滅危惧種にあるスマトランタイガーの今後を熟考し、賢明な考慮の上メラーティとアシムを一緒の空間に放つ試みをしたのだ。そして何よりこのたびの事件を悲しんでいるのは動物園の方々に違いないと思ったのです。

タイガーテリトリーはわたくしが動物園のボランティアをしていた時に新しくオープンし、メラーティとジェイジェイはロンドン動物園でも特別の存在感がありました。お隣の猫にビスケットを投げてやりながら、それはそれは美しいメラーティの姿を思い出して、ちょっとだけ泣いてしまいました。

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上は友人のKev Mullinsが撮影したジェイジェイとメラーティの写真です。
Kevはアーティストで動物の絵をたくさん描いています。
https://kevmullins.wixsite.com/arts

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About Author

トキタアヤ

洋画とグラフィックデザインを専攻したのち、イラストの道へ。縁あってThe Timesの挿絵イラストを担当。同紙から数多くの依頼を受け、新聞のタイトル欄にエリザベス女王と並んでイラストが印刷される。児童福祉に関わる団体をはじめ、クライアント・ベースの仕事をするフリーランスのイラストレーター。足掛け4年、ロンドン動物園で週に一度制服を着てボランティア活動にいそしむ。

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