トマスの異変

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usagi


なんかトマスが変なのであります。

トマスは私の友達の素敵な雄猫で、同い年の黒猫ローラと、人には甘ったれだけどトマスとローラにはシャーッという威嚇の声しか出さない女親分のボビーと暮らしております。今この三匹の猫を泊まりがけでお世話しているのですが、なんかトマスが変なのであります。朝ごはんをあげても心ここに在らず。ドアに手を掛けて外に出たいと鳴くのですが、扉を開けても入り口に座ったまま出ようとしません。変なの、とその時はあまり気にもとめず、自分の朝ごはんを作ろうとキッチンに立っていたら、今度はダイニングの椅子にでろりと横たわっているのです。猫は元気な時も横たわりますが、ちょっとなんだか違うのです。でろりなんです。

でろりと横たわるトマスをあらためて見なおしましたら、左の太ももに10円ハゲのようなものが出来ているではありませんか。出血もしていないし傷も見当たらないのですが、丸く毛がすっぽり抜けているのです。喧嘩だったら血とか傷でもありそうなもんですが、きれいなピンク色の皮膚が丸く見えているのです。友人に電話で聞いてみたところ全く心当たりがないと。相変わらず朝ごはんにも全く手をつけようとしないので、試しにトマスが愛してやまないチーズの猫用スナックを鼻先に近づけて見たのですが、なんと顔を背けるではないですか!これは幽霊やUFOやツチノコが庭に出没したよりも一大事なのであります。友人も仰天してとにかく病院に連れて行ってくれと。

獣医さんに、トマスの食欲不振と脱力感そして太ももの不可解な脱毛のことをお話しして、トマスを検温してみたところちょっと熱があるとのこと。獣医さんもトマスの太ももの脱毛については、全くの無傷なので何が起こったのか全く予想がつかないとのことでした。血液検査と抗生物質の投与をしてとりあえずこの日の治療は終わりましたが、薬も出ずにこれだけでゆうに£230を超えました。保険をかけてあるからと聞いてはおりましたが、保険代だってばかになりません。こちらで猫を飼ったことがないのですが、私は昔グレイハウンドを飼っていたことがあって、年間にかかった治療費が£3000(当時は500,000円くらい)もしたのでびっくり仰天いたしました。でもそれは15年以上前のことですから、病院代も保険もさらに値上がりしていることでしょう。

今はイギリスはもちろんのこと、日本の皆さんはそれ以上に大切にペットのお世話をされています。日本に住む友人達の犬との暮らしの話や、特に年を取ったペットに施すきめ細やかな介護には胸が打たれます。なぜかと言うと、ものすごく古い話で恐縮ですが、実は私が子供の頃はご飯に鰹節をかけた「ネコまんま」や、やはりご飯にお味噌汁をかけて人間の食べ残したものを適当に放り込んだ「犬のエサ」はそれほど珍しくありませんでした。犬は一日中鎖に繋いで、夏も冬も外の犬小屋が寝床。今と比べると虐待に近いものがありました。そういえばこちらの猫は鰹節を食べません。見たことがないからだと思いますが、うさんくさげに匂いをふんふんと嗅いで口も付けずに立ち去ってしまいます。私が日本で猫を飼っていた時は、おやつにカニかまぼこや煮干し、時には大奮発してマグロの角切りをあげることもありました。サザエさんのテーマソングは「お魚咥えたドラ猫、追っかけて♪」から始まります。これは日本人が肉を一般のおかずとして食べ始めたのが、他の国と比べると大変遅いからだと思われますが、そういえばトマスの大好物のおやつもチーズ味ですものねぇ。今日の朝ご飯はラムでした、あ…、もちろん猫用のフードですよ。

病院で抗生物質を打たれたトマス。15日間効き目が持続するので飲み薬はいらないと獣医さんは言っていましたが、その日の夜はローラのご飯まで平らげるほどの効き目でした。このまま落ち着いてくれますように。

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洋画とグラフィックデザインを専攻したのち、イラストの道へ。縁あって英高級紙「The Times」の挿絵イラストを担当。同紙から数多くの依頼を受け、新聞のタイトル欄にエリザベス女王と並んでイラストが印刷される。児童福祉に関わる団体をはじめ、クライアント・ベースの仕事をするフリーランスのイラストレーター。4年に渡ってロンドン動物園で週に一度ボランティア活動にいそしんだ経験があり、動物イラストは本物からのインスピレーション。

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