なぜギターを弾いているのか

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いわゆるクラシックの音楽家や巨匠と言われる人々は2, 3歳、遅くても7, 8歳の頃には楽器を始めたりレッスンを受け始めますが(これは聴覚、神経節の発達がこの頃に終わる事と関係があり、例えば俗に言う絶対音感と言うものは一般的には8, 9歳までに音名を認識、記憶出来なかった場合に後から習得するのは困難、また、言語や発音に関してもこの時期までに聞かなかった音や発音は大人になっても聴き取れないと言われています)、僕が初めてギターをさわったのは15歳の時でした。
中学校の友人から中古のエレキ・ギターを売ってもらい、当時もう解散していた元BOØWYのギタリスト、布袋寅泰さんに憧れて音楽の知識や訓練は何も無いまま趣味で始めたのがきっかけでした。

京都の桂という小さな街で、エレキギターを習えるような場所はなく、友達や先輩に教えてもらったり、「バンドやろうぜ!(バンやろ)w」「YOUNG GUITAR (ヤンギ)w」と言った雑誌を見てずっと独学でギターを弾いていたのですが…。

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1993年頃に買ったヤングギター増刊号。ページが取れたり破れたりするほどよく見てましたw

大学受験時にはすでにギタリストになりたいという思いが強く、しかし音楽の知識が無くピアノや他の楽器は一切弾けない為、(当時)音楽理論と実技だけで推薦入試が受けられると言う大阪音楽大学に行きたいと親に伝えたところ…

 

 

 

予想通り…

 

 

 

大反対されましたw
それまでの人生で一番怒られましたw
怒りで人が涙を流しているのを初めて目の当たりにしました。(T-T)

が…結局は許してもらい、桂に唯一あった音楽教室にクラシック・ギターのレッスンを受けに行ったのが、人生初のギターレッスンとなりました。

新川先生と言う先生に受験用の3曲だけをレッスンしてもらい、買ってから1、2ヶ月、弦を一度も張り替えていないギターでは流石にベストを尽くせないと思い弦を見よう見まねで張り替えたのですが、どうやら張り方が間違っていたらしく、推薦入試当日、試験官さん達の前で弦を張り替えたばかりのギターをチューニングしようとすると…

クルッ、クルッ、クルッ (ペグを回す音)

びよ〜ん… (弦がゆるむ音)

クルッ、クルッ、クルッ

びよ〜ん…

クルッ、クルッ、クルッ びよ〜ん……

 

クルックルックルックルックルックルックルッ (ペグを必死で回している音)
バーーーン!!! (弦が外れた音)

(T-T)

と前代未聞の「曲を弾く前にすでに不合格」的なドラマチックな推薦入試を経験し、その後悔い改め猛勉強し(国語と英語、音楽理論を含む)、奇跡的に一般入試で合格しましたw
もちろん弦が切れたくだりは親には言っていませんw

入学後 初めてのレッスンの時に、この後ずっとお世話になる藤井敬吾先生にお会いしました。
推薦入試の時の哀れな様子をしっかりと覚えて頂いていた様で、何か苦笑いされてる感じがしましたw

ギターのレッスンの前に「作曲法」のレッスンがあったのですが、この時のこともはっきりと覚えています。

内容は、移調(旋律、和声、リズムは変えずに、全ての音を上げ/下げる事。楽器によっては使う弦や指使いが大幅に変わり、演奏の難易度や響きが変わります)、そしてそれに伴う編曲の方法や技術に関してだったのですが、藤井敬吾先生はI. Albeniz作曲の「アストゥリアス」と言う曲を使いデモンストレーションして下さり、なんと…

「これはオリジナルのピアノと同じト短調 (G minor)」

「これはギターでよく弾かれるホ短調 (E minor)」

「これはあまり弾かれないけど深みのある、膨よかな二短調 (D minor)」

と、3つの違う調 (key)、運指 (指使い [=fingering]、音色を使い分けて演奏して下さったのです。

僕はこの時、試験で弾いた練習曲3曲以外にクラシックギターの曲を一曲も知らず、「禁じられた遊び」を聴いたことはあるけど弾いたことはないと言うとんでもない状態で名曲「アストゥリアス」を3倍の濃度で聴かせてもらった(しかも名演奏家の生演奏で至近距離)わけで、その日の午後に先生のところへ「どうしても(学校でのレッスンの他に)個人レッスンをお願いしたい」と伝え、さらには先生と帰宅する駅が隣であることを知り、ストーカー状態で先生が帰る時間に自分も学校を出て、同じ電車の隣の席に座り、ずーっと音楽やギターの質問をしてました。:-)

そして、同時期に生まれて初めて行ったクラシックギターのコンサートで藤井敬吾先生自身の作曲・演奏による「羽衣伝説」を聴き、「僕はクラシックギタリストになる」と決心しました。:-)

卒業し、だいぶ経った時に、僕が在校していた2年間「一度も電車の中でリラックス出来なかった」「読もうと思っていた本や雑誌を鞄から一度も取り出せなかった」とちょっと複雑な想い出を語って頂きました。:-)

そして、イギリスでギルドホール音楽院を卒業した時、「これからどうやって生活すれば…」「どうやってキャリアをスタートすれば…」と相談させて頂いた時には、自分がギターを始めたのが非常に遅いことを踏まえた上で、「いわゆる天才少年、神童 [=child prodigy]と言われる演奏家達と演奏技術で対抗するのは竹槍でマシンガンに戦いを挑むようなもの。武本くんはロックや作曲と言う他の武器を使って戦うべき」と、僕よりも僕の事を良く知っているかのような適切なアドバイスをして下さいました。

と言うわけで僕にとって藤井敬吾さんと言う方はギター、音楽の師であると同時に、命の恩人と言うか、育ての親と言うか、とにかく特別な存在なんです。:-)

話は少し飛んで、ギルドホール音楽院を卒業(逃亡w — 詳しくはこちらをどうぞ)してからレッスンやコンサートをし始めたのですが、つい数年前まで常に悩んでいたことがありました。

デイヴィッド・ラッセル (David Russell)と言う、グラミー賞も受賞している素晴らしい演奏家が書いた記事が参考になりますが(英語のみ)、…show what you can do well and not what you do badly. That way you will bring more musical pleasure to your audience. [=オーディエンスには君が何を上手く出来るかを見せるべきで、何が上手く出来ないかは見せるべきではない。そうすることでより良い音と喜びが届くんだ。]、と言うことを書かれています。

ただ、ここが一番難しいところだと思うのですが「自分が上手く出来ない」曲がどれなのか判断出来る様になり、余計なプライドやエゴ、自尊心と言うものを無くせず、それが解決するまでに随分長い時間が掛かりました。

このことを助けてくれた方がタケちゃんと言う方で(Core Raising/Skin Driveと言う呼吸、皮膚、など身体の持つ自然治癒力を最大限に発揮する為の研究をされ、自分の重度の椎間板ヘルニアも治してしまった凄い方です)、このCore Raising と言うコンセプトを教えて頂き、筋肉や脳の緊張を解き、その為の呼吸や身体の使い方を練習し、「自分は難しい曲を弾いて凄いと言われる為にギターを弾いているのではなく、聴いた人が楽しくなったり、喜んだり、感動したりする為にギターを弾いている」と言うことに気付かせて頂きました。

日本を含め、世界中の音楽教育では正確な演奏、超絶技巧を使い楽器を弾きこなし、楽譜に忠実でミスのない演奏をする事に目標や注意が行ってしまいがちで、音大生は「コンクールで優勝」し、「メジャーレーベルからCDを発売」し、「大きなホールでコンサート」する事が目標で、僕もずっとそうしなければいけないと頭の片隅にプレッシャーを感じながら活動していました。でも僕のコンサートを観に来てくれる人は技術を見に来るのではなく美しい音(曲)、楽しい音(曲)を聴く、感じる為に来るのであって、演奏家、音楽家はそれを提供する為の教育、トレーニングを受けるべきなのでは、と思いました(練習したくないと言っているわけではありませんw)。

練習量や演奏技術(正確さやスピード)は、良いコンサートをする為の準備の一つではありますが、聴きに来てくれたオーディエンスのみんなを喜ばせ、嫌な事があった日ならその事を忘れて一緒に音を楽しんでもらえることが最も自然な、自分がギターを弾く理由なのだと思うようになりました(少しずつですが、演奏時における 頭、身体の緊張は殆ど無くなり、純粋に自分のギターから出て来る音を楽しめる様になってきました) 。

そんな風に色々な意味で緊張が無くなってきているせいか、去年のハロウィーン・パーティーのイベントでは、ステージでクラシックギターを弾いた後エレキギターも弾くと言う、実に20年以上ぶりのエレキギター再デビューをしてしまいました。

めっさ楽しかったですw

撮影 — Anna Marchesani

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Photos by Anna Marchesani

4/7(土)に仲のいい音楽仲間達をゲストに迎え、コンサートをしました。詳細はこちら。↓

オフィシャルサイト: http://www.hideguitar.com/concerts/
地域の新聞にも取り上げて頂きました: BARNET BOROUGH TIMES

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BARNET BOROUGH TIMES に記事が掲載されました!:-)

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京都府出身。ロンドンを拠点に活動するギタリスト。15歳の頃からエレキギターを始め、19歳の頃からクラッシックギターを藤井敬吾氏に師事。1999年からギルドホール音楽院 (Guildhall School of Music & Drama) で学び、奨学金を得てギルドホール音楽院のバチュラー(楽士)、演奏家ディプロマ、作曲家ディプロマを取得。音楽的バックグラウンドはインド、日本の伝統音楽、ポップ、ロック、ヘヴィ・メタルと幅広く、クラシックギターの新しい可能性を追求し続けている。作品に津軽三味線とのコラボ『Four Springs』、シンガー・ソングライターTim Hopkins氏とのコラボ『RED SHOES GREEN TEA]』、自身の作曲作品集『SKY FLOWERS』、『FEATHERINGS』など。 公式ウェブサイト:www.hideguitar.com

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