クリスマス前から、またロックダウンが厳しくなったイギリス。社会人と大学生の子供達も引き続き、田舎の家でおこもり生活をしています。
この家を手に入れたのは約13年前、まだシンガポールに転勤していた頃でした。駐在の身だと、いつも借家暮らし。根無し草のような気分が、落ち着かないものです。
そんなとき「サードカルチャーキッズ」を書いた著者の講演を聞く機会に恵まれ、子どもたち3人に文化的ルーツ感じてもらえるよう、父親の母国に拠点を持ちたいと考えたのです。
紆余曲折を経てこの家に出会い、毎年夏イギリスへ1ヶ月一時帰国する際にベースとするようになりました。
イギリスに引越した2013年からは、夫の仕事上ロンドンに住みながら、週末を田舎の家で過ごす二拠点生活が開始。そして、コロナ禍を機に、夫もリタイアしていたこともあり、軸足を田舎に移しています。
さて、我が家があるのは、観光地として有名な他の村や町に比べると、日本の皆さんには知られていないコッツウォルズの小さな村。人口500名を超えるくらい、ちょっと表を歩けば、すぐご近所さんに出会うようなところです。
とはいえ、村の歴史は古く、エリザベス1世の時代である16世紀後半テューダー朝には、すでに教会と修道僧のためのコレッジ(今でいえば大学のような高等教育機関)があったとされます。当時はまだ学校もない時代。村の教会が修道僧の学びの場だったのです。
村のメイン・ストリートに建つわが家は、約400年以上前に建てられた同じ時代の3つのコテージを改築・合体し、のちに一軒家になったものです。
家売買の記録によると1960年頃に3つのコテージや農家をひとつの家につないだということです。 ですから家の外見も、部分によって趣が異なります。
まず村の教会から中心広場を通り、門を入ったところがもっとも古く、ご覧のように蜂蜜色の石造りです。
ちなみに、この石が出る地盤のことをコッツウォルズと呼びます。南はローマ時代の温泉で有名なバースBath(お風呂という言葉の語源)から、北は我が家のあるウースター州まで、コッツウォルズが地域として縦に細長くいくつかのカウンティ(州)にまたがるのはそのせいなのです。
現在の家の中心部にあたる部分、リビングが2つ目のコテージでした。外見はやはり蜂蜜色の石造り。内部にはもともとはキッチンとして使われていた大きな暖炉の名残があります。
右奥に見えるのは何だかわかりますか?
これはパンを焼く焼き窯です。中に薪を入れて、全体を熱くする方式の、いわばピザ窯のような作りになっています。
この家を買った当時、シェイクスピアゆかりの地ストラットフォード・アポン・エイボンを観光中、シェイクスピアの母の実家である農場 Mary Arden’s Farm を見学したら、我が家とうりふたつな暖炉やパン窯があるのを見て、あらためて驚いたものです。
そして、最後の3つ目のコテージは外見が異なります。
この部分は、現在のキッチンと勝手口。ブラック&ホワイトハウスと言われる様式で、黒い柱と梁が白壁が特徴なのです。このように黒白と漆喰の外壁と蜂蜜色の石造りの外壁が合わさっているのも当時の名残です。
写真をご覧いただくとお分かりのように、イギリスの古い家は、内も外も有機的な曲線でできているんです。
あるとき、この家のことを江戸っ子の友人に聞かれて、説明しました。友人にいわせると、床が歪んだり、壁が曲がっている家なんて、想像できないし、信じられない(!)そうです。
でも、実際に住んでいると、まるで家が息づいているような、安心感を覚えるものなんです。この家も歴史的建造物のグレード2に指定されているので、外観や間取りを変えることや、許可のない増築は許されていません。
ただ、おもしろいことに、古いもの、歴史あるものが大好きなイギリス人にとっては、家も同様に、古いほど価値があって人気があります。
「百年経ってないものはアンティークでは無い」
と言い切るイギリス人も多いなか、100年以下のものは、ジャンクとか、せいぜいヴィンテージという扱いです。このように古い建築を大切にする、その精神には、イギリス人らしい頑固さと誇りが見え隠れします。
たとえ、じぶんが所有者であっても、古い家に住むとはただ預かっているだけという考え方をするのがイギリス人。気持ちの上では、次の世代へ文化遺産を渡せるように修復してメンテナンスするということです。
使い捨て文化とは真逆の、修復しながら古いものも大事に使っていくというのは、古くて新しい考え方なのかもしれないと、曲がった梁や、凸凹のある床板を眺めながら、再確認する毎日です。
次回は、この古い家に離れを新しく増築した話についてお伝えします。お楽しみに!
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