コッツウォルド・ウェイという全長160kmを歩く道があります。
これは、南北に長いコッツウォルズ地方の、北はチッピング・カムデンから南はバースまでを徒歩でつなぐウォーキング・コースです。ちなみに、こういった歩く人のための道をイギリスではフットパスと呼び、全国津々浦々はりめぐらされているのです。
コッツウォルド・ウェイは、自然豊かな田舎道を抜け、おとぎ話から出てきたような可愛い村や町を通り、ローマ時代やそれ以前の遺跡なども垣間見ながら、昔ながらの方法でテクテク歩く休日を愉しめるコースです。
こちらの記事
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https://www.absolute-london.co.uk/people/alternative/selfcare/37008
は、スタート地点のチッピング・カムデンから60kmを歩いた3年前のレポ。
北コッツウォルズを歩いた前回は、わが家に毎晩戻る形での計4日間の日帰りでした。今回2024年4月は、後半の100kmであるバードリップから目的地のバースまでを歩いたのですが、徒歩で宿から宿へ歩く5日間の旅を計画!
同じコッツウォルズといっても、南北160kmを歩き通すと、風景も雰囲気も多様であらためて懐の深い魅力を発見した思いです。
一歩ずつ歩くことで得られたもの
「100キロ達成しました!」と友人たちにSNSでご報告したところ、多くの方から
「制覇おめでとうございます」
「想像できない道のりです」
などとコメントいただきました。
5日のうち2日間は寒い雨の中でも黙々と歩けたのは、どうしてかな?と考えると、もちろん始めたからには歩き切りたい、という想いがあったからでした。
しかし、歩くこと自体が楽しいのも事実です。長い道のりを毎日歩きながらも、景色が本当に多様で飽きさせないところがコッツウォルド・ウェイの魅力だからです。
なだらかな丘、空の広さを感じる大きな畑、ひんやり木陰や雨をしのげる林、小川・渓流・運河などの水辺、小高い山の頂上ピークからの絶景、私の実家ちかくの鎌倉の切り通しを思わせる岩を切り開いたパスもあります。
田舎の一軒家の庭先を抜けたかと思えば、いかにもコッツォルズらしい可愛い村や町を通ることもあります。そのうえ、古い石造りの教会、ローマ時代の遺跡、18世紀のお屋敷と庭(たとえばナショナルトラスト管理のDyham Park)などなど、寄り道して歴史に触れられる場所も、数え切れないほどです。
このように見どころが多くて観光も楽しいのですが、それ以上に、私は自然の中を歩くことで、エネルギーを貰えていたのかな、と感じます。
広告も看板もほとんどない中(スマホは持参していますが)、テクノロジーも使わず淡々と、歩く。自然の中でいわば情報断食です。
ましてや、右足、左足、そしてまた右足…と1歩ずつを積み重ねていくしか、前進する方法がないのです。車や馬車が発明される前の、昔の人もこうやって歩いて旅をしたんだな。徒歩でしか感じられない人間のスピードで、思考がスローダウンします。
すると五感がふだんよりも敏感に働きます。
名前もわからぬ鳥たちの鳴き声や、雨が近づく気配の湿めった空気感、ひんやりした林で香るワイルドガーリックの匂い、だだっ広い畑を横切るときの自分の小ささと心許なさ、渇いた喉を癒やす水の美味しさ、ありがたさ…
見どころ満載!
選ぶのが難しいのですが、あえて個人的に心に残ったところをご紹介します。
1)絶景ポイントのコーリーピーク(Coaley Peak)
山超え谷超えまた坂道を登りきったら、360度の絶景で歩いた甲斐があった〜! パラグライダーができることでも人気の小高いスポットで、晴れていれば遠くウェールズまでも見渡せます。
2)ノースニブリーに着く前、ファームで出会った老婦人との会話
民家の庭先を歩いていく楽しさもあるのがイギリスのフットパスの愉しみ。このときも庭先に出ていた奥様と立ち話。川のほとりにあるお宅は、日本的にいうと地方の豪農のお屋敷です。
「素敵なお庭ですね」と話しかけると、ご自宅の建物の由緒なども教えてくださいました。
聞くと、川のほとりに立つ建物は、もともとは紡績を家内工業としていたミルだとか。現存はしていませんが、もともとは水車小屋があったそうです。
3)ペンシルベニア近くの「魔法の森」にあるメッセージボックス
だだっ広い畑が続くと、ちょっと風景が単調で飽きてくることもあります。
ちょうどそんな気分のときに、こんもりとした林が見えてきました。ゲートには札があり、「ジェーンのマジカルフォレスト」。どうやらジェーンという女性の遺志により、寄付金で維持されているようです。
たしかに、それまでの単調な下界とは違い、まるで魔法のかかったような特別な雰囲気のある林です。ちょっとドキドキしながら足を進めると、こんな素敵なものがベンチの前に見つかりました。
通った人が好きに記帳できるノートが置いてあり、私達の直前に記帳したのはイタリアの方で、メッセージが地元イギリスだけでなく世界各地から寄せられています。
旅の準備
旅の準備としては、4月でも天気によってはかなり寒いのがイギリス。雨や悪天候に備えて、レイヤリングできる服装と防水の歩きやすい靴、両手にポールを持つと、足元が悪くても安心です。さらにフード付き防水ジャケットやオーバーパンツなどもリュックに用意して出発! またその日の予定にもよりますが、お昼を買ったりする店は途中ほぼ無いので、エネジーバーや果物、ナッツなど食料持参で歩きます。洗面道具や着替え、予備のシューズ等かさばるものは、配送サービスを利用して両手をあけて歩きました。
食事や宿について
食事については、朝食をフルイングリッシュ・ブレックファストでしっかり宿でとり、お昼やスナックを持参して、外で休憩がてら食べることをオススメします。
夕方宿についたら、早めの夕食をとり、バタンキュー、というのが私たちの典型的な1日でした。ちなみに、失敗したのはお風呂付き部屋を予約しなかったこと! 日本の常識と違い、シャワーのみの部屋もよくあります。旅の疲れを癒やすお風呂がない日は、本当にがっかりですし、筋肉痛防止にもお風呂は必須なので、ここは要注意です。
旅の終わりというハイライト
コッツウォルド・ウェイの終点は古代ローマ時代の温泉があるバースの街です。有名な観光地なので訪れたことがある方も多いかと思います。
私たち夫婦も、息子がバース大学生なので、何十回と来たことがある大好きな街です。でも歩いて到着したのは、もちろん初めてのこと。ここまで5日間(3年前のスタートから数えたら9日間)歩いてきて、丘の上からバースが見えてきたときは、もうすぐだ!という期待感でいっぱいでした。
ところが近くに見えるのに、歩けど歩けど終点のバース大聖堂に近づけないんですよ。ふだん車なら10分の道のりが、歩くといかに遠いことか…それでも、なんとかラストスパートで歩き通して、大聖堂の前にたどり着いたときの喜びや達成感は大きかった!くじけないで怪我もなく歩けて、とにかくホッとしました。
まとめ
このウォーキング・コースを選んだ理由は、やはり見どころの多いコースであること。そして、一部ちょっと急な坂があるほかは、危険な場所もなく歩きやすいこと。標識が完全にわかりやすく整っているので初心者でも安心して歩けること。
英語が得意でなくても、コッツウォルド・ウェイの目印であるどんぐりマークの標識をたどっていけば大丈夫です。とはいえ、地図やガイドブックの用意もお忘れなく。
私たち夫婦は、去年、世界遺産でもある熊野古道の中辺路を3日で歩きました。その時の体験が楽しく、いつかは熊野の姉妹古道であるスペインのカミーノ・サンティアゴを歩くのが夢なんです。
でも、その前に地元のコースを歩かなきゃ「灯台下暗し」ですから。 ということで、コッツウォルド・ウェイ全長160kmを達成することができて、1つ夢に近づけました。
【ご参考に】
■各日のウォーキング
2021年(ゆっくりペースで1日平均15km)
1日目 チッピング・カムデン Chipping Camden→ブロードウェイ Broadwayまで
2日目 ブロードウェイ→ウィンチコム Winchcombeまで
3日目 ウィンチコム→ダズウェル Dowseswellまで
4日目 ダズウェル→バードリップ Birdlipまで
2024年(1日平均20km)
1日目(通算5日目):バードリップ Birdlipからストーンハウス Stonehouseまで
2日目(通算6日目):ストーンハウスからノースニブリィ North Nibleyまで
3日目(通算7日目):ノースニブリィからホートン Hortonまで
4日目(通算8日目):ホートンからコールド・アシュトン Cold Ashtonまで〜途中ディラム・パーク Dyrham Park(ナショナル・トラスト管理の屋敷と庭)経由
5日目(通算9日目):コールド・アシュトンから到着点バース Bathまで
※通しで歩くなら、毎日の距離配分は体力に合わせて加減することをオススメします。ゆっくり観光する時間も入れるなら最低でも2週間は必要でしょう。または、途中は車などを利用して、一部だけ歩くことも可能です。
■コッツウォルズ・ウェイについて関連リンク
*全国のフットパス情報をまとめたナショナルトレイルのサイト
https://www.greatenglishtrails.com/en_GB/trails/cotswold-way/
*自然環境や歴史的建造物保護のナショナルトラストのサイト
https://www.nationaltrust.org.uk/crickley-hill/features/walking-the-cotswold-way
*おすすめの決定版ガイドブック(英語)
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