イギリスのソウル・フードと言えばフィッシュ&チップスを思い浮かべる人が多いと思うが、今も昔もイーストエンダーたちのソウル・フードと言えば、パイ&マッシュだ。
イギリス伝統料理の一つであるパイ料理は、レストラン、パブ、カフェなどで日本人の口に合うものをふつうに食べることができる。しかしKentish TownにあるCastle’s Pie & Mashで出しているような庶民のPie & Mashは、見た目や味を含めて日本人の想像をはるかに超えていると言わねばなるまい。
コーンスターチでゆるくトロミを付けたような薄緑色のしゃばしゃばソース(Liquor)の池の中を、ねっとりした牛ひき肉を包んだ平べったいパイが泳ぎ、サイドにはジャガイモのマッシュが張りついている。これぞCastle’s Pie & Mashで80年に渡って作られている掛け値なしの伝統ミートパイ&マッシュである。
80年? そうなのだ、ここはカムデン・タウン最古のレストランの一つ。こちらの記事によると 1934年の創業とある。現在はフレッド&グラント・ハウエル父子によって伝統の味が守られているのだそうだ。
このミートパイ&マッシュよりも、日本人にとってさらに衝撃的なのはイール&マッシュ、すなわち煮ウナギにジャガイモのマッシュを添えたものである。
丁寧に下処理された日本のウナギとは似ても似つかないぶつ切りウナギは、ぬるりとした食感はあるものの臭みは少ない。身だけ丁寧にとって食べればそれなりに楽しめる、かもしれない。
近辺を頻繁に通る友人によると週末は行列ができるほどで、平日でも昼時になるといつも混雑しているというから相当な人気店だと言えそうである。こちらの記事ではミシュラン・スターを持つイタリア人シェフ、ジョルジオ・ロカテッリ氏の好物であり、折りをみては通っているとの情報も。
その味とともに生まれ育てば、どんな料理もその人にとって懐かしく愛すべき味となる。日本人にとっての納豆のようなもの、と言えるかどうか分からないが、下町で生まれ育ったロンドナーにとっては懐かしさを感じる味なのだろう。
時代の波には逆らえず、Castle’s Pie & Mashのように伝統を忠実に守っている店はどんどん減って来ているという。デイビッド・ベッカムをはじめ、東ロンドン訛りの庶民がこよなく愛する味を試してみたい方は、こちらのリストを参考に食べ歩きしてみてはどうだろうか。
1件のコメント
Pingback: 違和感だらけの東ロンドン・ドッグランドとエリザべスライン/クロスレイル | ロンドン楽しい移民街