本物に還る。極上のタイ・デリシャスに出会う場所

0


NipaThai  ニパ・タイ @ロイヤル・ランカスター・ロンドン

パブの厨房にタイ料理チームが入り込み始めたのは、30年ほど前。エールとタイカレーの組み合わせにロンドナーたちが大喜びしたのもつかの間、それまで一外国料理に過ぎなかったタイ料理が、イギリス国内でメジャー・キュイジーヌに躍り出ることになった。

私が大好きだった庶民派タイ食堂は、その昔ホクストンにあったCharlie Wright’sというミュージック・パブの奥で営業していたお店。いつの間にかなくなっちゃったけれど、あそこの料理は今でもロンドンで5本の指に入る味だったと思っている(あのチームは今どこで何をしているのだろう)。

その後、ロンドン全体の(というよりも世界的な動きとして)各国キュイジーヌのモダン化が進み、伝統の味を残しつつも人々の舌が進化していくのに合わせ、新しいエレメントを取り入れたり、シェフの創造性と融合させたりするようになった。ロンドン全体の料理は今、いわゆるエクレクティック(折衷主義)と呼ばれるジャンルへと昇華させられていく動きのなかにある。

私自身、そんなフュージョン料理たちの大ファンだし、新鮮な驚きを心から楽しんでいる者の一人だ。食はクリエイティブな世界で、シェフたちの進取の精神には惜しみない賞賛を送りたいと思う。ただ個人的には、「あんまり進化して欲しくないなぁ」と思う料理ジャンルがある。・・・ベトナム料理と、タイ料理だ。

5 つ星ホテル内のレストランには風格があります

先日、ホテル・ライターの児島みゆきさんにくっついてロイヤル・ランカスター・ホテルに宿泊させてもらい、その素晴らしいクオリティを楽しんできた。そして初めて知った、この5つ星ホテルの宝、タイ料理レストランのニパ・タイ!

ロイヤル・ランカスター:究極の癒しを叶える絶景ホテル【前編】

ニパ・タイは現在も営業しているタイ料理レストランとしては、ロンドン最古類の一つ。ロイヤル・ランカスター・ホテルのタイ人オーナーさんの思いが、実はここに込められている。店名は愛妻の名なのだそうだ^^

落ち着きのあるインテリア♡

ニパ・タイの厨房を引っ張り、長年にわたって素晴らしい評価を維持しているのは、1984年に渡英して以来、ずっとここ、ロイヤル・ランカスターのニパ・タイで働いている女性シェフのサングアン・パーさん。下積みから始め、ヘッド・シェフに就任したのは2014年。渡英前からすでにタイ国内の高級レストランでのシェフ経験があったので、ともかくそのキャリアはずば抜けている。

そして驚いたことにタイでは伝統的にプロ・キッチンを率いるのは女性シェフと相場が決まっているとのことで、このニパ・タイの厨房スタッフは全て女性なのだとか。ヨーロッパや日本の事情を考えると重労働のプロ厨房は男の世界というイメージがあるが、タイでは事情が異なるらしい。

この日はサングアンさんのお料理を存分に堪能すべく、コース料理を選択。いくつかある中で、お店の方のおすすめだったグラス・ワインと食後の飲み物付きのお得なチェンマイ・コースを試してみることにした。

一口でいただく突き出しのエビ・トースト♪ 薬味使いがさすが。

まずはエビ・クラッカー、そして突き出しのエビ・トースト! これぞ職人の技。この一口をいただくやタイのアロマにほだされ、気持ちも舌もバンコクの街へとひとっ飛び♡

そして次にやってきたのがお待ちかね、タイ前菜の盛り合わせ♪

チキン・サテー、タイ風さつま揚げ、春巻き、シーフード巾着。タイの香りを運ぶ前菜たちはひとつひとつ丁寧に作られたことが分かる繊細なお味。佇まいの美しさも際立っている。

よくある町のタイ料理屋さんとは一線を画する、別次元の味がそこに横たわっていた・・・

全部美味しかったけど、チキン・サテーは5つ星ホテルのレストランの味。

次のコースはトムヤムクン。私は特にトムヤムクン・ファンというわけではないのだが、全コースを通して正直もっとも驚いたのが、このニパ・タイのトムヤムクンだった・・・。

純粋にブロスの美味しさを堪能します♡もっと飲みたい!

タイ料理店でトムヤムクンを頼むことはほとんどない私。チリの辛さが強すぎるものは味がわからなくなるため、避けたいタチなのである。また強いレモン・グラスの香りもちょっと強烈すぎて・・・ここは好みが分かれるところだと思うのだが。

記憶が定かではないのだが、確か注文時にトムヤムクンの辛さ加減について聞いてくれたような気がする。マイルドにしてくれるように伝えることができたおかげで、大変好みのトムヤムクンがやってきた。

そのトムヤムクンでは、ほんのりとした辛さの中から立ち上がってくる甘さをしっかりと感じることができた。そこには確かな旨味があり、それを引き立てるスパイシーさも存在した。絶品。

ハイド・パークを望む特等席が窓際に。次回はここに座ると決めています。

主菜3品のバランスも絶妙で、ただただ、シェフに拍手。エビのパッタイ、ホタテとアスパラガスの炒め物、そしてグリーン・カレー&ジャスミン・ライス。パッタイには「サングアンの」と枕詞がついていて、彼女のシグニチャーの一つだということがわかる。

ホタテもふっくら。タイの炒め物の甘辛さは大好き^^ 和食との共通項を感じるところ。

黄金のパッタイ! 極上品。

カレー・ソースに一技あり。タケノコとか入らないのは正統派なんですって。

テイストも胃袋も満たされ、まったりとしたところで、締めのデザート。

美しく彫刻されたエキゾチック・フルーツの盛り合わせと、滑らかな自家製ココナッツ・アイスクリームから選ぶことができたので、それぞれを選択。リッチでスパイシーな料理をいただいた後は、さっぱりジューシーに締めるに限る。言わずもがなではあるが、フルーツはちょうど良い熟成状態のものが出てきた。さすが。

これにてコースは終了。後は温かい飲み物でゆっくりと胃を落ち着かせましょう。全部で一人50ポンド。ちょっとしたお祝いの席にいかが?

 

ニパ・タイが素晴らしいのはその匠の料理だけでなく、ロケーションもインテリアも総合的に優れていること。西ロンドンに住む有名人が時折お忍びで訪れるというのも、わかる気がする。

私自身、こんなにゆったり、静かな気持ちでタイ料理をいただいたのは何年ぶりだろう。

ロンドンでは今、Kiln、Smoking Goat、Som Saaなど新世代のタイ料理レストランが街を賑わせているが、いずれもバーのような雰囲気でイギリス人が大好きなお酒とのコンビネーションがキーとなっている。味はいいけれど、量は少なく、濃い味でお酒を飲ませる算段なのでは?なーんて、個人的には思っているのだが・・・^^;

それに比べて、ニパ・タイはゆったりと落ち着いた雰囲気がまるで天国にいるよう。タイは仏教国で国民の皆さんの穏やかさでも有名だが、本来の姿はむしろこちらにあるのではないか。私自身がリピートしたいのは、確実にこちら。ニパ・タイだと宣言できる(タイ料理ならイズリントンのIsarnもお気に入りだったのだが、残念ながら姿を消してしまった・・・)。

で、何が言いたいのかって? つまり、ニパ・タイは、最高のオーセンティックなタイ料理体験ができる場所だってこと。ロンドン在住の皆さんも知らない人は多いと思うのだが(私自身がそうだったように)、本物のタイ料理と向き合い、仲間や家族と語らいながらゆったりとしたテーブル・サービスで食事をしたいなら、ニパ・タイが正解。リピートしたくなること請け合い。

レストラン横のラウンジ。前後はこちらで休んでも。

Royal Lancaster London, Lancaster Terrace, London W2 2TY

店名Nipa Thai
最寄り駅Lancaster Gate
住所Royal Lancaster London, Lancaster Terrace, London W2 2TY
電話番号020 7551 6000
営業時間水〜日17:00 – 22:30(プライベート・ランチには週7日対応)
URLhttps://www.niparestaurant.co.uk
Share.

About Author

アバター画像

岡山県倉敷市出身。ロンドンを拠点に活動するライター、編集者。東京の文芸系出版社勤務、雑誌編集・ライターを経て、1998年渡英。英系制作会社にて数多くの日本語プロジェクトに関わった後、2009年からフリーランス、各種媒体に寄稿中。2014年にイギリス情報サイト「あぶそる~とロンドン」を立ち上げ、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむかたわら、オルタナティブな生活、人間の可能性について模索中。著書に『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房) 『ロンドンでしたい100のこと』『イギリスの飾らないのに豊かな暮らし 365日』『コッツウォルズ』(自由国民社)。NHK文化センター名古屋教室「江國まゆのイギリス便り」講師。MUSIC BIRDのラジオ番組「ガウラジ」に月一でゲスト出演。チャネリングをベースとしたヒーラー「エウリーナ」としても活動中(保江邦夫氏との共著『シリウス宇宙連合アシュター司令官 vs.保江邦夫緊急指令対談』もある)。Instagram: @ekumayu

ウェブサイト

Leave A Reply

CAPTCHA