レストラン・トレンドを読む

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最近のロンドンのホスピタリティ産業の伸びには目を見張るものがある。

毎週のようにどこかで新しい店がオープンし、時代にそぐわない店はどんどんクローズしている。それがたとえ老舗と称えられた店であっても。

オープンしてすぐに人気を博す店や、人気を維持している店にはいくつかの共通点があるが、現在のロンドンにおけるレストラン・シーンのトレンドと言えば、①小皿サイズでシェア、②食材をシンプルに調理 、③味の組み合わせや風味付けが上手く飽きさせない、④和の風合いをもった皿を使う傾向、⑤バー・カウンターでも食事ができるようにして活気を出す、⑥一見、高そうには見えない価格設定、などが挙げられると思う。

外食をエンターテインメントとして楽しむ人も増えた。一昔前まではパブでフィッシュ&チップスを食べたり、イタリア料理店でピザを食べたりするのが主な外食だったかもしれないイギリスではあるが、今では若い世代から五十代くらいまでの人がパブやイタリアンではない、お洒落なレストランに行くことをライフスタイルの一環として楽しんでいる。

シェフの世代交替も進み、20年前に比べると彼らの腕は格段にアップしている(そのシェフたちは頻繁に職場を変える)。というわけで、もはやロンドナーはふつうに「美味しい」だけの食事では満足しなくなっていると言えそうだ。

最近、五つ星ホテルThe Berkeleyでミシュラン二つ星レストランを仕切るセレブ・シェフMarcus Wareing / マーカス・ウェアリング氏が、最近のトレンドに倣ってカジュアル路線の新レストランをコベント・ガーデンにオープンした。セブン・ダイヤルズ周辺のレストラン再開発計画の一環でもあるTredwell’sである。

レストラン業界に務める友人とさっそく行ってみたのだが、上記で挙げたレストラン・トレンドのいくつかは確かに抑えているのだけど、味やサービスのほうがさっぱり・・・・という残念な結果に。

ああ、期待して行ったのに〜

ああ、期待して行ったのに〜

例えばモダン・キッチンでよく見かけるビートルートのディップ。お味のほうはまぁまぁだったけど、このプレゼンテーションのひどさ・・・そしてパンが不味い。パン自体が美味しいかどうか、どうやって出されるか(温められているのか、トーストされているのか)など、パンはレストランの評価材料になると思うのだが、ここですでに期待にグラつきが・・・

このレベルでは最近のロンドンでは生き残っていけないかも

このレベルでは最近のロンドンでは生き残っていけないかも

こちらも最近のトレンドに倣い、グリル料理を揃えているが、極めつけはスロークックしたサーモンに添えられていたカリフラワーがコゲコゲだったことと、個性的な風味を持つ青菜、スピルリナを使ったソースの匂いが強烈だったこと。それ以前に、サーモン、カリフラワー、ソースの味のバランスがよくない。

カリフラワーがあまりにひどかったのでウェイター氏に「このカリフラワーってこういうものなの?」と、「焦げてるからキッチンに聞いてみてほしい」ことを暗に示唆してみたが、「これはこういうものです」との返事w ええ〜。こちらの言い方が控えめすぎたのかしらん・・・もちろんグリルした野菜が焦げていることはあるであろう。だがしかし、加減というものがあり、こんなコゲコゲはレストランで見たの初めてだよ〜 見た目もきれいじゃないし。(しかもグリル野菜は味が濃縮されて香ばしいはずなのだけど、あまり野菜の味がしなかった)

グリルしたイカと野菜にはご丁寧にカラスミまでかかっているのに、今ひとつパンチに欠ける品。レストラン業界に務めている友人に言わせると、「素材がよくない」とのこと。グリルしたイカがどうしてこんなにヘタっとなってしまっているのか、その辺りにも問題がありそうなのと、私的にはもう少し熱々で出てきてもよかったのではないかと。(イギリスでは熱々料理は期待できないが、それにしても生温すぎ)

スクウォッシュと干しブドウ、チーズの組み合わせはまぁまぁ。もう少しスクウォッシュにコクがあるとよかったかも。それと、オリーブ・オイル系のソースがかかってるともっと調和がとれたかも。

マーカス・ウェアリング氏が直接キッチンに立つわけではないにしろ、シェフの見極めとか、料理の味見とか、ちゃんとしたほうがいいと思う。コワいもの見たさでデザートを一つ注文。ジンジャー・ケーキは甘さが強いところをクリームで中和するのだろうけど、クリームよりアイスクリームのほうが合ったような。だってすでにキャラメル・ソースがたっぷりかかっているのですもの。

週末の中途半端な時間だったが、周囲にあるレストランはどこも盛況。目の前にあるDishoomには行列もできている。だってすごい一等地だもの。なのに当店だけは閑古鳥。お客さんよりスタッフのほうが多いという哀しい状況であった。うーん、抜本的なてこ入れをしないと、遅かれ早かれクローズしちゃうのかも。やはりセレブ・シェフの店だからと言って、それだけでお客が入るわけではない。ロンドナーももう、自分の舌で味を判断ができる大人になったんだなぁ。

あ、それともう一つ、音楽がいけてなかった! ポップ・ミュージックが大きめにかかっていて、レストランの雰囲気と全く合っていない。レストランの造り、音楽、カクテルに力を入れていること、食事のお値段などを見ると、トレンドに敏感な若者に出入りしてもらいたいのかもしれないけど、そのためには人が多く入って活気づいた雰囲気になることが不可欠。しかしターゲットがそこなら、落ち着いて食事したい人はもう戻ってこないだろう。

ウェブサイトでメニューを見る限り、とても素敵な感じだっただけに、とても残念である。

次回はレストラン業界のトレード・ショー、レストラン・ショー 2014に行ってきたので、そちらをレポート☆

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About Author

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岡山県倉敷市出身。ロンドンを拠点に活動するライター、編集者。東京の文芸系出版社勤務、雑誌編集・ライターを経て、1998年渡英。英系制作会社にて数多くの日本語プロジェクトに関わった後、2009年からフリーランス、各種媒体に寄稿中。2014年にイギリス情報サイト「あぶそる~とロンドン」を立ち上げ、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむかたわら、オルタナティブな生活、人間の可能性について模索中。著書に『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房) 『ロンドンでしたい100のこと』『イギリスの飾らないのに豊かな暮らし 365日』『コッツウォルズ』(自由国民社)。NHK文化センター名古屋教室「江國まゆのイギリス便り」講師。MUSIC BIRDのラジオ番組「ガウラジ」に月一でゲスト出演。チャネリングをベースとしたヒーラー「エウリーナ」としても活動中(保江邦夫氏との共著『シリウス宇宙連合アシュター司令官 vs.保江邦夫緊急指令対談』もある)。Instagram: @ekumayu

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2件のコメント

  1. アバター画像

    YUKAさん☆そうですよね、私もバランスが大切だと思います。そして、ターゲット層にちゃんと合致するサービスができているか・・・ほんと、残念なレストランでした・・・

  2. おっしゃる通り、舌がこえてきていますね。そして一般の方でも食に関する知識も
    上がってきています。
    しかし残念ですね、、せっかくいいレストランなのに(行ったことはありませんが、写真や記事を
    みて)
    我々小売りの業界もレストランと同じ事が言えます。プレゼンテーションや全体のバランスなど
    考えないとあれ?と言う印象になってしまうこと。
    とても勉強なりました!

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