イギリスでは道端や垣根に、公園や草原、そして林や森などに数えきれないほどの「薬草」いわゆるハーブが元気よく、時にたくましく育っている姿を見ることができます。中にはハーブショップなどで「ドライハーブ」として売られているハーブ達も多く見られます。
然し乍らよーっぽど気をつけて見ていないと、「え〜〜これがハーブだったの?」となります。そのほとんどが “雑草” と見做されてしまっていたり、“街路樹” のように普通の木と同じに見られて見過ごされてしまうんです。
そこで今回から皆様に「貴方にも見つけられちゃう道端・草原・森林ハーブのご紹介」を、写真満載でさせていただく事になりました。(編集長ありがとうございます)
<ハーブって何?>
ハーブ/ Herbs は「薬効成分を含む植物」いわゆる薬草です。芳香成分が高く味わいも良い種類のハーブ(タイムやオレガノなど)は料理にも古くから使われたりしています。
また、ハーブに含まれている芳香成分のみを抽出した「エッセンシャルオイル/精油」は、アロマセラピーでも活躍しております。

精油の原料はハーブと呼ばれる植物となります。
「エキナセア/Echinacea」なんてハーブの名前を耳にされた方いらっしゃいませんか? エキナセアには免疫機能を高める働きがある、多糖類や糖たんぱく質、フラボノイド等が含まれています。

Echinacea
その他にも、イチョウの葉のフラボノイド、テルペノイド、ギンコール酸、ラベンダーの酢酸リナリルやリナロール(精油)など、様々な薬理活性を見せる有効成分が含まれていまして、ハーブの知識をちょーっとだけでも蓄えると、軽い不調がある時に薬局に行かずとも「すぐそこに育っているハーブで体調回復」なんてちょっとした特典が付いてきます。
あ、然し乍ら「毒と薬は紙一重」なんて言葉がありますが、使い方によっては「毒」「危険」ともなる種類もありますのでご注意ください。
<各国に自生するハーブ種の違いって?>
初回は、レンプクソウ科ニワトコ属に属する季節のハーブを選んでみました。自生するものは国によって、似ていても少し異なることがあります。
ニワトコは20種以上の種類がありますが、イギリスで主に見かけるのは「エルダー/ Elder」和名:セイヨウニワトコ・西洋接骨木/学名 : Sambucus nigraです。

elder flower
一方、日本に自生するのはニワトコ(接骨木・庭常:学名: Sambucus racemosa subsp. sieboldiana)別名セッコツボク(接骨木)や、ソクズ(蒴藋 :学名: Sambucus chinensis)、クサニワトコ(草接骨木)などですね。ニワトコの枝や幹はその名前からも想像できるように、古くから骨折の治療(外用)に使われてきました。
西洋のエルダーは、主にヨーロッパ、北アフリカ、西アジアで自生する種。近年では日本のハーブブームで海外から持ち込まれ、苗木を見かけることが多くなってきました。私の知り合い(=ハーブ好き)からも「育てているよ〜」と言う声も聞いております。(ハーブや他の植物の中には意図せず海外から持ち込まれた外来種も多くあります。)
そんなニワトコ。どこかで聞いたことが・・・? そうです、ハリーポッターに登場する「ニワトコの杖=Elder Wand」であります。
実はこのエルダー、はるか昔から妖精や魔女と関連付けられている木である他、キリストの十字架を作った木とされていたり、ユダが首を吊った木であったなどと、様々な伝説?と結びついている曰く付きの木でもあります。
非常に繁殖力が強いハーブでして、鳥の落とし物やこぼれ種からでも芽が出やすく、気がつけば庭の隅にエルダーが!という事もアルアルです。「抜いたり切ったら不吉」などと言われたりもするので、私はいつも戦々恐々として庭をパトロールしております。成長も早くあっという間に二階いや三階に届くくらいの高さにスクスク育っちゃいます。

elder tree
<エルダーの使い方>
イギリスでは現在、甘くてどこかフルーティーな香りがする「花=エルダーフラワー」が薬草として使用されています。葉や茎も薬草として使われてきましたが、現在は花がメインです。
エルダーのお花は早いところで5月初旬、遅いところでも中旬あたりから徐々に咲き始めてくれます。道路をぼーっと車で走っているとき、地上電車に乗っているとき、お庭がある近所を歩いているとき、あちこちで散房状の集散花序(Cymose corymb)の皿状に並ぶ、オフホワイトの花を見ることができます。(このコラムが掲載される時には一部の地域では既に旬が終わってしまっているかもですが。)

散房状の集散花序(Cymose corymb)。エルダーの花はこの形状です。

blooming elderflowers 道路脇のエルダー。華やかですよね。
►どんな効果を期待できるの?
昔から「呼吸器系の疾患に効く調剤」として期待され、利用されていました。花には抗カタル(粘膜の炎症を緩和する作用)、発汗作用、そして夏の終わりから秋にかけて生る実(エルダーベリー)には抗ウイルス、抗酸化、免疫賦活などの作用を期待できます。
花:抗カタル作用がある事から花粉症などをはじめとしたアレルギー性の鼻炎や呼吸器系のカタル症状、初期の風邪やインフルエンザのケアで大活躍してくれます。
実:ビタミンCが豊富な事から昔から風邪の予防や治療に利用されてきました。実はチンキ剤他シロップ剤として保存しておくのもと〜っても便利ですよ! (チンキ剤についてはまたどこかでその作り方をご紹介致しますね)

エルダーフラワー

鳥たちも大好きなエルダーベリー
►ハーブティーで飲む
この時期、花粉症の鼻炎に悩まれている方も多いと思いますが、エルダーフラワーのハーブティー(浸剤)をどうぞ。シングルハーブでも飲みやすいですが、ミント系の味がお好きな方であれば、ペパーミントをブレンドしたハーブティーなどお勧めですよー。(ちなみに初期の風邪症状:鼻水、微熱にも活躍します)
とっても安全なハーブなので子供から高齢者まで安心してお使いいただけます。フレッシュなものであれば、開花しているお花(花房一個ほど)をそのままちぎってお茶にします。お花を乾燥させたものであれば小匙一杯がハーブティー一杯分を作る目安となります。ハーブティーを作る際には「沸騰したての熱湯」でぜひ浸出させてくださいね!浸出時間は 3〜4分が目安になります。
また「チンキ剤/Tincture」として利用する方法もあります。剤型の違いや使い方については、また別の回でご紹介させていただきますね。

elderflower infusion エルダーフラワーから作る浸剤
►エルダーフラワーコーディアルは薬効があるの?
花は「Elderflower cordial/エルダーフラワーコーディアル」の材料としてご存知の方も多いと思います。
コーディアルを辞典で引きますと、アルコールが含まれないフルーツ風味の甘い飲み物などとも出てきますが、「活力を与える調剤」としての意味もあり「薬効」を目的として作られていた時代もあったんです。
現在はシロップなど嗜好品目的の商品が多いようですが(こちらは薬効は怪しい場合が多いけど)、季節のエルダーフラワーを採取し、使用する花を多めにして自家製コーディアルを作ると、薬効も期待できますよ!!

Elderflower cordial 簡単に作れます。

市販のコーディアル

エルダーフレーバーの嗜好飲料もイギリスでは沢山見かけます。
ちなみにバッカス/Bacchusというブドウの品種で作られたワインはイギリス人に人気ですが、「エルダーフラワーの芳香が漂うワイン」としても知られております。またエルダーフラワーを使ったワインも売られています。
チャンスがあればエルダーフラワーが咲く木の下で、バッカスワインや、エルダーフラワーワインを飲む(笑)という楽しみ方をされてみてはいかがでしょう。