前号の水分補給と同様に、毎日必要なデトックスの一環としてマスターしたいのは、健康的な便と便通。ということで、今回のトピックはお通じです。
あなたは健康的?
理想的な便通は「毎食約20分後(=毎日3回)」と習った記憶があります。また別の機会では「がんばらなくても出るシガー(葉巻)のような便で、紙がほとんどいらない状態が理想的」とも学びました。毎回食べ物が入ったら、出ていく分がないと、つじつまが合わないですよね。でも、そうではない人が多いのです。仕事でクライアントに、お通じの頻度と便の状態を必ず聞くのですが、毎食後と答えた人は、まだひとりもいません。毎日1回か、それ以下の人が圧倒的に多いのです。質問の内容が微妙なため、Bristol Stool Chart(ブリストル・スツール・チャート)という、便の状態を7種類の図にした表を使って、該当のものを指差してもらいます。便通が毎日1回〜時折2回と答える人は、だいたい健康的といわれるイラストを指差すのですが、それ以下の場合は、大半が便秘気味に該当。稀に逆の人がいると、IBSや、合わない食品に反応しているなどの理由で、不定期に下痢気味というパターン。なので、単純に毎日出るからいい状態とも限りません。
便の状態と健康
ブリストル・チャート以外にも、チェック事項があります。例えば、色やにおいなど。もちろん食べたものの色素も関係するので、ビートルートを食べると赤くなり、ほうれん草をたくさん食べた後には緑色っぽくなります。これらは、食べたものが出てくるまでに、何時間かかるかをチェックするのに有効。しかしながら、健康の状態によっては、食べ物に左右されず便の色やにおいが変わることもあります。以下ご参考までに(1):
緑:下痢などで食べたものが大腸を通過するのが早くなりすぎ、胆汁が十分に分解されなかった場合が考えられます。その他では、緑の野菜や緑の食品着色料(ドリンク・ミックスやアイス・キャンディ)、鉄サプリメントなど。
薄い色、白か粘土色:胆汁が足りない場合。胆のうが詰まっている可能性が考えられます。その他では、 痔の薬、下痢止めの薬など、特定の薬を大量処方した場合でも、便の色が白っぽくなるようです。
黄色、油っぽくて、悪臭:例えばセリアック病などで栄養素の吸収ができない場合、吸収されなかった脂肪分がそのまま便となって出ます。パンやシリアルなどに含まれるグルテンが原因。 本人の体調不良に関わらず、NHSでは 今のところ初期のセリアック病診断が不可能(=かなりひどい末期状態にならないと診断されない)。怪しいと思ったら早めに対処すべき症状なので、プライベートで最新の専門知識がある人にかかることをお勧めします。
黒:胃など、上部の消化管内での出血が考えられます。その他では、 鉄サプリメント、 痔の薬、黒のリコリスなどでも便が黒くなります。
鮮やかな赤:大腸や直腸などの下部消化管内、特に痔による出血が考えられます。その他では、赤の食品着色料、ビートルート、クランベリー、トマト・ジュースやスープ、赤のゼラチンやドリンク・ミックスなど。
*食べたものに関係なく赤や黒の便が出た場合には、速やかに医師のアドバイスを受けましょう。
理想的な便通は、なぜ大切
大腸内には各種の腸内細菌が住み、わたしたちの健康状態を大きく左右しています。彼らの健康状態は、わたしたちの食べる物などで大きく変わります。前述のブリストル・チャートで分けられている7つのタイプと、それぞれに多い腸内細菌の種類を研究したレポートによると、大腸がんの人は腸内の粘膜を弱くするタイプのバクテリアが多く、健康な人には善玉菌が繊維を分解する際の代謝物が多くみられるそう(2)。また下痢に近い便の状態では繁殖の早いバクテロイデスというタイプのバクテリアが多いとのこと(3)。善玉菌たちは、たまねぎなどに含まれるイヌリンと呼ばれるタイプの食物繊維が好物。これらの菌の繁殖状態は、便が大腸内に留まる時間の長さと水分と繊維摂取量に深い関係があるようです。
大腸は、消化の最終段階として水分と塩分を吸収し、からだの廃棄物を一時的に保管する場所。腸内細菌に加えて、便には体内から出て行く必要のある、毒素や使い古したホルモンなどが含まれます。出て行くべきタイミングで出ないと、からだはリサイクルできるものを再利用するため、毒素等がシステムに逆戻りしてしまいます。便秘気味の人に、ニキビなど肌の症状が見られるのはそのため。悪化が進むと大腸がんにもなり兼ねないので、2〜3日出ないのが普通という人は、改善を試みましょう。食品や環境の薬品汚染が進むなか、健康維持には毎日のお通じを含む、日頃からのデトックスは基本中の基本といえます。
現代人のライフスタイルと便秘やIBS
理想的な頻度がわかっても、毎食後となるとなかなか大変。例えば、会社勤めの場合、職場で落ち着いて出すというのは、みんなが簡単にできることではないと思います。ただし「入ったら出るのが基本」なので、自然の摂理に逆らって我慢するのは禁物。からだが出そうとしているところを抑えると、出したいと思うときに出にくくなります。
現代人の食生活は、繊維質が少ない炭水化物中心で、典型的な洋食だと繊維の摂取量は一日10〜15グラム足らず(4)。また、毎日うつむき気味に、職場ではコンピュータ、通勤中や自宅では携帯やタブレットに向かう人たちは、横隔膜を動かして、腹式呼吸(蠕動運動を刺激)するのが困難な状態。慌てて家を出るが故に、朝トイレにいくタイミングを逃して、その日は行けずじまい…という話も時折耳にします。そして、ストレスが積もると自律神経が乱れて、逆に不意打ちで下痢(IBS/D)になったりもします。大腸の動きは、大腸のみの問題ではなく、姿勢やからだの動き、神経の状態、そして水分と繊維質の摂取が大きく関わっています。
腸を整えるには
お通じが毎日ないという人は、まず水分と繊維質の摂取量をチェックしてみてください。水は基本的に一日1.5〜2リットル、繊維は水溶性と不溶性を合わせて一日30〜35グラムを目標にするといいと思います。十分な繊維を摂取していない人は、突然増やすと腸や腸内細菌たちがびっくりするので、最終目標量到達まで、毎週5グラム程度ずつ増やすことをお勧めします。摂取量がわからないという人は、こちらで数日分を記録してみてください。
頭の切り替えも大切
食べたものが出ていくまでの全行程を司る消化機能は、副交感神経の働きで促されます。例えば、ストレスで交感神経優位になると、胃酸などの分泌を抑えるので、食べたものの消化が困難な状態になり、胃が重くなったり、きりきりと痛んだりします。そのため、心配事やストレスをため込むと、脳と消化機能の接続切り替えがうまくできなくなり、体調不良の原因になりかねません。食事の時間は、まわりで起きていることから思考を切り離しましょう。食べ物に100%集中し、よく噛んで一口ずつ楽しむのが理想的です(いわゆるマインドフルネス・イーティング)。また、腹式呼吸も副交感神経や蠕動運動を刺激するので、日頃から横隔膜を動かして深く呼吸する癖をつけるのも、大いに有効だと思います。
毎日最低一回、できればそれ以上を目標にしましょう。
参照:
- Picco, MF. (2012). Stool color: When to worry. [Online] Available at: http://www.mayoclinic.org/stool-color/expert-answers/faq-20058080?p=1 (Accessed: 30 July 2016)
- Weir TL, manter DK, Sheffin AM, Barnett BA, Heuberger AL, et al. (2013). ‘Stool Microbiome and Metabolome Differences between Colorectal Cancer Patients and Healthy Adults’. PLoS ONE. 8(8): e70803. doi:10.1371/journal.pone.0070803
- Vandeputte D, Falony G, Vieira-Silva S, Tito RY, Joossens M, Raes Jeroen. (2015). ‘Stool consistency is strongly associated with gut microbiota richness and composition, enterotypes and bacterial growth rates’. Gut. Published Online First: [11 June 2015]. doi: 10.1136/gutjnl-2015-309618
- Murray MT, Pizzorno JE. (2012). The Encyclopedia of Natural Medicine. 3rd edn. New York: Atria Paperback. pp.452