015 | しあわせは、脳を鍛えることから!?

2


冬至が数週間先に迫り、暗〜いイギリスの冬が一層暗い今日この頃。前号でビタミンDの最適値を目指したなら、外が暗くても気分はすっきり元気なはず。基本の健康状態が整ってきたところで、今回はこころの健康、しあわせ度アップに欠かせない、脳と神経にフォーカスします。

 脳は司令塔

脳には、生命維持に欠かせない機能が多く備わっています。まだまだ未知の部分がたくさんあるようですが、感情や感覚、思考のプロセス、記憶のデータバンクなどの機能を備えています。脳からの指令を受けて、からだの機能をコントロールするのが、ホルモンと自律神経(1)。ホルモンは神経伝達より遅い速度で、特定の細胞にマッチしたホルモン・レセプターを介して、ターゲットとなる細胞レベルでの反応を促します。自律神経には、交感神経と副交感神経があり、この相異なる神経が微妙に入れ替わりながら、からだの機能を制御しています。ちなみに、交感神経は「Fight or Flight(敵に反撃するか、逃げるか)」で知られるストレス反応を司り、その反対にある副交感神経は、「Rest and Digest(休養と消化)」を司る神経として知られています。今回は、脳と自律神経にしぼりますが、この他には腸から脳へ働きかける腸神経系があります(なので、腸の健康はここでも大切!)。

 神経とストレスの関係

体調不良や病気は、ほとんどがストレスに起因するもの。脳は、命に関わるような危険な状況と、オフィスや自宅で毎日のように繰り返しやってくる、心理的ストレスとの違いが判断できません。そのどちらであっても、脳がストレスを感知すると、副腎から短期ではアドレナリン、長期でコーチソルといった、ストレス・ホルモンを分泌するよう指令を送ります。その間、からだは交感神経優位となって、緊急時に対処するための機能が働きます(2)。ちなみに、電磁波や薬品による環境汚染も、心的ストレスとは違った経路で心身とものストレス反応を引き起こします。また、心拍数の上がるような運動をしている時にも、からだは交感神経優位の状態となって、運動に合わせた代謝機能を維持します。
ここで取りあげたいのが、日常レベルでやってくる心理的なストレス。
交感神経はある程度必要ですが、食事や睡眠時間には副交感神経優位になる必要があります。日々のストレスや緊張感も適度を過ぎると、神経スイッチの切り替えが正常に働かなくなります。消化不良に始まり、ホルモンの崩れで起床時から疲れていたり、疲れきっているにもかかわらず寝つきが悪く、夜中に目が覚めたりするのは、典型的な例といえるでしょう。

頭の整理には、優先順位リスト作成も有効。

頭の整理には、優先順位リスト作成も有効。

 思考回路とストレス

そして、その神経系を操るのが、脳。簡単に説明すると、自分の感情・思考を含めて、脳がキャッチした情報はまず前頭連合野にインプットされます。その情報は、海馬と呼ばれる部分でイベントとして記憶され、恐怖に関する情報(ストレスや心配事も含む)が、感情との繋がりはなく、決して忘れることのない記憶として扁桃核と呼ばれる部分に登録されます(3)。同じプロセスを通過するたびに神経細胞が刺激され、回数を重ねるうちに、神経の回路が形成されると考えてください。例えば、荒野の中を何度も車で行き来するうちに、タイヤの跡が残って、目的地到着が簡単で早くなるようなもの。ストレスに対するリアクションも、毎回ストレスに反応しているうちに、ほんの些細なことでも瞬時に過剰反応するようになってしまいます。ストレス反応の連続は、脳神経細胞の健康な成長を妨げ、神経の老化を促進します(4)。しかも、脳にダメージを与えるだけでなく、からだ全体が増幅されたストレス反応の被害を被ることにもなります。我が身を振り返れば、かつてオフィス勤めだった頃の自分が、まさにこの状態でした。心当たりのある人は、今日からさっそく脳のトレーニングに励んでいただきたいものです。

 ストレス対策&脳のトレーニング

上記を合わせると、日頃のストレスにどう対処するのかが、しあわせ度と健康度を左右する大きな分かれ目になるといえます。前述のとおり、主に脳がからだの機能をコントロールするため、日常の心的ストレスは、受けとめ方を変えるだけで、脳を痛める神経回路の溝をさらに深く掘ることはなくなるのです。わたしが日頃こころがけていることで、クライアントにもお勧めしているのは、①腹式の深呼吸、②正しい質問を投げかけること、そして③「現在」にしっかり根を張ることの3つ。
①腹式呼吸
横隔膜を動かすことが、副交感神経の誘導を促すといわれています。肺全体を使った呼吸で、酸素の吸入量と二酸化炭素の排出量が最大になると同時に、姿勢を正せば、前向きな態度を作るのにも好都合になります。姿勢に関する話は、数年前話題になった心理学研究者、エイミー・カディのテッド・トーク(こちら)がおもしろいと思うので、英語でも大丈夫な方はぜひ見てみてください。
②正しい質問を投げかける
ストレスと思う状況に直面した場合、常に投げかけたい質問が「この状況に、心身の平穏を乱されるほどの価値があるのか?」「この状況から何が学べるのか?」「どうすればこの状況をとおして、さらに成長できるか?」などなど。進展性がないので、間違っても「なぜ?」といった類の質問をしないこと。また、自分が理想とする「わたし」なら一体どう対処したかを考えてみることも有効です。何にしても、自動的にストレス・モードに入る前に、意識を切り替える一瞬の隙間を作ることが、脳トレーニングの大切な要素となります。すぐにはタイミングがつかめないかもしれませんが、まずは深呼吸から入って、根気よく挑戦すれば、前向きで健康的な新しい思考回路を作ることは可能です。
③「現在」にしっかり根を張る
脳の環境強化を図るなら、まず過去や未来に住むのをやめること。現在の仕事をとおして、意識が特に未来に住んで不必要にストレス度を上げている人が、多いことに気付きました。マインドフルネスや瞑想は、扁桃核を休め、脳神経細胞の修復に効果的(4)なので、毎日数分でも実践するのが理想的です。将来の計画は人生の有効なナビゲーターになりえますが、意識が未来に集中しすぎると、将来への不安がさらな先々の心配事を連れてくることになりかねません。考えすぎから、不安症を患い、安定剤のお世話になっている人も少なくないようです。午後のティータイムで、脳を数分休めるのも、神経のスイッチ切り替えには大いに有効です。毎日可能な限り「現在」に100%存在することは、生きている限り最も大切なことかもしれません。エックハルト・トール著「パワー・オブ・ナウ」の実践版などが、役に立つと思います。

心の栄養剤

そして、さらなるしあわせ度アップに欠かせないのが、こころの栄養剤。就寝前には、その日に起きた嬉しいことやありがたく思ったことを、3つリストアップするのがお勧めです。しあわせに思うことが、脳やこころの栄養剤になると同時に、神経を休めて眠りの質向上につながるはず。

脳を守る思考回路作りのトレーニングが、なぜしあわせ度アップに必要なのか、おわかりいただけたでしょうか? 何であっても、一旦癖になったものを変えるには、時間がかかります。今日や明日には実現しませんが、よりしあわせな人生を目指すなら、根気よく取り組むだけの価値は大いにあるでしょう。

 

参照:

  1. Watts, C. (2014). Addressing Anxiety and Stress States via the Gut – Part 1. [CAM conference: Gut/Brain Axis] 8 November.
  2. Murray, MT & Pizzorno J. (2012). The Encyclopedia of Natural Medicine. 3rd edn. New York: Atria Paperback. pp.209
  3. Lebentz, L. (2016). Sugar, Inflammation, Stress: How to treat your ‘addicted’ clients. [CAM conference: Nutrition resolution: breaking the cycle of stress and chronic inflammation.] 5 November.
  4. Opacka-Juffry, J, (2016). Brain Responses to Stress; Early Life Stress and its Long-Term Effects. [CAM conference: Nutrition resolution: breaking the cycle of stress and chronic inflammation.] 5 November.
  5. Taren AA, et al. (2015). Mindfulness meditation training alters stress-related amygdala resting state function connectivity: a randomized controlled trial. Soc Cogn Affect Neurosci. Dec;10(12):1758-68. doi: 10.1093/scan/nsv066.
Share.

About Author

大阪府出身、1996年よりロンドン在住。ナチュロパス、ファンクショナル・メディスン・プラクティショナー、ニュートリショナル・セラピスト(mCMA, mBANT, CNHCreg, CFMP)。ハックニー地区にあるコンプリメンタリー・ヘルス・クリニックと並行して、オンライン・クリニックでも活動中。好きなこと:健康的でおいしいものを作って食べること、ナチュラル・ヘルス・フード・ストアでヒット商品を探すこと。好きな色:ピンク紫(夕暮れ時の空の色とか)。好きな言葉:(実現の状態を)見る前に信じること(”You’ll see it when you believe it.” by Wayne Dyer)。

2件のコメント

  1. 徳永 ゆり子 on

    やんぬさん、はじめまして。
    コメントどうもありがとうございます!レスが随分遅くなって申し訳ないです。。。
    内容が結構オタク的なので、どうかな〜?なんて思ったりもしていたところ、感激です。:-)
    アメリカにお住まいなんですね。ビタミンDは体内にある程度貯めることができるので、日光の少ない時期に赤道近くが地球の反対側に行き、太陽いっぱいのホリデーで蓄えるという手もあります。でも、そう簡単にはいかない話ですよね。一度レベルを調べて、もし低めであれば(レンジ内でも)、秋から春の間だけでもD3サプリメントで様子をみてはいかがでしょう?また、日光が少ない時期にはSAD(Seasonal Affective Disorder)で気分が沈むこともあります。その場合は、専用のライトで改善できると思います。
    その他では、ストレスと腸内環境が大きく影響する部分でしょうか。。。
    いろいろと角度を変えて関連の内容をカバーすると思うので、今後ともどうぞよろしくお願いします!

  2. ゆり子さん、はじめまして(^o^)
    前回のビタミンDのお話しに加え、今回の思考についてのお話しも、とても為になりました。
    現在、アメリカの寒い地域に住んでいるため、冬は家に籠もりがちになっています。陽に当たらないせいか気持ちが俯きやすくなるので、今回のお話しはすごく参考になりました。
    これからも、ゆり子さんの記事を生活に役立てていこうと思います。ありがとうございました♪

Leave A Reply

CAPTCHA