第9話 モノはなぜ増える? Part1

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Chapter1.9
モノはなぜ増える? Part1

なぜモノが増えるのか。表面上の理由はとっても簡単です。

モノがどんどん入ってくるから。そしてモノが出て行く量より、入ってくる量の方が多いから 。…なんだかダイエットの話をしているみたいですけれど。

私たちは祖父母や親世代から「もったいない」「モノを大切にしよう」という教え受け育ってきた一方、これまでにないほどモノが溢れる時代に生きています。
つまり「もっといいモノ・素敵な生活・最新のモノを手に入れよう!」=「じゃんじゃん買おう!」というメッセージも同時に刷り込まれているのです。
広告や雑誌やカタログのコピーを翻訳してみると、どんなに華やかだったりユーモアあふれる謳い文句でも、 つまりはこういったメッセージに落ち着きます。

この2つの相反するメッセージの中で育った私たちは、モノをどんどん手に入れる一方で、もう必要なくなったモノであっても処分するのはなんだか悪いような気がしてそのままとっておくようになります。モノを買いにいったり、その代金を手に入れるための仕事に忙しく、片付けや不要な物を見極める時間がないという事情もあるでしょう。

モノはまた、豊かさの象徴でもあります。新しいモノ、よりよいモノを手に入れるのは嬉しいし達成感もあるし、自分の生活が向上した気がします。

この商品を買うことができるだけの財力がある、手に入れる権利がある!と誇らしく感じたり、自分にはそれをプレゼントされるだけの価値がある、と思うことができます。

つまり「モノを手に入れる=幸せや豊かさを手に入れる」という考えです。

もう1つモノが増える原因には、昔に比べモノの値段が安くなったこともあげられます。

歴史研究家のイブ・フィッシャーという人が、18世紀半ばに1枚のシャツがどれぐらい価値があったのかというのを当時の労働賃金を基準に割り出したところ、なんと現在の2000ポンド(約28万円)に相当することが分かったそう。

産業革命以前の話なので衣類は手作りが基本だったでしょうから、実際にお店で現在の2000ポンドに相当する当時のお金で売られていたのかどうかはともかく、王侯貴族でもない限り1枚のシャツだって大変な貴重品。あちこちお直ししながら家族代々大切に着なくてはいけないものだったことがわかりますね。捨てるなんてとんでもない。

今の時代はありがたいことに1枚のシャツを手に入れるのはもっと簡単です。昔に比べると、服一着の価値がどんどん下がってきている。だから買おうと思えばどんどん買えてしまう。(註)
これは服でなくても同じことが言えると思います。

90年代と現在を比較しても、人々が衣類を購入する数は増えているのにも関わらず、収入に占める割合は減っているのだそうです。ファストファッションやオンラインストアの普及も大きいでしょう。

食べ物が少なく、もし手に入ったらたらふく食べて次の飢餓に備えなくてはいけない時代は遠い昔。でも、ヒトはなぜか必要以上に食べてしまい、その結果として肥満や成人病に苦しむ。
そんな状況に似ています。

(註)モノの金銭的価値が下がったということは、買うのも楽になったけど処分するのも楽(気楽?)になったともいえます。そして安くモノが買えるようになったことはとてもありがたいことですが、その背景には過酷な労働環境に甘んじなくてはいけない人たちの存在や、環境破壊といった問題が横たわっています。

 

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写真家&ライター。東京で広告制作・編集と撮影の仕事を経て2003年渡英。フリーランスで活動中のアーティスト。ロンドンをベースにアーティストや作家をモデルにした絵画的なテイストを持つポートレート制作などを行う。英国をベースとしたエキシビションを開催。日常系ミニマリズム研究家。「あぶそる〜とロンドン」編集長、江國まゆ氏と共に2018年に『ロンドンでしたい100のこと(自由国民社)』(執筆&撮影)、そして2020年には『レス・イズ・モア 夢見るミニマリストでいこう。』を出版。

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