第25話 フォーモーとせんたくし症候群①

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Chapter 3.7
フォーモーとせんたくし症候群①

この時代に生まれてきてよかったなあ〜って思います。

世界中の情報がすぐ手に入るし、直接会えなくてもSNSでみんなとコミュニケーションがとれちゃう。長く日本を離れていても、以前のような距離を感じなくなりました。

オンラインでなんでも注文できちゃうし、家事はどんどん簡単になっていくし、リモコンひとつで何でも視聴可能だし、学校に縛られなくてもオンラインでどんどん学ぶことができるのも嬉しい。

でも、便利だからこその弊害みたいなものもあって。たとえばインフルエンザならぬ「アフルエンザ(※)」のように、社会現象として取り上げられるような新しい問題も生まれました。これは、裕福な家庭に育った若者たちに顕著になってきた、飲酒や薬物乱用・窃盗などの自暴自棄な行為にのめり込む現象のこと。

物質的にとても豊かで、便利で、何でも選び放題でハッピーなはずなのに、なぜかそれが毒として働くことがある。こういった現象はミニマリズムにも深く関わってくるので、私としてはとっても気になるテーマです。

英国で暮らしていてよく耳にするのは、常にスマホで情報をチェックしなくては気が済まない「フォーモー(FOMO=Fear of Missing Out)」。という言葉。「取り残されるのが怖い」「自分だけ重大な情報を見逃すのが怖い」という不安に駆り立てられてしまうインターネットやSNS依存症のことです。

暇つぶしにSNSのページをチェックしていたら友だちや知り合いの素敵なランチ風景やホリデーの様子、楽しそうな自撮り写真が投稿されていて何とな〜く焦る。

多くの人が自分の「見てほしい生活」だけを選んで投稿しているのだから良く見えて当たり前なのに取り残され感が残る。

自分が楽しいから、面白いと思ったからその出来事やトピックを分かち合いたいというよりも「楽しそう、幸せそうって思われたい」という気持ちから投稿せずにいられない。

そして、こういった投稿を見ることで不安をあおられているのにも関わらず、「他にもっと何かないかぁー」スマホを延々とスクロールし続ける。

メッセージもすぐ返したり帰ってこないと気が済まない。すぐ返事をしないといじめられたり、返事がないとひどい不安に襲われる。

ニュースやメールのお知らせも即座にチェックせずにはいられない。エスカレートすると、たとえデート中でも目の前にいる相手を無視してスマホに釘付けになったり、引きこもりやうつ状態に陥ることもあるのだそう。

最近ではこのフレーズがあまり普及しすぎて、プロモーション用メールの件名などに「FOMO Alert!(=見逃し注意報!)」といった見出しがつくこともあります。何とも皮肉なことですね。

日本にもありますが、英国でもアルコールや薬物中毒と同様のセラピーや更正施設が登場して、スマホを取り上げられた若者が「(空いた)自分の手で一体何をしたらいいか分からない!」と悲痛な声をあげたという、あまり笑えない話を聞いたことも。

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そこまでひどくはないとしても、もし不安で落ち着かない気持ちになったらどうしましょう。

私ならこうします。思い切って電源を切って、スマホを鞄に放り込む。
どうしてもチェックしないと収まらないなら、たとえば1日に○回、○分だけと回数と時間を決めてみる。
ないと困るって信じているかもしれないけど、そんな気がしているだけ。ほんとうに必要な時はそれほど多くありません。

いっそのことアプリを削除したり、家にスマホを置いてきたっていいと思います。わざわざ不安な気持ちになる必要なんてない。それよりも今、自分も含めてその場にいる人に注目して、大切にしてあげてくださいね。

…電源を切るなんて、そんな恐ろしいことできない?
たかがケータイごとき、しばらく放っておいたって世の中が終わることはありませんよ〜!

さて次回は、私がFOMOよりさらに気になっている病気「せんたくし症候群」いついて書いてみたいと思います。

※アフルエンザについて<解説>

1)米国では裕福な家庭に育った若者たちが薬物乱用・窃盗など自暴自棄な行動にのめり込む現象が増え、「豊かさ病・金持ち病(アフルエンザ:富裕を意味する「アフルエンス」と「インフルエンザ」を掛け合わせた言葉)」と呼ばれるようになりました。飲酒運転で死亡事故を起こした若者が「アフルエンザ」のせいだと弁護されたことでこのフレーズが話題になったという経緯があります。
<ニュース記事をご覧になりたい方はこちら・日本語>
http://jp.reuters.com/article/column-affluenza-us-idJPKCN0UQ07Q20160112
2)アフルエンザについて詳しく知りたい方は、米国の消費中毒の心理を探ったジョン・デ・グラーフ氏の『消費伝染病「アフルエンザ」ーなぜそんなに「物」を買うのか (Affluenza: How Overconsumption Is Killing Us and How to Fight Back)』を読んでみてくださいね。
3)ソフィア・コッポラ監督による、現実に起きた事件をもとにした2013年映画『ブリングリング』(エマ・ワトソンほか出演)も、アフルエンザに冒された若者たちの物語としてとっても興味深い作品。物質的には豊かなのに恐ろしいほど絶望し、孤独で壊れている。そんなあやうい感じを的確に描き出しています。
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写真家&ライター。東京で広告制作・編集と撮影の仕事を経て2003年渡英。フリーランスで活動中のアーティスト。ロンドンをベースにアーティストや作家をモデルにした絵画的なテイストを持つポートレート制作などを行う。英国をベースとしたエキシビションを開催。日常系ミニマリズム研究家。「あぶそる〜とロンドン」編集長、江國まゆ氏と共に2018年に『ロンドンでしたい100のこと(自由国民社)』(執筆&撮影)、そして2020年には『レス・イズ・モア 夢見るミニマリストでいこう。』を出版。

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2件のコメント

  1. そうなんですよね。情報もモノもある程度カットしないと収拾がつかなくなってしまうんだと思います。
    でも、次々やって来るから考えるヒマすらなくなったりするんですよね。

  2. アバター画像

    今回の記事、ものすごく共感です!! ほんとにそう思います。情報過多は考えもの。自分に必要な情報だけでいいのにね ^^

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