鎌倉の英国アンティーク博物館に「ラストルーム」ができるまで

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文化の秋がやってまいりましたね♪
今回はまりこラベンダージョーンズさんの記事でも紹介されている、鎌倉の「英国アンティーク博物館」のオープン舞台裏についてご紹介します。

鶴岡八幡宮から徒歩1分、若宮大路沿いに誕生した「英国アンティーク博物館」こと「BAM鎌倉」。
鎌倉彫をモチーフにした建築デザインは、スコットランドのV&Aミュージアムも手掛けた世界的な建築家・隈研吾さんの手によるもの。職人技と歴史というキーワードで「武家の古都・鎌倉」と「英国アンティーク」をみごとに結んでいます。

そして館内には館長の土橋正臣さんが長年かけて収集した、珠玉の英国アンティークの数々が展示されています。

1階から4階まで、フロア&部屋ごとにテーマが分かれているのですが、訪れた方はその一角にうず高く積まれた古い靴の木型に気づかれるかもしれません。

これは英国王室御用達「ロイヤルワラント」を持つ靴メーカーの老舗「ジョン・ロブ(John Lobb)」から譲り受けた本物のラスト(木型)たち。
この展示、実はもともと計画していたものではなく、様々な偶然が重なって生まれたのです。

ことの始まりは、しばらく前にジョン・ロブ工房にお招きをいただき、靴作りの工程を撮影させていただいたこと。靴作りについて全く無知の私でしたが、ビスポーク靴の最高峰ジョン・ロブ の究極の履き心地はまず「ラスト」作りから始まるということを教えていただきました。

「ラスト」というのはオーダーメイドのお客さんの足を細かく採寸した後、木を削り足型にしたもので、このラストをもとにレザーを切り靴を作っていきます。靴のお手入れに使うシューキーパーと見た目は似ているけど用途は全く違います。

ラスト=靴のベースとなる木型を作っています。(写真:ネモロバーツ)

海外からはるばるやってくることも多いセレブなお客さん達を煩わせることがないよう、採寸したらラストを作り、靴が仕上がるまでフィッティングはなし。
技術に自信があるからこそできることですね。

靴が完成したら、ラストは次のオーダーが来るまで「ラスト・ルーム(木型保管室)」で何十年も大切に保管されます。
地下にある保管室の中に入ると、床から天井までびっしりと積まれたラストの山に圧倒されました。

華やかなロンドン中心地の地下に、こんな場所があるなんて。

ご本家のラスト・ルームの一部。こちらはまだ現役で待機中。(写真:ネモロバーツ)

そして今年、博物館のオープン準備に館長さんが渡英されることになりました。以前からちょこちょこ博物館関連のお手伝いをしていたご縁もあり「ジョン・ロブを見学しに行きませんか」とお誘いして久々に工房へ。すると当日、ラスト・ルームに保存期間を過ぎたラストが数百足も眠っていることが分かったのです。

なんという幸運!

さっそく「ラストを鎌倉に運ぼう」プロジェクトが始まりました。

色んななりゆきを経て、工房からGoサインが出たのが博物館オープンの約3週間前。猛スピードで全てのラストを引き上げ、日本に送りました。

カウント&箱詰め作業中。重い…!

そして館長さんの抜群のセンスが惜しみなく発揮された「ジョン・ロブ」 コーナーの展示が完成。アンティークの棚や家具とともに木型が積まれたラスト・ルームを再現することができたのです。

ちなみに、セントジェームズ宮殿のそばにあるジョン・ロブの本工房には、ビクトリア女王(!)をはじめとする英国王室メンバーを始め、世界各国の王族、そしてフランク・シナトラや、ピーター・オトゥール、キャサリン・ヘプバーンなどの世界的スターのラストが今も大事に保管されていました。

微力ながらミュージアム設立に関わってみて、モノも人も不思議な巡り合わせで今ここにあるのだなという気持ちを強く味わった今回のなりゆき。

最初にジョン・ロブ工房にお招きをいただいたのも、再訪した時に保存期間を過ぎたラストを整理していたのも、博物館を作っているご本人がそこに居合わせたのも全て偶然。
運命の巡り合わせってすごい。

アンティークは製造されてから100年以上経過したものを指します。
どんな人の手で作られ、どんな人の手に渡り、どんな旅をしてきたのか。そしてなぜ今、ここにあるのか。
クラシックな英国気分に浸ることができるだけでなく、そんなことを考えさせてくれる鎌倉の素敵なミュージアムです。

ぜひ遊びに行ってみてくださいね。

BAM鎌倉の館内写真:博物館提供

※余談ですが、ミュージアム3階の「シャーロックホームズの部屋」のため「アンティークのベッドシーツを使うなら、どこ製が一番ふさわしい?」と、シャーロック・ホームズ協会やリネン博物館の方にいろいろ教えていただいたのも楽しい体験でした。 

原作者アーサー・コナン・ドイルも考えていなかったディテールへのこだわり(笑)。

架空の人物ですから、小説に描かれていない限り「正解」はない訳ですが「時代背景からして○○製じゃないか?」と色んな意見をいただき、だんだんシャーロック・ホームズが実在の人のように思えてきましたよ。

英国アンティーク博物館
www.bam-kamakura.com
神奈川県鎌倉市雪ノ下1-11-4-1

開館:火〜日 10時〜17時(最終入館 16時30分)
休館:毎週月曜(祝日の場合は開館、翌日閉館)
料金:大人 1,300円 中学・高校生 1,000円 小学生 500円 幼児無料

「隈研吾 鎌倉に小さな英国アンティーク博物館をつくる訳」隈研吾監修 土橋正臣著
https://amzn.to/3duUjdd

 

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About Author

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写真家&ライター。東京で広告制作・編集と撮影の仕事を経て2003年渡英。フリーランスで活動中のアーティスト。ロンドンをベースにアーティストや作家をモデルにした絵画的なテイストを持つポートレート制作などを行う。英国をベースとしたエキシビションを開催。日常系ミニマリズム研究家。「あぶそる〜とロンドン」編集長、江國まゆ氏と共に2018年に『ロンドンでしたい100のこと(自由国民社)』(執筆&撮影)、そして2020年には『レス・イズ・モア 夢見るミニマリストでいこう。』を出版。

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