「やめられない、とまらない」ディヴィッド・ベッカムの場合

0


Netflixは去年7月に元イングランド・フットボールチームのキャプテン、ディヴィッド・ベッカムのドキュメンタリー制作を発表した。このフィルムでベッカムは、彼のOCD(強迫性障害)がフットボール選手人生そしてプライベートライフにどの様に関わってきたかを公開するらしいよ。

OCD(Obsessive-compulsive disorder)という病状をご存知だろうか? 強迫症・強迫性障害とは、度を越えて繰り返される思考や行為に悩まされること。例えば、ガスの火を消しただろうかとか、家の中全てが完璧にいつも同じ方向できちんと揃えられているかなど。この程度は経験してる人多いと思う。私もどっちかというとそういう傾向があるかも。OCDは病的なまでに不安になって同じ行為を繰り返す。やめたくてもやめられない、日常生活が崩壊してしまう、若しくはその寸前の人達である。
英国では、現在50人に1人の割合で、約100万人患者がいるのだそうだ。

カメラクルーがベッカムの自宅に訪問した時、超クリーンな事にとても驚かされそうだ。もう想像以上だったに違いない。ディヴィッドは家族が寝静まってからキッチンの掃除と片付けを始めるのだそうだ。キャンドルホルダーの内側の煤を拭いてキャンドルの高さを整えたり、冷蔵庫の中のペプシコーラ缶の方向を合わせ数を数えてきちんと整列させ、足りなければ補充をしたりね。妻のヴィクトリア・ベッカム(元スパイス・ガールズでファッションデザイナー)は「彼は、ほんと、完璧なのよねぇ。」とため息混じり。

ディヴィッドは過去にもテレビのインタビューで、自身のOCDの事を語っている。どこにいても洋服の枚数を数えたり(偶数でないといけないらしい)、本や雑誌を左右対称にきちっと整頓したりしないと気が済まないのだそうだ。こんなセレブカップルでも、根本的な日々の営みは我々庶民と、そうかけ離れているわけではないのかもしれないな。お父さんがいつも家の中でセカセカ掃除や片付けをやってる横で、落ち着くことなんかできないだろうなぁ。他にも、彼が全身にタトゥーを彫っているのも、痛みに対して中毒になっているからだという。

私の世代では、ディヴィッド・ベッカムと言えば1998年のW杯でペナルティキックを決められず、イングランドチームのプリンスから真っ逆さまに悪者にされっちゃった人。かなり前にドキュメンタリーで、スパイス・ガールズのワールドツアー中だったヴィクトリアのもとへ、試合後直行でフランス会場からしばらく身を隠すため逃げる様にニューヨークまで飛んでいく映像を見たことある。当時イギリス国内では、誰もノックアウトステージで消えてしまうなんて思ってもいず、BBCのフットボール冠番組「Match of the Day」でも司会者や解説者が、声も出ず狼狽えていたのを思い出したよ。たった20代で国中から非難を受け止めるのは、容易いことでは無いと想像できる。元々持っていた彼の気質に加えこんな大きなストレスに若くして晒されたら、そりゃしょうがないよな、と思うのである。

そうなのよね、生きるってとてもストレスフル。はぁ〜。だって今の世の中、不安で満ち溢れているものね。あ、前置きが長くなってしまい、失礼しました。

ちょっと調べてみたら、OCDの有名人は結構いるのね。ディヴィッド・ベッカムの他にも、レオナルド・ディカプリオ、ニコラス・ケイジ、ダニエル・ラドクリフ、キャメロン・ディアスなど。

ここで取り上げたいのは、科学者たち。古くは16世紀、マーティン・ルーサー(Martin Luther :ドイツ人作曲家、宗教家)、アイザック・ニュートン(Isaac Newton :微積分法やニュートン力学の発見)マリー・キュリー(Marie Curie : 女性初のノーベル賞受賞者でラジウムを発見)、ニコラ・テスラ(Nikola Tesla :交流電流の発電装置を発明)、アインシュタイン、ジョン・ナッシュ(John Nash :ノーベル経済学賞の数学者)そしてマイクロソフト社の創立者ビル・ゲイツと、例を挙げればきりがないようだ。

皆に共通する日常的な行動は、とにかく本や書類の徹底した整理整頓。1ミリでもずれていたらたらまたやり直し。掃除にも何時間もかけたりする。手洗いも1日に何度も異常なほどする。そして、ほどんどの人に共通するのは、Loner。つまりぼっち。ひとり時間がとても大切。HSP(繊細さん)なのかもしれない。これらの行動は、不安を回避するために取る行動なのだそうだ。これじゃぁ本人、毎日ヘトヘトだよね。

彼/彼女らの偉大な業績の陰にはこの、逃れることが出来ない強迫観念との戦いの日々だったのでしょう。ジョン・ナッシュが統合失調症と共に生きる様子が、彼の伝記映画「ビューティフル・マインド」(A Beautiful Mind :ロン・ハワード監督 2001年)で垣間見ることができる。でもさ、現実的にOCDゆえにこれらの功績を残すことができたと言っても過言ではないと思うのよ。今の私たちの社会の発展があるのも彼らのお陰なのだ。リスペクト。

学習障害や発達障害で日々ヘトヘトのあなた。生きづらいよね。わかるよ、とっても。そういう私は、生きづらさ故、日本を出た一人。
ちょっとでもいいから自分が出来ること考えてみて。それが自分の良いところって思うようにしてみるのもいいよね。

私は常々「他人にとって簡単に出来る事は、私には努力が必要。でも他人が努力してもなかなか出来ない事は、意外に自然と出来てるのよね、不思議と。」と感じているのである。そう、それが私の本来の特性。冷静に考えれば皆同じであるわけないヨゥ。他人にばかり目を向けていたんだね、私。

想像力を使って創造力を養っていく。きっとこれが偉大な先人が通ってきたプロセスなのかも知れない。

Share.

About Author

アバター画像

鳥取県出身。芸術家、通訳者。日本、米国、ジャマイカ生活を経てロンドン暮らし、ほぼ30年。国内外で旅行、広告会社勤務の後、ロンドンで子育てをしながらアートの学士と修士号を取得。芸術活動、通訳、講師の傍、大学院でネパール行きの奨学金を賞与されたのをきっかけに、社会的企業「Studio23」を2008年に立ち上げ、ネパール山岳地帯の伝統テキスタイルの持続と環境保護の活動をしている。ここ5〜6年はチベット仏教と瞑想を通して、身体で感じる世界を模索中。

ウェブサイト ブログ

Leave A Reply

CAPTCHA