Gen Z – 図書館の使い方

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イギリスの冬は、暗くて長い。昨今の物価高騰で暖房費節約、ケチケチモードの私。昼間、家で出来る仕事は、図書館でする事が多い。

私は、小学生の頃から図書館や本屋にいると何故か心が落ち着いた。ロンドンにある大英図書館は、私の大好きな場所の一つ。大英図書館ではイギリス、アイルランドで出版されたすべての図書が保管されていて、街の公営図書館とは違い、閲覧のみとなっている。

本棚に置いてある本は一般的な参考資料なので手に取って閲覧は出来るのだけれど、蔵書を閲覧するには登録されたパスが必要になる。それには閲覧室へ入り、あらかじめリクエストしてある本を受け取って、席に着いて閲覧することになる。しかし無料で使えるデスクスペースも多いので、いつも学生のみならずフリーランスや色々な人がそれぞれの作業をしている、静かだけど賑やかなスペースなの。

館内には手頃なカフェもあり、北への玄関口キングス・クロス駅と、ヨーロッパへ繋がるセント・パンクラス駅からも近く、列車の時間まで少し余裕がある時やロンドンでちょっと時間を潰したい時など無料のロッカーに荷物を入れて、お茶でもしながら休憩できるお勧めスポットです。

図書館といえば、先日の新聞記事によると、Z世代にとって図書館は今や聖地になっているという。Z世代(1997年~2012年生まれ)は、9・11テロの記憶がなく、アフガニスタンとイラクでの戦争を知らずリーマンショックの直接的影響を受けなかった世代で、インターネットコミュニティーの中で育った世代。

彼らの間で2015年ぐらいからアメリカのSNSで “ダーク・アカデミア” と名付けられた美学が拡がり始め、今やサブカルチャーとして浸透しているのだそうだ。ダーク・アカデミアは19世紀から20世紀初頭の古典的ヨーロッパの大学や文化を意識的に美化したエスセティック(インターネット用語では、雰囲気を意味する。)、耽美主義に近いと私は思う。ハリーポッターに出てくるホグワーツ魔法魔術学校のような雰囲気といえばわかりやすいかも知れない。

記事では、発祥の地アメリカの若者の例を取り上げていた。20歳の大学生ヘンリーは大学の図書館へ出かける前に、Pinterestでダークア・カデミアを検索し、ざっくりとしたニットを着て使用感満載の古典の本を片手に持ち出かけた。見た目は英国の由緒ある大学の教授のようなファッションだ。彼は図書館を新しい出会いの場としても活用しているのだ。

全米図書館協会の2022年の統計によると、図書館を利用する人の年齢はZ世代とミレニアルズ(1980-1990年代半ば生まれ)を合わせた合計は、その上の世代を上回って訪れているとのことだ。ただ、そのうち43%は読書をしに来ているのではないとある。特にデジタル・ネイティブ達(1990−2000年代生まれ)はコロナ禍で学校も閉鎖され、孤独を味わった世代で今や彼らにとって、図書館は社会活動の場、何か面白いことが起こる場なのである。本を読んだりするだけでなく音楽も作ったりビデオの編集をしたりと、図書館は一人の時間を過ごすスペースでありながらコミュニティを構築できる場所になっているのだ。

ヘンリー曰く「カフェはいつも混んでいて、飲み物を買わねばならないしね。それにSNSでは電子書籍はいい小道具にはならないもんな。」

確かに。と納得する私。そして、今や読書は一人でするものじゃなくて集まってするものになっている。28歳のトムはニューヨークを拠点にしたバーで “読書パーティー” イベントを運営している。参加者は参加費を支払い、アンビエントな音楽をDJが流す中、各々持参した本を読んだりして、各々くつろぐのだそうだ。

「その本、今度読もうと思うけど、どんな感じ?」「お薦めよ。」

てな感じで、知らない同志も打ち解けるんだろうなぁ。

若者の本離れなんて、以前聞いたことあるけど、どうやらZ達、満更そうでもなさそう。読後の感想やオススメの本をSNSで紹介するものがフォロアー数を伸ばしているのがとても嬉しい。これもいつかは廃れる流行りなのかもしれないけど、10~20代に出会った本は一生ものだよね。

かつて私は、毎晩就寝前のベッドで小一時間は本を読んでいたのに、今や老眼が進んでしまい、残念な事に紙の本から遠ざかってしまっている。そういう私は、X世代(1965~1981年生まれ)。電子書籍だと照明を落とした環境でも、文字を拡大して読むことが出来るので助かるなぁ、なんて思う時もあるのだけれど。本屋さんでページを捲る音をバックグラウンドミュージックに、紙の手触りを感じながら立ち読みをしている時間って、なんだかほっこりする。文章が身体に吸収されていく瞬間というのかな。いくらデジタル化が進んでも、身体を持っている我々は、それをフルに使って初めて生きていると実感できるのではないのかとさえ思ってしまう。音楽を聴くことと一緒だな。

次の小春日和には、本を持って公園で読んでみようかな、と目を瞑ってみる。目をあけると、隣の人のキーボードを叩く音をバックグラウンドに画面をスクロールしている自分がいた。

 

*大英図書館
www.bl.uk

*お薦めのロンドン独立系本屋さん

London Review of Bookshop
www.lrb.co.uk

libreria
www.libreria.io

Word on the water
www.wordonthewater.co.uk

Threadwell’s Bookshop
www.treadwells-london.com

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About Author

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鳥取県出身。芸術家、通訳者。日本、米国、ジャマイカ生活を経てロンドン暮らし、ほぼ30年。国内外で旅行、広告会社勤務の後、ロンドンで子育てをしながらアートの学士と修士号を取得。芸術活動、通訳、講師の傍、大学院でネパール行きの奨学金を賞与されたのをきっかけに、社会的企業「Studio23」を2008年に立ち上げ、ネパール山岳地帯の伝統テキスタイルの持続と環境保護の活動をしている。ここ5〜6年はチベット仏教と瞑想を通して、身体で感じる世界を模索中。

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