【ロンドン人1】遠藤和年「なぜ自分がそこで握るのか」

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現在ロンドンには約3万4000人の日本人が暮らしています。ロンドンに住むことになったきっかけや思いはそれぞれに異なり、それぞれの物語があります。そんな先輩ロンドナーたちに、ロンドンに来ることになった経緯や、ロンドンの良さや嫌いなところなどを忌憚なく話してもらう新シリーズ。これからロンドンで暮らしてみたいと思っている方、ロンドン暮らしを夢見ているすべての皆さんへ贈ります。

企画は当サイトでもコラムを執筆いただいている料理家の武山恵美さん、そして歌手でもありデザイナーでもあるMEGさん。お二人の幅広い人脈の中から生まれた本連載、これからお楽しみください! 記念すべき第一回は、Endo at the Rotundaで腕をふるう寿司職人、遠藤和年さんです。(あぶそる〜とロンドン)

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パンクミュージックをこよなく愛する、 自称他称パンク寿司職人、遠藤和年 / Kazutoshi Endo。 実家は綱島の緑寿司。 横浜生まれ横浜育ち、崎陽軒の焼売さえあれば生きていけるという生粋の浜っ子。三代目となるべくして生まれ、それを信じて寿司職人としてひたすら学んできていたが、ヘッドハンティングがきっかけで何故かロンドンに。その後はロンドンをベースに香港、ニューヨーク、ドバイなど、包丁を片手に世界中を飛び回る。紆余曲折を経て、2019 年 4 月、自身の名前を掲げる Endo at the Rotunda を西ロンドンのホワイト・シティにオープン。そしてオープン半年で 2020 年ミシュラン一つ星獲得の快挙。遠藤さんの寿司コー スはまさにエンターテインメント。最後の一貫を食した後は、 まるで感動のヒューマンドラマ映画を観たような、ノリノリのライブが終わり燃え尽きたような、そんな充実感がある。曲がったことが大嫌い、人情を何よりも大切にし、仕事に対してはパッションの塊。そんな彼の寿司劇場を是非楽しんでもらいたい。 (武山恵美)


遠藤和年「なぜ自分がそこで握るのか」

ロンドンへ来ることになったきっかけ

13 年前、 東京で寿司屋の板前をしていた時に、ロンドンの日本食レストラン「ZUMA」 のオーナーから2年越しに口説き落とされたのがきっかけです。僕は以前、日本食レストランの立ち上げなどで1年弱、スペインにいたことがあるのですが、その時にZUMAで働いていた方と知り合いだったことから、話が来ました。

東京では店も任されていましたし、自分がまず、 ロンドンに興味がなかった。あるとすれば、僕はブリティッシュ ・ロックが好きだったので、音楽だけ。最初は断りました。その後、店の事で少し悩んでいるタイミングで、また連絡があったので話だけ聞いてみることに。でもその時は全然乗り気じゃなかった。夏休みを利用して2泊4日のチケットを取ってもらい、まぁカムデン・タウンで洋服でも買って帰ろう!と。 それで、ヒースロー空港に着いてすぐに、直接 「ZUMA」へ案内されオーナーに「どうか?」 と聞かれても気持ちは変わらなかった。すると、彼が言ったんです。 今でも覚えてる。「ここは今後、グローバル化する。東京には板前がたくさんいる、誰もあなたに東京を背負ってほしいとは言わない。でもあなたがここで寿司を握るということは、ロンドンを変えることになる。男に生まれて、こんな素晴らしい話は他にはないだろ?」 と。 帰りの飛行機で 12 時間、寝ないで考えて、羽田に着く前には渡英を決意していました。

海外でのディレクション経験を経て、 現在の寿司屋を出店

全責任を任され、その後「ZUMA」 は香港・ドバイ・イスタンブール・アブダビ・マイアミ・ニューヨークへと店舗を広げていきました。お店の運営や従業員の育成を主にして、何か起こるとすぐ現地へ飛んだり。そうして、 ニューヨーク店の開店のオープンテープを切った時、店やスタッフの成熟を感じたと同時に、自分のここでの仕事は終わったと思ったんです。ZUMAに来て8年が経っていました。それからすぐに辞表を出し、10 年来の友人でもあった今のビジネスパートナーと、板前という職業の集大成となるような店を出そうとを決めたんです。最初はロンドンかニューヨークで考えていたのですが、 良い日本人の魚屋さんとの出会いがあり、その方の熱意に惚れ、全面的にサポートすると言ってくれたので決めました。

日本に戻らず、ロンドンで出店

僕は包丁 1 本で生活をしていて、 なぜ自分がそこで握るのかという理由が大事で。これってとても精神的なことですが、 実家の寿司屋を継がないまでも選んだ道、だからここで握る。それが強かった。 先日、2020 年度のミシュランを獲りました。やはり、海外の地だからこそ人への有難さもあり、ここまでミシュランに喜べるのはこの場所がロンドンだからだと思います。

最大のハプニング

それは今の店を開けた瞬間に起こったのですが、若い衆たちのビザのトランスファーが出来ていなかったんです。 ビザは持っていたのですが仕事ができない。 3カ月後になると。予約はすでに満席状態。15 席だったのを 10 席に抑えて、3カ月すべて自分で対応しました。朝の仕込みから、仕上げに到るまで、すべて1人で。初めてでした、店に来るのが怖いと思ったこと。定休日の月曜の夜は特に。明日からまたあれだけのプレッシャーの中やらなきゃいけないんだと考えると怖くて。 一生忘れません、もうそれはそれは体力的にも精神的にも限界でした。 それでも、あの経験があったことで彼らの下についていた現地スタッフたちの意識が変わったんです。 僕の姿を見て、「なんとかしなきゃ」とものすごく頑張ってくれて、びっくりするくら い成長した。僕にとって外国人である彼らがこんな風に助けくれるっていうのは、本当に有り難かったです。

相手へのリスペクトと美意識の国

イギリスは 「良い」「悪い」 がはっきりしていて、相手へのリスペクトを感じます。単純かもしれないのですが、 自分がミシュランを獲ってからは、名前に “Mr.” をつけて呼ばれるようになりましたし、結果を出したものに関しては、すごく認めてくれます。日本の好きなところは、すべてにおいて美意識がすごいところですね。 気や心、ルーティーンであるとか。相手の事を思いやる「美」。見た目の綺麗さだけでなく、心の綺麗さが美しいなと思うんですよね。

今後、 やっていきたいこと

精力的にコラボレーションをやっていこうと思っています。特にイギリス人のシェフと。いわゆる、文化交流ですね。コラボというアプローチでこちらに住んでいる人に、少しでも寿司の良さを知ってもらっていただけたらいい なと思っています。

(インタビュー記事起こし:吉田真央)


ロンドンの好きなエリア:ノッティング・ヒル

のんびりしたところが好きですね。あとは雰囲気良くお酒が楽しめるのがいい。今の自宅からは離れているのですが、このエリアに友人から誘いがあるとすぐに飛んでいきます。ロンドンではお酒を楽しむといいですよ。

遠藤さんのオススメの店

1. Sumi スミ
遠藤さんが昨年立ち上げた日本食レストラン。ノッティング・ヒルという場所のイメージから、地元に愛される町の鮨屋をイメージしてのオープン。店名は遠藤さんのお母様のお名前だそう。
157 Westbourne Grove, London W11 2RS
https://www.sushisumi.com

2. Couverture & The Garbstore  クーベンチャー& ザ・ガーブストア
ファッション好きのロンドンナーたちがこぞって通う、ハイセンスなセレクトショップ。ロンドン出身の旬なデザイナーの最新アイテムが勢揃いします。
188 Kensington Park Road, London, W11 2ES
https://www.couvertureandthegarbstore.com

3. Core  コア
今年ミシュラン3つ星獲得の快挙を成し遂げた高級モダン・ブリティッシュ。ゴードン・ラムジーでヘッドシェフとして3つ星を維持し続けたクレア・スミスさんによる渾身のプロジェクト。
https://www.corebyclaresmyth.com

4. Orasay オラセイ
食通から口コミが絶えない話題の店。モダンとヴィンテージが調和した洗練された空間で、本格的なブリティッシュ料理をいただけます。
31 Kensington Park Road,  London W11 2EU
https://orasay.london


遠藤 和年 Kazutoshi Endo
横浜の老舗寿司屋の三代目として生まれ、日本で高名な鮨職人の元で厳しい修業を積んだ後、スペインでの経験などを経てZUMAからのオファーを受ける形で2007年に渡英。以後、寿司チームを率いながら折に触れて香港、ニューヨーク、ドバイなど世界を舞台に活躍。2019年に独立し、西ロンドンにある元BBC本局ビルの上階にEndo at the Rotundaをオープン。半年後にミシュラン1つ星を獲得。倫理的な観点から地元英国の信頼できる食材を使った最高級の寿司芸術を披露し、グルメたちを虜にしている。コロナ後のロックダウン初期にはロンドンへの感謝の気持ちからボランティアで医療従事者へ寿司を届けた。また社会貢献とお客さんへの感謝を込めてグルメテイクアウト弁当を創作し人気を博している。
https://www.endoatrotunda.com

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歌手でもあるデザイナーのMEG、サパークラブ「MEGUMIS」主宰の料理家、武山恵美が発起人となり、2019年にロンドンで活躍している日本人に話を聞いてコンテンツを起こす新ロンドン・ガイドブックを企画。しかし制作途中でまさかのパンデミックとなり、ブック形式の出版を一旦保留とし、取材を終えていたインタビュー・コンテンツを救うべくウェブメディア掲載へ。海外移住や海外での仕事を考えている人に刺激をもたらし、背中を押すきっかけになることを願って企画された。インタビュー起こし前半は吉田真央、後半はあぶそる〜とロンドンが手伝っている。

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